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第127話 魔物軍団

 

 久しぶりに来たセシルの町の冒険者ギルドは閑散としていた。冒険者がクエストに出張っている時間帯ではあるが、それにしてもおかしい。建物の中には誰もいない。いや、いた。


「あ、アメリさん達。助けてくださーい!」


 カウンターの奥から出てきた受付嬢のアリシーがオレ達の姿を見つけると、カウンターを乗り越えて走って近寄ってきた。


「どうしたんですか?アリシーさん。落ち着いて。ゆっくり話して。」


「じ、実は魔物の大量発生がありまして。それで、みんな出張ってまして。」


 オレが問いかけると、アリシーは堰を斬ったように一気に語り始めた。その話を要約すると、近くの森で魔物の大発生があってそれが少しずつであるがセシルの町の方へと移動しているため、それを阻止すべく冒険者を始め、ギルドの職員まで腕の立つ者達は全員、魔物達とセシルの町の間にあるカメイ村に集結していると言う事だった。


「うん。わかった。オレ達もすぐに向かうよ。その前にこの人の冒険者登録をお願いします。」


 オレはマームをアリシーの前に押し出した。この非常時に何を呑気な事を言っているんだと言うような顔で睨まれたが、アリシーは渋々ながらも手続きをしてくれた。オレもそう言う事は後にしても良かったが、命をかけて戦うマームがタダ働きにならないようにオレなりの配慮であった。


 オレ達は冒険者ギルドを出ると、町の広場でミーティングをした。町の人々にはまだ知らされてないのか、のんびりとした日常がそこにはあった。


「町の人達が避難してない所を見ると、まだそんなに近くまで来てないって事ね。」


 オレが広場で思い思いに行きかう人達を眺めながら言うと。


「まあ、カメイ村は歩いて三日の距離だし、さらに森はそこから一日の距離だから、まだ余裕って所じゃないの。」


 サオリが答えた。


「それでカメイ村は前にクエストで行った事あるよね?サオリ行けるよね?」


「うん。憶えてるよ。じゃあ、さっそく行こうか。みんな、わたしにつかまって。」


 オレ達はサオリのワープでカメイ村へと来た。カメイ村とセシルの町は歩いて三日もかかる事もあり、先に出発した討伐隊の本体よりも先に到着したみたいだった。村には馬や馬車できた先発隊が戦いの準備を進めていた。オレ達は状況を把握するために冒険者ギルド長のトマスを探した。トマスはすぐに見つかった。ガラの悪い冒険者どもに指示を飛ばす一際大きな男がトマスだったからである。トマスを見つけるとすぐに向かった。


「トマスさん。」


「おお、アメリさん達、美少女戦隊か。来てくれたんだ。これは心強いぞ。我がギルドのナンバーワンエースパーティの到着だ。」


 オレが声をかけると、トマスは大きな声で歓迎してくれた。それにしてもナンバーワンは言い過ぎだろう。


「嫌だな、ナンバーワンにはこれから成るんですよ。それでどういう状況なんですか?オレ達はセシルに戻ったばかりで状況を良くつかんでないんですよね。」


「おお、謙遜するところも良いね。それで状況なんだが・・・・」


 トマスは魔物大発生のあらましを話し始めた。それによると、オークの被害がカメイ村周辺で多発し、それの討伐に向った冒険者達が森の中にオークの集団いや軍団を見つけたと言う事だった。その中の隠密行動に優れた男が命がけで見てきた話しによるとその数は軽く五百を超え、それぞれがこん棒や剣で武装していて周囲の動物や魔物を食い荒らしながらゆっくりとこちらに向って行進しているって事だった。トマスの予想によると、このままのペースでは二日後に森を出て、三日後にはカメイ村に来ると言う事だった。それを向かい討つために、カメイ村の外に前線基地を今築いている所だった。前線基地ができ次第ここでオーク軍団を迎え撃とうと言う所だった。


