第115話 船の秘密
「船長、悪いね。こんな朝早くから。」
「いや、大丈夫ですよ。海の男の朝は早いものですよ。」
翌朝早く、船を操るエイハブとオレは二人で甲板に立っていた。まだ夜も明けきらぬうちからの出発であり、早朝から船を出してくれたエイハブに気遣って声をかけると、そんな事はたいした事ではないと返してくれた。船長、良いやつ。ちなみにリオ達はと言うと船室で二度寝の真っ最中である。
船は風も無いのに順調に進んでいた。え?帆船なのに風も無いのに進むってどういう事?
「ねえ、船長。つかぬ事をお伺いしますけど、今風無いよね。なのにどうしてこの船は進んでいるの?」
「あっ。言ってなかったですよね。実はこの船は生きている、いや、死んでる魔物なんですよ。わしの仲間たちがこの船に憑依して魔力で動かしているんですよ。」
「え⁈なんですと!」
オレはビックリして慌てて船を鑑定した。なんとこの船は多数の海賊たちの憑依体であり、一つの魔物であった。何という事でしょう。オレ達は魔物の中で寝泊まりしていたんだ。道理で悪夢にうなされる事が多かったわけだ。オレは驚愕の事実に目を丸くした。
しかし、ちょっと待てよ。魔力で動けるんだったら、オレ達が帆を上げたりしなくてもいいんじゃないか。
「じゃあ、オレ達は一生懸命帆を張っているけど、必要ないんじゃない?」
「あー。こいつの魔力にも限りがありますからね。風8、魔力2ってとこですかね。なるべくこいつの負担は減らしてやりたいんですよ。」
オレの疑問にエイハブはマストをたたきながら答えてくれた。
「じゃあ、もう一つ聞くけど、魔力が無くなったら船はどうなるの?」
「わしらと一緒ですよ。気絶するだけですよ。もっとも表向きは進まなくなるだけですけど。」
気絶する船ってどういう船や。オレは突っ込みたかったがとりあえずはスルーすることにした。あと、この事はあえてみんなには言わない事にした。とくに怖がりのリオには。
「ところで、この冒険者ギルドでもらった簡単な地図で大丈夫なの?」
「わしを誰だとお思いか?ここらの海岸線は全部頭の中に入っておりますよ。目をつぶっても行けまっせ。」
元海賊王のエイハブが頼もしく言った。
そうこうしていると、手作りのルアーを流してトローリングをしていた二本の竿のうちの一つにあたりが来た。
「船長。釣れたみたいだから、船を止めて。」
「いや、わしに言わなくてもアメリさんの命令を聞きますぜ。止まれと命令してください。」
「わかった。船よ。止まれ!」
車のように急停止はできないが船は徐々にスピードを落とした。オレは糸を手繰り寄せた。釣れたのは70センチほどの良い型のマグルであった。いわゆるマグロであった。オレが命令すると船は再び音もなく走り出した。
オレは今釣った魚をさっそく料理することにした。別に今の魚を使わなくてもオレのアイテムボックスの中には新鮮な魚がそれこそ腐るほどあるが気分の問題である。釣ってその場で料理した魚はうまいのである。オレはさっそく料理に取り掛かった。三枚におろすとオリーブオイルをはったフライパンで焼いた。いわゆるマグロステーキである。切り落とした骨やあらは捨てる事なく、それで出汁をとった。魚醤で味を調えて潮汁の完成である。ついでにカッヘも淹れた。
「船長。リオ達を呼んで来て。朝ごはんがもうできるから。」
「了解。」
エイハブが船室に呼びに行くと、眠気眼のリオを先頭に甲板に出てきた。
「うーん。良い匂い。今日は焼き魚ね。」
「うん。マグロステーキだよ。リオ。」
「マグロだったら、わたしは刺身がいいな。」
「はい。ちゃんとトロの部分は刺身にしてありまっせ。」
「ナイス。アメリ。」
匂いで料理を言い当てたリオにオレが答えると、サオリが刺身の方が良いと贅沢な事を言いやがる。そう言うだろうと予想していたオレは既に刺身も作っていた。オレ自信が食べたかったと言うのもあるけど。
「魚醤とバターで作ったソースをかけてあるけど、さっぱりしたのがお好みの人は言ってね。お塩をかけただけのもあるから。あと、スープはマグルのアラで出汁を取ったの。これも旨いから。野菜のサラダもちゃんと食べてね。では、いただきます。」
「「「「いただきます。」」」」
オレの料理の説明を聞いてからみんなでいただきますをした。
「油がのってまるで上質の肉ね。魚とは思えないわ。うまい。」
「うん。凄い柔らかい肉って感じね。美味しい。」
リオとセナの異世界コンビが口々に料理を褒めてくれた。うれしい。
「うん。ステーキもうまいけど、わたしは醤油で食べる刺身が一番だわ。」
「わしも刺身がさいこうですね。」
元日本人コンビは刺身の方が良いと言っているけど。
「あっ。この潮汁美味しい。あったまるわ。」
オレが渋い顔をしていると、空気を読んだのかサオリが潮汁を褒めてくれた。
「うん。良い出汁出てますよ。本当にご飯が欲しくなりますね。」
エイハブまで褒めてくれたのでオレは一気に機嫌がなおった。でも、ご飯か。王都に行けばあるのかな?お米を求めての冒険もいいかも。
「カッヘもあるから。欲しい人は自分で入れてね。」
異世界のコーヒーであるカッヘはパン食である異世界料理に非常によくあった。さっそくリオは砂糖とミルクたっぷりで淹れていた。
オレ達が食後のカッヘタイムを楽しんでいると、トローリングをしている竿に再びあたりがあった。オレが糸を手繰っていると、
「あ、あれ何?」
リオが海面を指さして言った。
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