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第118話 恋人岬

 


 その人は、ありえない事に何もない海の上に立っていた。どっからどう見ても人間じゃない。


「魔物め。これでもくらえ。サン・・・」


「ちょ、ちょっと待ったー!」


 リオが魔法を撃とうとしたのをオレはあわてて前に出て遮った。


「ア、アメリ。」


「リオ。ちょっと待って。何か言ってるわ。なんか訳ありみたいよ。」


「探し物をしているみたいですね。」


 オレが女の人が何か叫んでいるのをリオに言うと、魔物の言葉がわかる魔物のエイハブが叫んでいる内容を答えてくれた。


 空気を読んだのか船も女の人に近づいた。エイハブが女の人と何やら話し込んでいた。


「どうやら、彼女は自分が死んでいる事にすら気づいてないみたいですね。それでなんか探し物があるから、船に乗せて欲しいと言ってますね。」


「えー。駄目よ。そんな事したら私達呪われてしまうわ。」


「まあ、待ってリオ。船長だって似たような物だけど、大丈夫じゃない。船に乗せてあげようよ。」


 エイハブが幽霊の要望を言うと、幽霊嫌いのリオが反対したが、オレは幽霊の要望を聞くことにした。


「でも、幽霊なんでしょ。あの人。だったら、勝手に船に乗り移れるんじゃないの?」


「いや。彼女は海で死んでファントムになっていますから。海の上なら自由に移動できるけど、船に乗るにはわし達みたいに梯子がいるみたいですよ。」


 空間を自由に移動できる幽霊なら船の上にも勝手に来れるんじゃないかとサオリが聞くと自身も幽霊のエイハブが答えた。オレが縄梯子をおろすと幽霊の女の人は本当に縄梯子を伝って船に乗り込んできた。


「初めまして私の名前はサリーです。船に乗せていただいてありがとうございます。と、言ってますね。」


 エイハブが女ファントムの通訳をして言った。


「あ、オレはアメリです。」


 女ファントムが意外にも知性があり、礼儀正しい事を知り、オレ達も順番に名のった。


「それでサリーさんは何をお探しですか?」


 オレがみんなを代表して尋ねると。


「男の人を探していると言ってますね。自分と一緒に身を投げた男の人がどこかにいないかって。よかったら、船の上からみんなも探してくれないかって。」


 サリーを代弁してエイハブが答えた。


「えー。そんなものとっくに魚の餌になってるよ。」


「まあ、待って。その男の人もファントムになってこの世にいるかもしれないじゃん。探してあげようよ。」


「うん。なんか会わせてあげたいよね。かわいそうだし。」


 身も蓋も無い事を言うリオに対してサオリとセナは男の人を探してあげようと言った。


「それでどうやって探すの?その骨か幽霊かどっちか知らんけど。」


「リオ。あんた、オレが鑑定持ちだって忘れているね。宝探しはオレの十八番よ。それで、いつから探しているのか、どんな特徴の人なのかサリーさんに聞いてよ。」


 オレは最初の言葉をリオに言って、後の言葉を通訳のエイハブに言った。それによると、身を投げたのは30年も前の話で、それから今日までずっと探し続けてきたが見つからないと言う事だった。


「30年も探してるなんて絶対におかしいわ。」


「まあ、幽霊だからね。時間が止まってるんでしょ。オレ達がサリーさんの時間を進めてあげようよ。」


「アメリのお節介焼き。」


 30年も探してると聞いてリオは驚きの声をあげた。そしてそれでも探すオレにあきれていた。


 そういうわけで、オレ達は船の上から探索をする事になった。と言っても、探しているのは鑑定持ちのオレだけだが。オレは人間の骨と魔物と、物理的な探索と幽霊的な探索も行ったがそれらしいものは見つけられなかった。


「うーん。ちょっとオレでは見つけられそうにもないね。なんか他にも手掛かりは無いの?」


 オレはサリーに聞いてみた。すると、相手の男はジードと言い、この辺の地主の息子であったと言う事でサリーとの身分違いの恋に悩み、一緒に身を投げてくれたと言う事であった。地主の息子と言うのに少しひっかかった。それに乗りかかった船である。オレ達は上陸して聞き込みをすることにした。海で死んだサリーは陸に上がる事ができないと言う事でエイハブと一緒に船に残った。


 オレ達は海賊船に備え付けてあった小舟に乗り込んで、恋人岬の近くの浜から上陸した。探すまでもなく、岩場ばかりのこの辺で、貴重な浜辺には漁師村があった。浜辺で網を繕っている老人に声をかけた。


「すみませーん。わたしら旅の者なんですけど、地主様のお屋敷はどこでしょうか?」


「あー?地主の家になんのようだー?ジードの家ならその丘の上の一番でっかい家だー。」


「ありがとうございます。たいした用事じゃないんですけど、挨拶に伺おうと思いまして。」


 オレは老人にお礼を言うと丘の上の屋敷を見上げた。そんな事よりも今気になる事を言った?ジードの家って言った?やっぱり、ジードは生きてたか。


「みんな、やっぱりジードは生きてたね。」


「やっぱりって、アメリはわかってたの?」


 オレがジードが生きてた事がわかってたことを言うと、それを不思議がってリオが聞いてきた。


「うん。物語でよくあるからね。こういうパターンは。」


「それでどうする?ジードを追いつめる?あと、このことをサリーに教える?」


 オレが地球で読んだ物語を思い出して言うと、同じく元地球人のサオリが聞いてきた。たぶん、ジードがサリーをだまして死なせてしまったと思ったんであろう。


「まあ、待って。それはいろいろと調べてからね。まずは聞き込みをしよう。」


 オレ達は旅の劇団員を装って、聞き込みをした。怪しまれないようにリオとセナにセシルの町で流行っていた歌を歌わせて信用させた。元々この村とセシルとは交流もない。それらしい歌を歌えば信用された。


