第119話 マーム加入
登場人物紹介
・マーム・・・自分は人間だと言い張る痛い魔物。
・アメリ・・・自分はお嬢様だと言い張る痛い主人公。
・サオリ・・・自分は勇者だと言い張る痛い冒険者。
・リオ ・・・自分で美少女だと言い張る痛い女。
・セナ ・・・自分は魔法職だと言い張るのに剣で戦わされるかわいそうな女。
・エイハブ・・・わずかな時間で幽霊をナンパしたチャラい魔物。
「それで、あなた方は一体何者なんですか?」
「え?そんな事も知らずに船に乗ろうとしたの?」
船室の片隅でオレはマームとこれからの事について話し合っていた。口約束だけれど、雇い主のオレが雇われ主のマームと雇用契約を結ぶみたいなもんだ。それにしても、オレ達が何者かも知らずについてくるとは。
「ええ。とにかく海の上を彷徨うだけの暮らしから抜け出したかったから。エイハブさんから聞いた通りにしたら船に乗せてもらえるようになると知ったから。」
エイハブの言った事、それはオレと従魔契約を結べって事だけど、オレ達が何者かぐらいは知ってからにしようよ。
「ふーん。そうなんだ。毎日毎日海の上に立っているだけじゃ、たしかに嫌になるよね。それにもう海には未練もなくなったみたいだし。
それで、オレ達は簡単に言うと冒険者ね。」
「冒険者だったんですか。金持ちか身分の高いお嬢様方かと思ってました。」
「あー。船で遊んでいたからか。お嬢様と言えるのはオレくらいで後の奴らは卑しい身分の奴らよ。
それで、冒険者のパーティの一員であるあなたにも当然ダンジョンに潜ったりしてもらうから。」
「え。私もですか。私なんてただの村娘ですよ。剣も魔法も何にもできないんですよ。」
「大丈夫。オレ達が教えるし。第一、マーム。あなたは強い。」
「えー。強くないですよ。ただの村娘ですから。」
マームはただの村娘を何度も強調するが、自分が魔物だと言う事をわかっているのか。
「あなたはただの村娘でなくて幽霊なのよ。」
「え。私が幽霊。私は生きてますよ。やだな。ほら、体もちゃんとしているし、こんな幽霊なんていないでしょ。」
そういうと、マームはオレの前に立って一回りして見せた。
「幽霊のあなたは、オレの使い魔になる事でランクアップして受肉できたのよ。まあ、幽霊だと言う事を認めたくないんだったら、あなたは魔物よ。」
「魔物だなんて、私はそんな恐ろしい物じゃありません。」
「あー。もう面倒くさいなあ。本人が認めないならどうでもいいわ。じゃあマームは人間よ。でも凄い力も持ってるし魔力も強いわ。」
「え。私が。そうなんですか。」
マームは自分の手を見た。
「とにかくあなたは強いから大丈夫よ。でも、サークルアイに滞在中は船長とお留守番ね。」
「サークルアイに滞在中ってあなた方はどこに向っているんですか?」
「オレ達の旅の目的地はとりあえず王都キンリーね。」
「キンリーですか。大きい町なんでしょうね。」
「うん。大きいよ。」
「楽しみです。」
オレ達は日が暮れる前にサークルアイの港に帰り着いた。マームの泊まる場所であるが、いくら魔物と言え男女が二人きりで船に一緒に泊まるのはまずいと言う事で、新たに三人部屋を借りてオレとサオリと一緒に泊まる事になった。
翌朝、オレ達はマームの身の回り品を買いにサークルアイの町に出かけた。
「うわーすごい。なにこれ?」
マームは大興奮であった。無理もないマームが生きていたころから30年も経っているのである。見るもの聞く物初めての物ばかりである。それにたとえ30年経ってなくても田舎娘のマームはサークルアイの賑わいに興奮したであろう。
「こんなに服を買っていただいてありがとうございます。私なんかのためにお金をいっぱい使っていただいて。」
マームは感激して泣いていた。
「まあ、あなたはオレの使い魔なんだからそれくらいは買ってあげるよ。でもこれはあげたんじゃないから、ダンジョンで稼げれるようになったら返してもらうし、自分のお小遣いぐらいは自分で稼いでもらうよ。」
「え?お小遣いをもらえるんですか?」
「お小遣いどころか、給料をあげるよ。」
「魔物の私にもお金を分けてくださるんですか?」
「やっぱり魔物って自覚してるんだね。別にオレ達は人間も魔物も差別しないよ。ただし稼いだ分は全部こちらで一旦預からせてもらうけど。オレもリオ達もみんな、そうして集めたお金の中から給料をもらってるから、マームもそうしてもらうよ。」
「アメリさん。」
マームは再び感激して泣いていた。
マームのために買った荷物でオレ達は手がいっぱいになった。それをオレは片っ端からアイテムボックスに入れた。
「い、今、荷物が消えましたよね。」
「そういう魔法だから。」
荷物が忽然と消えたのにびっくりしたマームにアイテムボックスの事を魔法の一つとして説明した。この異世界では説明のつかないものは魔法の一言で済まされて便利だった。
「その魔法は大きい物でも消せるんですか?」
「正確には消してるんじゃなくて、倉庫にしまってるんだけど。そうね。やった事ないけど家一軒ぐらいは大丈夫じゃないかな。」
「家!?そしたらその魔法を使えば儲け放題じゃないですか?」
アイテムボックスの有効利用法一目で見抜くとはマームは中々頭が良い。
「確かに貴重な物や大きな物をこっそりと運べて儲けられるわね。でも、オレ達は商人じゃないからそんな事しないよ。オレ達いやオレが冒険者をしているのは金もうけだけが目的じゃないもん。」
オレはオレの両親が魔物に殺された事、そして仇を討つために冒険者をしながら腕を磨いている事を説明した。
「こんなに若いのに苦労したんだね。」
マームはみたび泣き出した。よく泣く女である。
「まあ、オレだけじゃないし、セナもそうだし。この世界じゃよくある事よ。」
「アメリさんって強いのね。私なんてくだらない事で自ら命を絶って・・・」
今、死んだ事を認めたぞ。まあ、空気を読んでるオレはそんな事をいちいち突っ込まないけど。
「まあ、マームにも強くなってもらうよ。」
「はい。頑張ります。」
マームがオレの手を握って決意を新たにした。
「今のはアイテムボックスって言うオレのオリジナル魔法なんだけど、サオリの魔法はもっとすごいよ。サオリ。みんなを船までお願い。」
「ラジャ。みんな、わたしにつかまって。」
サオリにつかまるみんなと違い、マームが戸惑っていた。戸惑うマームの手を掴みサオリが言う。
「じゃあ。行くよ。ワープ!」
オレ達はエイハブの待つ船にワープした。以外にもエイハブと違いマームは大人しかった。
「今のがわたしの魔法のワープよ。でもあんまりビックリしなかったみたいね。」
「こ、腰が抜けた。」
サオリがちょっと残念そうに言うと、マームは座り込んでしまった。マームは大人しく驚くタイプらしい。それを介抱しながらオレは言う。
「よーし。今日はマームの歓迎会を兼ねてオレが料理を作るよ。」
「マーム。アメリの作る料理もビックリして腰を抜かすほどうまいよ。」
「そうですか。それは楽しみです。」
オレが料理を作ると宣言すると、食いしん坊のリオがマームに言った。まあ、腰を抜かすほどだなんてオーバーだけど、うれしかった。よーし。頑張って本当に腰が抜けるほどうまいもん作るぞ。
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