「そんな、大きな軍団だったらオークキングがいますね?」


「ああ、間違いなくいるだろうな。」


「オークキングを討伐したら、後は烏合の集だから簡単に残りの軍団も壊滅できますよね?」


「ああ、うちの冒険者達の戦力なら楽勝だろうなって、まさかお前さん達・・・・」


「そのまさかですよ。それでオークキング討伐の報酬と討伐ポイントをはずんでくださいよ。なんせ、うちのパーティには新人が三人も加入したんですから。」


「ば、ばかな。五百体を超すオーク軍団の中にお前さん達だけで切り込んで行こうってのかい?」


「まさか、いくらオレ達でも500対6じゃ勝ち目はありませんよ。でも、やりようによっては500対6が10対6ぐらいになるんじゃないですかね。」


「それは奇襲をかけるって事かい?面白い。やってみな。オークキング討伐のあかつきには報酬をはずもうじゃないか。ただ、言っとくけど、絶対に無理をするなよ。死ぬんじゃないぞ。」


「ありがとうございます。じゃあオレ達のパーティは敵の大将オークキングを狙いますんで、よろしくお願いします。」


「おう。頑張れよ。死ぬんじゃないぞ。」


 オレ達はトマスと別れると村外れに来ていた。


「それでどうするのアメリ?なんか良い作戦でもあるの?」


 心配したサオリが聞いてきた。


「そうねえ。桶狭間作戦で行こうかと。」


「桶狭間って今わたし達がやろうとしている事自体が桶狭間じゃないのよ。敵の大軍勢の大将を少数で潰して大軍を退ける。」


「うん。そうなんだけど。桶狭間って敵の油断と地の利を生かして信長が勝利を収めたんでしょ。じゃあ、オレ達もそれに見習おうと思って。」


「ねえ。桶狭間って何?」


 オレとサオリが作戦について話し合っていると桶狭間を知らないリオが聞いてきた。オレはリオとセナとアーリンとマームの異世界の人達に戦国時代の有名な戦いについて解説した。


「だけど、昔の武者軍団と違ってオークキングは群れの中心にいると思うわ。そんなオークキングにどうやって奇襲をかけるの?」


 セナが聞いてきた。何万の武者軍団とは違い五百体ぐらいの小さな集団である。小さな集団である事がかえって幸いしてオークキングは絶えずその中心にいて群れに守られている。群れの中心にいるなら、その群れの中心に直接乗り込めば良い。


「群れの中心に奇襲をかけるのよ。」


「え?どうやって?」


「君たち、オレらにはサオリさんと言う強い味方がいるのを忘れたのかい?」


「あっ。そう言う事か。」


 セナを納得させたオレは戦いの準備をした。この度の戦いが白兵戦になる事もあり、剣術が得意でないアーリンとマームはカメイ村に残ってもらう事にした。


 オレとサオリでまずは戦場になる森の下見に行った。もちろんサオリのワープ使ってである。森の中をワープで進んで行くとオーク軍団はすぐに発見できた。森の中にオークが500匹超である。いやがおうにも目立つ。ついでに言えばオークキングも鑑定を使わずともすぐに発見できた。オーク自体が大きいがそれをはるかに凌駕する大きさである。集団の中でも目立って大きかった。オレ達はオークキングを確認するとすぐにカメイ村のリオ達の元に戻った。さっそく作戦会議である。


「今、サオリと見てきたけど。オーク軍団は聞いたよりも早く、森の小道をこっちに向って進んでいるわ。森の出口はせいぜい一人か二人しか通れない小道よ。森の中にいる今がチャンスだわ。オレ達は森の出口で待ち構えよう。」


 オレは作戦をみんなに指示した。やっぱりアーリンも参戦してもらう事にした。


 森の中を進んで来たオーク軍団の先頭は狭く細い崖の道からようやく見通しの良い草原に出られた事もあり、足取りも軽かった。崖の道から草原に出ようと足を踏み出した途端、足元の地面がなくなった。足元を掬われたオーク軍団は次々と落とし穴に落ちた。落とし穴の底にはもちろん槍が仕込んであった。落とし穴に気づいたオーク軍団が歩みを止めたところに、今度は炎の塊が飛んできた。歩みを一旦止めたものの敵がたった二人の魔法使いである事を確認したオーク軍団は数の暴力で圧倒すべく我も我もと森から飛び出した。落とし穴にはまった仲間の屍を乗り越えてである。そして軍団の中心にいたオークキングも集団の流れに沿って慎重に崖の道を出ようとしたときである。突然崖の上に五人の人間が現れた。