 聞き込みの結果わかった事は、30年前からサリーが行方不明になっており、海に落ちたかどこかほかの地に行ったんではないかと言う事だった。もちろん、サリーとジードが心中を図ったといううわさも聞かなかった。あと、ジードは結婚して今では孫もたくさんいて幸せに暮らしていると言う事だった。


「どうする?生きていて孫までいるのサリーに言う?」


「まあ、待って。ジードに会ってからね。」


 リオの問いにオレはそう答えると、ジードの家を訪ねる事にした。


 ジードの家は地主らしく立派な家であるが、その暮らしぶりは思ったよりも質素であった。その家の前を掃除をしていた使用人らしき老人にオレは声をかけた。


「こんにちは。地主さんのジードさんにお取次ぎしてもらえないでしょうか?」


「どちらさんで?」


「サリーさんの使いの者だと伝えてもらえば、わかると思います。」


「さ、サリーだと、おまえさん達はいったい何者なんだ?ジードはわしだ。」


 なんと使用人だと思った老人がジード本人であった。オレ達はサリーの事を話した。幽霊の魔物が当たり前にいるこの異世界では、幽霊になっていると言っても怪しまれることもなかった。


「そうか、サリーには済まない事をしたと今でも思っているよ。」


「済まない事では済まないでしょ。」


 リオが食ってかかった。


「まあ、待って。話を最後まで聞こうよ。」

 興奮するリオをなだめてジードに話を促した。


「信じてくれ。わしはあの時は本当に一緒に死のうと思ったんじゃ。ところが、生まれた時から海で育っていたわしは泳ぎが達者で、結局、死に切れんかったんじゃ。そして怖くなったわしは家に逃げ帰ったんじゃ。わしの親がサリーの死体が上がらない事を良い事に知らないふりをしろと言い、弱いわしは結局知らないふりをしてしまったんじゃ。しかし、サリーがわしの事を恨んでいるなら、この老いぼれの命で償おうじゃないか。」


 そう言ってジードは持っていたナイフで自分の喉を突こうとした。


 オレは縮地で距離を詰めてジードのナイフをその手から叩き落した。


「早まらないで。そんなことしてもサリーはたぶん喜ばないと思うわ。」


 ナイフを叩き落されたジードはその場で泣き崩れた。オレ達はナイフを拾うと無言でジードの家を後にした。


「ねえ。アメリ。ジードが生きているってサリーに言うの?」


「なに言ってんの。リオ。ジードはあの日にサリーと一緒に死んだのよ。」


「そ、そうだよね。」


 その後、オレ達は無言で船までの道を歩いた。


「どうでした?何かわかりましたか?アメリさん。」


 小舟で乗り付けたオレ達の姿を見つけたエイハブが声をかけてきた。


「ああ、わかったよ。ジードもあの日死んだんだって。ジードの死体は浜に打ち上げられたから、いくら海の中を探してもどこにもいないってサリーに伝えて。」


「わかりました。」


 エイハブはうなずくと、傍らにいるサリーに伝えた。サリーは一筋の涙を流すと光の球になって消えた。

「これでよかったのかな?」


「よかったんだよ。世の中には知らないほうが良い事もいっぱいあるんだよ。」


 オレは涙目のリオにやさしく言った。


「サリーもようやく成仏できたんだよ。」


「成仏って天国に帰るって事でしょ。あれは何?」


 リオの指さす所に申し訳なさそうに立つサリーの姿があった。


「ちょっと、どういう事?」


 オレはサリーの横にいるエイハブを問いただした。


「あー。地球の幽霊と違ってわしらは魔物ですからね。満足したぐらいじゃ成仏しませんよ。息の根を止めないとね。それとサリーはアメリさん達の事が気に入ったから是非仲間に加えてくれと言ってますね。戦闘は無理だけど、雑用をなんでもするからと頼んでいます。わしからも頼みますよ。」


 そう言ってエイハブはサリーと一緒に頭を下げた。いつの間にかこいつらできてたんか。


「オレを気に入ったんじゃなくて船長、あんたを気に入ったんじゃないの?」


「ええ。実はそうなんですよ。」


 そこは否定しないんだ。


「勝手にすれば。」


 リア充カップル誕生に少し悔しいオレが投げやりに言うと。


「実は申し上げにくいんですが、わしの時みたいにアメリさんが名前を付けて使い魔にしてやってもらえませんかね。でないと、恋人岬周辺の海から出る事ができないんですよ。彼女は。」

「はい。はい。わかりました。サリーさん。あなたの名前は今からマームね。あなたは今からオレの使い魔になりました。よろしくね。マーム。」


 そう言うと、マームはエイハブの時と同じように幽霊の体から肉体を実現させた。エイハブの時と違うのはオレが寝込むほど体力を奪われなかった事だ。


「ありがとうございます。アメリさん。リオさん。サオリさん。セナさん。これからよろしくお願いします。」


 マームはオレ達に頭を下げて挨拶した。幽霊の時は気づかなかったがマームはとんでもない美人であった。しかも、巨乳。美人自慢のリオも形無しであった。


「とりあえず。服を着ようね。でないと、船長のもっこりが収まらないから。」


「きゃー。恥ずかしい。船長のエッチ。」


「いや。わしは何も見ておりませんぞ。マームさんのオッパイがでかいとかくびれが凄いとか。」


「しっかりと見てるじゃねえか。」


 オレはエイハブをどつくと、アイテムボックスから取り出したリオの服をマームに渡した。そんな訳で、観光に来たはずが仲間を増やしてしまった。



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