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第129話 C級冒険者アーリンの憂鬱

 


 私はアーリン。C級冒険者の魔法使いだけど、腕は確かよ。この間もA級冒険者のリオを試合でもう少しの所まで追い詰めたんだから。実力はA級ってわけよ。だから、A級パーティの美少女戦隊に入れてもらったわ。それなのに、ちょとへましたもんだから、今は魔物二匹と組まされてるの。ええ。仲間に魔法を撃った私が悪いのは確かよ。だからと言って、魔物二匹とパーティはないわ。見た目は人間よ。こいつらは。でも、私のような達人の目から見れば魔物だって丸わかりよ。一人目、いや一匹目は一見渋い中年剣士よ。見た目はね。でも、その正体は海賊の骨よ。骨。エイハブって渋い名前を持ってるけど、私は骨って呼んでるわ。心の中で。それで二匹目は一見かわいいお姉さんよ。見た目はね。自分でも人間だと言い張ってる変な奴だけど、その正体は幽霊よ。幽霊。大事な事だから、二回ずつ言ったわ。とにかく、私のパーティは魔物二匹に私なの。C級と言えど、サークルアイ一番のパーティの暁にいた私が魔物と組んでるのよ。いっそパーティ名も美少女戦隊でなくてお化け戦隊にでもすればいいのにね。


 骨は剣の達人だけど、魔法はからっきし、私は自分で言うのもおこがましいけど魔法の達人、だけど剣はからっきし、当たり前だわ。魔法使いなんだもん。幽霊に至ってはまるっきしのド素人。それなのに、リーダーのアメリは私達三人いや三匹を魔法も剣も一流の魔法剣士に仕立て上げるつもりらしいわ。そのために、アメリの師匠のメアリーの所に連れていかれたわ。メアリー師匠は一見優しそうなおばさんだったわ。稽古が始まるまでわね。でも、ここにも魔物がいたわ。その正体は鬼よ。鬼。鬼に私達三人いや三匹は徹底的にしごかれたの。午前中にダンジョンで戦って疲れきってるのによ。ぼろきれのようになった私には安心して眠る住処もなかったわ。私は苦手のオバケを克服するために幽霊船で寝泊まりさせられてるの。骨も幽霊も夜になると元気いっぱいになって騒ぎ始めるし、何より船のあっちこっちから謎の声が聞こえるし。うるさい、怖いでよく眠れなかったわ。つらい。おうちに帰りたい。おばあちゃん。


 翌朝、アメリ達が迎えに来た。


「どう?アーリン、よく眠れた?」


「はい。よく眠れました。アメリさん。」


 眠れようが眠れまいが私の答えは一つだ。それに対してアメリは私の顔色を見てから言う。


「うーん。どうやらよく眠れなかったみたいね。もう一晩ここで寝ようか。」


 おばあちゃん。ここにも鬼がいたよ。


「じゃあ。行こうか。」


 私達お化け戦隊は東のダンジョン地下二階で降ろされた。それにしてもサオリのこのワープと言う能力は凄いわ。なんでもチート能力って言うらしいけど、私なら冒険者なんて危険な事を辞めて、商人としてお金儲けするわ。遠くに行き放題じゃない。しかも安全に。まあ、でもこの人たちはあまりお金に執着してないから、そういうのは興味ないのかな?もったいない。


「じゃあ、今日は船長は剣無しで、アーリンは魔法無しね。」


 アメリがまたとんでもない事を言い出したわ。骨の魔法なんて初歩魔法のファイアーボールがやっとだし、私の剣なんて昨日初めて習ったのよ。幽霊に至っては両方ともダメダメじゃないの。


「そんな事言っていて、死んだらどうするんですか?エイハブさんとマームさんと違って私は生身の人間だから下手すりゃ死んでしまいますよ。」


「もちろん。いざという時は安全第一でお願いしますよ。なるべく使わないで魔物を倒せと言う事よ。」


 私の必死の抗議に脳筋はボケた事を返した。魔物との戦いはいざと言う時じゃないのか。あっちだって命がかかってるんだから必死だ。こっちも全力で当たらないと、足元を掬われるかもしれない。それなのに得意な技を使うな、なんて。言いたいことはあっても言い返せない。下っ端はつらいよ。まあ、苦手の技を実戦で磨けと言うアメリの意向も分かるから、ここは大人しくひくわ。