「ファイガ!」


 サオリの魔法が開戦の合図になった。オレとリオとエイハブが崖の上から飛び降りた。エイハブが森の出入り口を固め、森に戻ろうと殺到するオークどもの相手をした。ここは道の両側が小高い崖になっていてまさに一本道になっていた。森に戻るにはこの道を戻るか大きく迂回するしかない。入り口に殺到するオークにサオリの火炎魔法であるファイガが容赦なく炸裂した。今現在オークキングを守るものはオークナイト二匹しかいない。二匹のオークナイト相手にリオが切りかかった。


「ほら!よそ見してるんじゃないぜ!お前の相手はオレだ!」


 そしてオレは敵の大将であるオークキングに切りかかった。オレの渾身の面はオークキングの盾に防がれた。お返しとばかりオークキングも斬りかかって来た。オレもその剣を盾で防ぐと、縮地を使い距離を取った。


「ファイアーボール!」


 離れざまに撃ったファイアーボールがオークキングに当たった。


「そして突きー!」


 ファイアーボールが当たり怯んだオークキングにとどめの突きを入れた。オークキングごときは今のオレにとってはたいした敵でもない。リオも二匹目のオークナイトを仕留めたところだった。オレはオークキングとオークナイトをアイテムボックスにしまうとサオリを呼んだ。


「サオリ!終わったよ!」


 サオリはオレとリオとエイハブの白兵戦組を拾うと、迫る多くのオークから逃げ惑うセナとアーリンの所にオレ達を運んだ。


「セナ、アーリン。もう大丈夫。オレ達の後ろに下がって。アースウオール!」


 オレは土魔法で砦を作った。


「ファイアーボール!」


「ファイガ!」


「サンダービーム!」


 後は砦に殺到するオークに向けての魔法の無双合戦である。合わせて200も倒した頃であろうか。敵わないと思ったオーク達がようやく逃げ始めた。


「よし。帰るか。」


「アメリ。追わなくて良いの?」


 オレが帰る合図をするとまだ戦い足りないのかリオが聞いてきた。


「うん。オークキングもいないし、もうこれ以上は攻めてこないでしょう。この後は他の冒険者の仕事よ。オレ達の魔力量も残り少ないし。帰ろう。帰ろう。」


 オレ達はカメイ村に戻った。冒険者ギルド長のトマスは20人ほどの冒険者達と穴を掘ったり、木で足止めを作ったりして村を囲む柵を作っている所だった。


「トマスさーん!」


「おや、アメリさん。今から討伐に向かうんかい?」


「いや。もうやっつけましたから。後始末に向ってください。頭のオークキングはやっつけたけど、まだ半分は生き残ってますから。残党がこの村にも来るかもしれませんので。」


「え?今何て言った?」


「だから、オークキングはやっつけたから、残党の後始末に向ってくれと言いました。」


 オレがそう言うとあらかじめアイテムボックスから取り出してリヤカーに乗せておいたオークキングとオークナイト二体をリオが運んできた。


「なにー!これはオークキングに間違いない。それにしても早すぎる。馬を飛ばしても往復一日かかる所まで行ってもう倒してきたって言うのか。信じられん。」


「信じる信じないは置いといても、まずオーク討伐をみんなに命じてください。まだ半分は生き残っていると思うので。」


「ああ。わかった。」


 トマスは一つ大きくうなずくと冒険者達に伝令を飛ばしに走った。トマスの命令に従い、馬に乗るもの、馬車に分乗するものなどのいわゆる足を持った冒険者達は森へと駆け出して行った。


 オークキングという頭を失った軍団であったがまだ何百頭も森周辺に生き残っており、素早く向かった冒険者達に討伐されて冒険者ギルドはしばらくオークバブルでにぎやかだった。ちなみにオレ達の討伐ポイントはエイハブ、マーム、アーリンの冒険者カードに入れたものだからマームはFとGの二ランクをすっ飛ばし、いきなりEランクになった。これでダンジョンにも大手を振って挑める。なぜなら初心者のFとGは安全のためにダンジョン挑戦を認められてなかったからである。


 ちなみに、マームはいきなりのEランクデビューと合わせて美少女戦隊の一員と言う事でセシルの町で一目置かれる存在となった。



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