第110話 砦の攻防
すみません。短いです。
「この前はこの辺に見えない壁があったよね。」
先頭を歩くリオが辺りを見渡した。今のところは何も変化はないようだった。
「たぶん、あの大木を攻撃するとか、何らかの条件で壁が出現するんじゃないかな。」
オレは大木を指さして言った。前の世界でゲームをしていた時の事を思い出した。出現条件を満たさないと出現しないキャラやアイテムがあった事を。
「また閉じ込められるかもしれないけど、進むしかないよね。」
リオが大木を見つめて言った。
オレ達はゾンビボアとホーンゾンビを倒しながら大木のふもとまでたどり着いた。
「大木まで来たけど、どうする?」
「うん。とりあえずは木の中に潜んでいるあいつらに攻撃ね。でも、たぶんこの木が魔法を妨害するよね。また、油で燃やすしかないか。」
リオとオレは大木を見ながら思案した。
そうこうしていると、モンキーゾンビの投石による攻撃が始まった。大小様々な石が飛んできた。
「痛い!木から離れるよ!」
オレはみんなを避難させた。
「アメリ!出たよ!」
リオの声で辺りを見渡すと、いつの間にか集まったゾンビボアとゾンビホーンに取り囲まれていた。
「無駄だと思うけど、サオリ、ワープできる?」
「うん。やっぱり駄目だわ。また閉じ込められたみたいね。」
前回ファントムボアとファントムホーンに取り囲まれた時も見えない壁に閉じ込められてサオリのワープができなくなった。
「こうなったら、奥の手を出すしかないね。」
「奥の手?」
オレの隣で鉄の盾でモンキーゾンビの投石を防いでいたリオが聞いてきた。
「そうよ。アメリ様最大の奥技、敵前逃亡よ。」
そう言うとオレは剣を抜いて走り出した。
先日の経験から、頃合いを見て走るスピードを緩めた。迫りくるゾンビの群れをリオ達に任せてそろりそろりと探りながら進むとやはりあった。見えない壁に閉じ込められていた。
「やっぱり、見えない壁に閉じ込められたよ!」
「えー!どうするの?」
オレの情けない声にリオが聞いてきた。
「とりあえず、この間みたいに砦を作るから援護をお願い。」
リオ達に援護を頼むとオレは砦作りに励んだ。土魔法で土を掘り、その土を壁の手前に上へ上へと重ねた。土の山が二メートルほどの高さになった所で、砦の完成だ。オレ達は砦に飛び移った。さらに砦の周りを掘り下げた。せいぜいが深さ一メートルほどの堀である。脱出は簡単なはずであるが、オレ達を襲うスイッチの入ったゾンビボアもホーンゾンビも後退する事を知らなかった。必然的に砦の周りは朝の通勤電車なみの押し合いへし合い状態になっていた。オレはアイテムボックスから油の瓶を取り出すと、柄杓で油を魔物達にまいた。
「アメリ、油どんだけ持ってんのよ?」
この間派手に油をぶちまいたのを知っているリオが聞いてきた。
「うん。ダンジョンに行けなくて暇だったから、サオリに頼んでワープでセシルに連れて行ってもらったからね。また買い占めてきちゃった。それより、そろそろ頃合いね。行くよ!ファイアー!」
オレは油まみれで押し合いへし合いしている魔物達に魔法で火を着けた。文字道理お尻に火の着いた魔物達はパニック状態になり暴れまわった。全身に火が着いても簡単には死なないのは不死身のゾンビ故か?
「アメリ熱いんだけど!」
セナが真っ先に弱音を吐いた。いや、セナでなくても弱音を吐くであろう。魔物達は大きな炎となって燃え盛っていた。
「うん。熱いね。サオリさん。木の麓までみんなをお願いします。」
「もう。脳筋野郎は、後の事を考えずに火を着けるんだから。みんな、わたしにつかまって。」
オレ達はサオリのワープで木の麓に来た。ファントムと違ってゾンビは後から後から湧いて出てくる事はないみたいだった。とりあえずは安心した。
「じゃあ、後はこの木だけね。アメリさんとサオリさんお願いします。」
前回はオレとリオが木の頂上にワープで行って、油をまいて木を燃やし尽くした。今回もこのパターンで行こうとリオが言った。
しかし、そうは問屋が卸さないみたいだった。オレの鑑定がモンキーゾンビとはけた違いの化け物が木を下りてくるのを感知した。
「く、来るよ!」
オレはみんなに警告すると木から飛びのいた。
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