「わ、わかりました。」


 アメリ達4人が古城のダンジョンに行った所で、まずは作戦会議だ。


「あのー。どうします?」


「わしが剣を使ったら、魔物を一人で全部始末してしまうから、アメリさんは使うなって言ったんだろ。逆にアーリンさんが魔法を使ったら、これまた一人で全部やっつけてしまうしね。」


 ここにも脳筋がいた。そんなわかりきった事をさも自分だけが気づいたようにどや顔でいわれてもね。


「それで、どうします?」


「うーん。剣を持ったアーリンさんとマームで魔物をやっつけてもらいましょうか。わしは魔法による後方支援ね。」


 魔法による後方支援って言ってもあんたの魔法はやっとこさの小さなファイアーボールだけじゃない。まあ、でも剣が使えないんじゃ仕方ないわね。


「わかりました。私が前衛で剣を振りましょう。ただし、先頭はマームさんにお願いしますわ。」


「え!私なんてアーリンさんよりも弱いただの村娘よ。先頭は無理よ。」


「いや。私は生身の人間。マームさんは不死身。」


 の化け物と続けたかったがさすがにそれはやめた。


「私は人間よ。村娘よ。か弱いのよ・・・」


 なんかいろいろとブツブツ言っていたが、無理やり押し出して先頭に立たせた。


 マームを先頭にしばらく歩くとホーンラビットが現れた。昨日、メアリー師匠の所でアメリからいろいろと教わっていたから知っているが、もちろん見るのは初めてだ。こんなかわいいウサギさんが凶悪な魔物だなんて、なんでも見た目だけで判断するなって事か。まあ、骨も幽霊も見た目はイケメンに美女だからね。私はいつも学んでいるって事だわ。


「よし。みんな。わしのファイアーボールで仕留める。」


 そう言って骨が呪文を唱え始めた。え?今から呪文を唱えるの?遅くない?メアリー師匠に呪文の前倒しを習ったんじゃなかったの?


 私が心配した通り、ホーンラビットはそんなもの裕著に待ってくれはしなかった。先頭のマームに向って突進してきた。棒立ち状態のマーム。


「危ない!」


 私はマームを突き飛ばした。代わりに私をホーンラビットの角が襲った。私も何もできずに固まった。しまった。幽霊は角で突かれたぐらいで死にはしないんだからほっておけばよかった。死ぬ間際に何を下らん事考えてるんだろうと、冷静な私が自己分析していた。これだけいろいろと考えれるなら、代わりに体を動かせよって事なんだけど、体は固まって動かないんだけど頭は高速回転してたんだ。人間の事故で死ぬ間際ってこういうもんじゃないかな。今まで生きてきた人生を走馬燈のように見て。え?走馬燈みてないな。


「とりゃー!」


 あわてて目を開けると、私の前に踏み込んだ骨がホーンラビットを居合抜きで一刀両断にしていた。


「骨いや船長。ありがとうございます。」


「いやー。アメリさんに言われた事をもう破ってしまいましたね。ところで骨って?」


「船長は男らしくて骨があるって事ですよ。今のはいざと言う時だから別に良いんじゃないですか。」


「わしが男らしいですか。」


 骨は勘違いして赤くなっていた。脳筋は単純で助かった。


「と、とにかく。ホーンラビットは突進の最後に大ジャンプしてくるから、気をつけろとアメリさんが言ってましたよ。ゆ、いやマームさん、その時に斬り払えば避けられないと。まあ、目をつぶって固まってしまった私が言う資格無いですけど。あと、船長。魔法は私の専門分野だから言わしてもらうと、呪文はすぐに唱えたほうが良いですよ。呪文の前倒しはメアリー師匠に習ったばかりでしょ。あ、私何を偉そうに仕切ってるんでしょうか。ごめんなさい。」


「いや。いいですよ。わしとマームはEランク冒険者。Cランク冒険者のアーリンさんがパーティを仕切るのは当然ですよ。あ、でも、剣の専門家のわしから言わせてもらうと、ホーンラビットなんて雑魚なんだから落ち着いて当たれば何も怖くないですよ。」


