第12話 第二の必殺技
次の日、オレは孤児院にサオリを迎えに行くと事情を話した。
「そうなの。困ったわね。アメリがいないとわたしもダンジョンに潜れないし。いっその事、家を出ちゃったら。」
「家出をして、同じ町内に住むの?不良学生みたいじゃん。だめ。だめ。おじ夫婦にはお世話になってるから不義理はできないよ。いつか、家を出るとしてもそれは今じゃないわ。」
「ふーん。そうか。わたしみたいに気楽な境遇じゃないもんね。あ、そうだ。師匠に相談してみれば。なんかいい知恵を出してくれるかもよ。」
「そうね。冒険者の先輩にどうやって、親を説得したか教えてもらうか。」
オレ達はメアリーを訪ねた。
「どうしたの?今日は早いわね。ダンジョン行かなかったの?」
「はい。それが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
オレは事情を話した。
「うん。まあ、普通は反対するよね。アメリは食堂を継げばいいから、危険を冒してまで冒険者する必要もないもんね。」
「師匠はどうやって、親を説得したんですか?」
「わたし?わたしんとこは貧乏でこどもがたくさんいたからね。お金さえ稼いでくれば文句は言われなかったわ。それにわたしは悪かったから、真面目に働くようになったと、むしろ褒められたわ。」
「えーっ。師匠はチンピラだったんですか?」
「チンピラじゃないわよ。失礼ね。そいつらの元締めみたいなもんよ。まあ、ヤングギャングといったところね。腕っぷしには自信があったの。それで、ある日、因縁をつけた男に逆にやられちゃって。それが冒険者だったの。それでその男に誘われて冒険者の真似事を始めるようになったの。」
「まさか、その男って?」
「そうよ。今の旦那よ。よくわかったわね。」
「わからいでか(笑)。」
師匠は自分より強い人に惚れたってか。師匠たちのなれそめも気になるけど、それよりも今はおばさんの説得だ。
「師匠たちのなれそめは今度詳しく話してもらうとして、おばさんを説得するいい知恵を貸してくださいよ。」
「そ、そうね。もうこうなったら。わたしは勇者ですって、告白しなさいよ。冒険はわたしの天命ですって。」
「あの、冗談の話じゃないんですけど。」
「冗談で言ってるんじゃないわ。真面目よ。もし、あなたが食堂の女将で人生を終えちゃったら、それはそれでおもしろいかもしれないけど、世の中の大損失よ。神からもらった能力を人類のために使う事なく終えちゃうって事だから。」
「そんな大げさな。」
「大げさなんかじゃないって。そうだ。神からもらった能力をおばさんに見せてあげなさいよ。そうすれば、一発よ。」
「えー、でも、わたしのアイテムボックスって魔法をよく知らない人から見たら、ただの便利な魔法にしか見えないんじゃ?」
「そうか。じゃあ、ただの魔法でいいんじゃない。ファイアーボールでもドーンとぶっ放して、わたしは魔法が使えますって。魔法を世の中の人のために役立てたい。わたしのように魔物から襲われてる人を救いたいで。魔法使いは希少だからね。おばさんも魔法使いを市井に埋もれさすようなことを言わないんじゃないかな?」
魔法が当たり前の異世界といえども、実際に魔法を使える者は稀であった。使えても薪に火をともすとかと言った生活魔法がせいぜいで、大量の魔力の放出と精度を求められる攻撃魔法を使える者は百人に一人もいず、使えれば魔法使いとしての輝かしい未来を約束されているようなものであった。そのため、魔法が使える子供は特別視され、優遇されていた。魔法を使える子供を家に閉じ込めておくような親はこの異世界にはいないだろうと言うことだった。
「魔法ですか。そういえば、魔法を使えるのは言ってないです。今度、おばに見せて見ます。」
せっかく師匠の所に来たので、稽古をしていこうということになった。サオリの槍とオレの剣を見てもらった。最後に町はずれで、オレとサオリの模擬試合をした。オレ達は事前にサオリの強化魔法で防御力をあげといた。魔法の直撃でケガをしないようにであった。
魔法を使っても良いという言葉でサオリが俄然やる気を出してきた。
「剣や槍はダメダメかもしれないけど、魔法が使えるとなると話は別よ。今日こそ、勝つからね。」
まだ、サオリに負けるわけにはいかないな。オレは第二の必殺技を出すことにした。
メアリーの始めの合図を待っている間、サオリは油断していた。オレは前倒しで呪文を唱えておいた魔法を放った。
「ファイアーボール。」
オレのファイアーボールがサオリに命中した。強化魔法のおかげでケガや気絶と言ったことはなかったが、試合は決まった。
「ひ、卑怯な。まだ試合開始してないのに。」
サオリがめちゃくちゃ怒った。火に油を注ぐが、ここは師匠の受け売りを言うことにした。
「魔物や悪者が試合開始の合図をいちいち待ってくれると思ってんの。油断してたあんたが悪い。今のが、わたしの第二の必殺技、卑怯撃ちよ。」
「あんた。魔物と同じレベルなの?しかも自分で卑怯とか言ってるし。卑怯者は絶対に主人公にはなれないわよ。そういう、人としてのレベルの低いやつは許しておけないわ。ファイアーボール!」
油断大敵って言っただけなのに。人格を全面否定された。
「く、卑怯者で結構よ。」
オレはファイアーボールをなんとか避けた。避けた所にさらにレイザービームが来た。オレはまともにくらってしまった。強化魔法のおかげでケガと気絶を免れたが負けてしまった。
「やったー。正義は勝つ。卑怯者は主人公にやられる運命なのよ。わかったか?この小悪党め。ひゃっははは。」
「う。いつも油断しないでいろと言っただけなのに。この言い草。どっちが主人公なのか思い知らせてやるわ。」
「やめ。やめ!」
メアリー師匠が止めに入った。
「アメリ!通訳して!
これからは、わたしの開始の合図があるまで、絶対に攻撃をしない事。
わかった?アメリ。サオリもよ。
でないと、終始がつかないじゃないの。
あと、魔法が一回でも当たったら負けね。」
オレはしかたなく、サオリに師匠の言葉を伝えた。
「さすが、師匠はわかってらっしゃる。卑怯者は反省しなさいね。」
サオリが勝ち誇って言った。
さすがにぐうの音も出なかった。
次の試合からはもうサオリにかなわなくなってしまった。試合開始直後に飛んでくるレーザービームをかわすことができなかったからだ。
サオリは自信を付けて、オレは自信を失って今日の稽古は終わった。
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ダンジョンに行かなくなって、一か月が経った頃。
オレが食堂で給仕の手伝いをしていた時、突然それはやってきた。
「魔物だ。魔物が暴れてる。」
店に駆け込んできた男が叫んだ。