第116話 マッドシャーク再び
リオの指さした方を見ると、オレの釣ったマグルに巨大なサメが襲い掛かろうとしていた。
あっという間だった。オレの釣った大物マグルは巨大なサメに食われた。
「あーっ、オレの獲物がー。」
「アメリ!呑気な事言ってる場合じゃないよ。マッドシャークじゃないの。アメリは釣り糸を早く回収して、残りのみんなは戦闘開始よ。」
せっかく釣った獲物を魔物に横取りされて悔しがっているオレの代わりに、リオがみんなを仕切った。
「サンダービーム!」
無詠唱で魔法を撃てるサオリが真っ先に船の上から魔法を撃った。しかし、一足早くマッドシャークが海中に潜った。
「くそっ!はずれた!海に潜ったよ!みんな気を付けて!」
ドゴーン
サオリがみんなに大声で注意するやいなや、衝撃がオレ達を襲った。海に投げ出されても仕方ないような大きな衝撃だったが、幸いにも誰も落ちなかった。
「みんな!しっかりつかまって!どうやら、水中から体当たりをかましてくる作戦みたいね。あちらさんは。このまま、何回も体当たりされたら船がもたないわね。
よし!全速前進!」
オレが命令すると、今まで止まっていた船が急発進した。
「なっ!速い!」
突然の急発進に目を丸くするリオ達。
マッドシャークは逃げる船を追うために海面に大きな三角のヒレを出した。船よりもマッドシャークのほうが速いようで三角のヒレがどんどん近づいてくる。オレはアイテムボックスから海賊のモリを出すと、魔法を撃とうとしていたサオリ達を制して、力任せに投げた。ストライク!海賊のモリは見事にマッドシャークに刺さった。
「よし!刺さった!急停止!」
オレの命令で船が前進を止めたが惰性でゆっくり走る。マッドシャークが抵抗になってモリに付けてあるロープがどんどん出る。オレはロープの端を素早く船に括り付けた。ロープが全部出る前にロープを掴んで言った。
「みんな!手伝って!マッドシャークと力比べよ。引っ張って!」
オレとリオがロープを掴んだところでロープがピンと張った。オレとリオが引きずり込まれそうになるのを見てサオリとセナとエイハブがあわてて助太刀に入った。
A級冒険者4人プラスアルファのバカ力にさすがのマッドシャークも止められた。
「さて、それではみんな。電気を流すよ。サンダー!」
「え!ちょっと・・・ギャー!」
海賊のモリに付けたロープにはアイアンボールの体液をたっぷりとしみ込ませてあった。電気が非常に流れやすい状態になっていたわけだ。電撃を受けたマッドシャークが気絶した。オレ達4人はこれぐらいの電撃は屁でもない。エイハブのほうは平気でなかったみたいで巻き添えで気絶していた。
ぷかりと浮かんだマッドシャークにサオリがサンダービームでとどめを刺した。マッドシャークの死体は当然オレのアイテムボックスに回収した。牙や鮫肌、ヒレ等、マッドシャークはお金になるからだ。ちなみにエイハブはリオがヒールで介抱した。
「しっかし、とんだ大物が釣れたよね。」
「いや。そんな事よりも、この船、アメリの命令で凄いスピードで走り出さなかった?」
「うん。わたしもそう思った。」
オレがマッドシャークとの戦いの事を言うと、リオとサオリが船の事についてつっこんできた。そりゃ気づくよね。まあ隠すような事でもないか。
「どうやらみんなも気づいたようね。この船は生きている、いや死んでるのかな?紛らわしいな。とにかく魔物なのよ。」
「「「えー!」」」
三人同時に驚きの声をあげた。
「詳しくは船長から聞いて。」
オレに促されてエイハブが船の事について説明を始めた。じゃあ漕がなくてもいいんじゃないとサオリとセナは喜んでいたが、リオは真っ青になって黙り込んでしまった。しまいには帰ると喚き散らしたが何とかなだめた。
今日はオフの日のはずだったのに、とんだ魔物退治の日になってしまった。魔物が跳梁跋扈するこの異世界じゃしかたないんだけどね。戦士に安息の日はないぜとカッコつけてみる。風も出てきたみたいで、帆を張り、船を休ませて、改めて観光へと向かうオレ達だった。
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