「わかりました。頑張ります。」


「私も、ただの村娘で人間だけど頑張る。」


 私達魔物戦隊いや美少女戦隊2軍は決意も新たに歩き出した。


 しばらく歩くとホーンラビットが二匹現れた。


「ファイアーボール!」


 今度の骨の魔法は早かった。けど、早過ぎない?あんたのそのひょろひょろの鈍いファイアーボールじゃ動きの速いホーンラビットに当たらないわよ。案の定、炎の球を避けたホーンラビットの一匹が私に向ってきた。怖い。怖いけど、必死に耐える。剣を持つ手が恐怖で震える。突進の最後にジャンプをしてきた。


「いまだ!」


 骨の掛け声に思わず、震える剣を横に払った。私の横に払った剣がホーンラビットを真っ二つにした。やった。やったわ。でも、喜んでいる暇はないわ。幽霊に襲い掛かっていたホーンラビットの死角から斬りつけた。不意を突かれたホーンラビットは私の遅い剣でも避ける事ができず。簡単に絶命した。


「すごーい。アーリン。」


 幽霊が褒めてくれた。


「どうです。ホーンラビットなんて怖くないでしょ。」


 骨も励ましてくれた。なんかコツを掴めたみたい。私は相変わらず使えない幽霊と骨を従えて、ホーンラビットを倒し続けてだんだんと剣の腕を磨いて行った。なるほどね。技を鍛えるのに実戦に勝るものはないわ。アメリの魔法禁止の意図がわかったわ。私は嬉々として剣をふるい続けた。


 やがてボス部屋へと来た。アメリにもらった資料によるとボスはホーンロード一匹とホーンラビットが二匹って事らしい。


「どうします?わしも剣を使いましょうかね?」


 ボス部屋だから、万全を期して自分も剣を使おうかと骨が聞いてきた。たしかに骨が剣を使えば簡単だ。ボスのホーンラビットも一刀両断だろう。だが、それでは簡単すぎる。


「いや。ここもアメリさんの縛りで行きましょう。ただし、骨いや船長の魔法を撃つタイミングは私に仕切らせてください。」


「何か考えがあるんですね。わかりました。アーリンさんにお任せします。」


 私達が部屋に入るとアメリにもらった資料の通りにホーンロードと二匹のホーンラビットが待ち構えていた。


 私の後ろの骨はもうすでに呪文を唱えていた。


「うわー!」


 掛け声とともに幽霊が走り出すと、左右のホーンラビットが向って来た。2対1では幽霊はとてもじゃないけど敵わないだろう。しかし、死にはしないからほっておく。


 そして本命のホーンロードが私と骨に向って走りだしてきた。慌てた骨が魔法を撃とうとしているが私は手で制した。


 ホーンロードはついには必殺技の大ジャンプを繰り出した。


「今よ!」


「ファイアーボール!」


 骨のファイアーボールがホーンロードに炸裂する。ジャンプ中ではいくら素早いホーンロードでも魔法をかわす事は出来ない。


「そして、突きー!」


 私は飛んで向って来るホーンロードにカウンターで突きを合わせた。骨とのコンビでツープラトンの必殺技を出せた。アメリの必殺技、ファイアー突きである。ホーンロードは一発で絶命した。


 後は残りのホーンラビットを始末するだけである。ホーンラビットがジャンプしてきた所をカウンターで斬った。


「見事です。」


 骨がハイタッチをしてきた。


「あなたもよ。船長。」


 私もハイタッチを返した。アメリ達の国で流行っているらしいけど、これは盛り上がる挨拶だ。


「なんか、わしも魔法のタイミングがつかめましたわ。今までわしは魔法は遠くから撃つもんだとばかり思ってたんですが。魔法も剣も撃つタイミングは一緒なんですね。」


「そうよ。やみくもに撃ってもかわされるから、かわされないここぞと言うタイミングで撃たないとね。」


「なんか二人で盛り上がってるけど、私だけカヤの外で寂しいわ。」


 幽霊が拗ねていた。


「いやいや。マームさんだって一人でホーンラビットを倒せるようになったじゃないですか。ただの村娘から、できる村娘になりましたよ。」


「そ、そう。」


 私がフォローすると幽霊は青い顔を赤くして照れていた。


 私達が魔石を拾って鞄に詰めていると扉が開いた。外にはアメリ達が待っていた。


「どう?アーリン。」


「はい。バッチリです。」


 私は元気よく答えてアメリとハイタッチをした




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