第107話 華麗な異世界料理
登場人物紹介
・アメリ 主人公、ボスゾンビを倒すも、負傷中。
・リオ 力も魔法も超一流。ただし頭は三流。
・サオリ チート技の持ち主。こっちが主人公?
・セナ 自分の身を囮にして敵を倒した。
・エイハブ 渋い見た目のわりに意外とお子様。
一昼夜、宿で寝込んでいたオレはいつものようにまだ暗いうちから目を覚ました。オレが身支度をしていると、同室のサオリも目を覚ました。
「おはよう。サオリ。」
「ん?アメリ何してるの?」
「何って、ダンジョンに行く準備よ。」
「ダンジョンって何言ってるのよ。今日からしばらくはお休みよ。休み。」
「え!休みって誰が決めたのよ?」
「わたしとリオでよ。」
「え!リーダーのオレの意見は?」
「アメリ、バカなの?あんた。あんたとセナは剣で切られたのよ。回復魔法がなかったら死んでたんだよ。今日からしばらくは静養よ。だいたいあんたとセナの防具は脱がせて修理に出してるよ。防具も無しでダンジョンには潜れんでしょ。最低でも防具が修理されるまでお休みよ。」
「えー。もう傷はふさがったよ。」
「じゃあ、防具無しで一人でダンジョンに潜って死んでくれば?」
「は、はい。わかりました。」
サオリに睨まれて渋々了承した。
「じゃあ、今日は何するの?」
「そうねえ。わたしとリオは町をぶらつこうかと思ってるけど。」
「じゃあ、オレも連れて行ってよ。」
「だめ!アメリとセナはお留守番!今日一日ぐらいは宿で大人しくしていなさい!」
「は、はい。」
宿で朝飯を食べた後、おしゃれして、ウキウキしながら出かけるサオリとリオを見送ってオレとセナは宿に残った。
「セナ。どうする?また寝る?」
「うーん。さすがの私ももう眠れんよ。どうしましょ?」
「セナ。傷はもういいの?」
「うん。リオのハイヒールがうまく効いたみたい傷跡も残らなかったよ。」
ハイヒールは体の回復と修復を兼ねた魔法であり、術者の力量により効果も左右された。リオには回復術士としての才能もあるみたいだった。ただの脳筋ではなかった。できる脳筋であった。
「じゃあ。暇だし、オレは今日一日料理でもしようかと思っているんだけど。手伝ってくれる?」
「うん。喜んで。やったー。久しぶりの異世界料理を作る気ね?」
「まあ、そういう所かな。」
オレとサオリは宿の女将の了承を得ると宿の庭で料理をすることにした。宿の庭は泊っている冒険者が訓練に使う事もあり広かった。広い庭の片隅でオレは調理器具を庭備えつけのテーブルの上に並べた。
まずは野菜の下準備だ。アイテムボックスから取り出した新鮮な野菜をセナと二人で皮をむき、みじん切りや細切れに切っていった。肉はどうしようかと思ったが思い切ってダンジョン牛の肉を使った。ダンジョン牛は味も良く値段も高い高級食材だが、買ったわけではないのでただだし。
まずはダンジョン牛に塩コショウをしてフライパンで炒めた。コショウはこの世界では超高級品だったが美味い物に目がないオレは金に物を言わせて買い漁ってある。こんがりと焼けたところで皿に移した。そのフライパンにオリーブオイルをたし、みじん切りにした二種類の野菜を弱火でじっくりと炒めた。頃合いを見て先程炒めた肉を加えた。さらに、今までいろんな市場で発見しては味見して買い漁った香辛料の数々を入れ、小麦粉も入れじっくりと炒めた。
それに赤ワインを加えひと煮立ちさせ、林檎もどきのすりおろした物と蜂蜜にバター、生クリームを加え弱火でじっくりと煮込んだ。
同時に別の鍋ではジャガイモもどきとニンジンもどきの乱切りにしたものを鶏ガラで作ったスープで煮込んだ。
頃合いを見て、フライパンの中身を鍋に入れ、これまたじっくりと煮込んだ。塩を入れて味を調えて完成だ。
辺り一面に良い匂いが漂ってきたころにサオリとリオが帰ってきた。
「うわー!良い匂い。アメリ。また料理を作ったの?」
「うん。暇だったから、セナと二人でね。」
鍋から漂う良い匂いに釣られてリオが近づいてきて鍋をのぞき込んだ。
「この匂いはカレーじゃない?また凄い物を作ったね。」
サオリが料理を当てた。カレーは多数の香辛料を必要とする。一つ一つの香辛料を味見して買い漁ったオレの努力と使った大金の賜物だった。
「ご名答。二人ともお昼はまだでしょ?もうすぐできるから、サオリは船長を呼んできて、リオは三人分の椅子を宿から借りてきて。」
オレはサオリがエイハブを呼びに港までワープで行っている間とリオが椅子を準備している間にどんぶりとパンをテーブルに並べた。サオリが帰ってくるまでにはすべて並び終えた。
「おっ。良い匂いですね。これはなんて料理ですか?」
「カレーよ。美味しいから。」
「え!異世界の料理なのに船長は知らないの?」
テーブルに着くなり料理名を質問したエイハブに異世界人のくせに知らないのかとリオが聞いた。
「うん。これはたぶん比較的新しく入ってきた料理だから、船長が知らなくて当たり前だよ。」
「うん。わしの時代にこんなハイカラな料理はなかったから、どんな味がするか楽しみじゃよ。」
「ハイカラかどうかは知らんけど、美味しいのは確かよ。」
そう言いながらオレはみんなのどんぶりにカレーをついで回った。
「これはそのまま食べても美味しいけど、パンにつけて食べるともっと美味しいよ。じゃ、いただきます。」
「「「「いただきます。」」」」
みんなで手を合わせてから食べた。
「うわ。辛い。でも美味しい。いくらでも食べれるわ。」
「うん。辛いけど癖になる辛さね。パンにつけると辛さがやわらいで美味しさがますよ。」
現地人のリオとセナに異世界のエスニック料理は大丈夫かとちょっと心配してたけど、問題はないようだ。
「うまいんだけど、わしにはちょっとだけ辛すぎかな。」
意外にも渋いおじさんのエイハブが舌はお子様だった。
「お子様はミルクを少しだけ混ぜるといいよ。」
そう言ってアイテムボックスから取り出したミルクをエイハブに渡した。エイハブはさっそくどんぶりにミルクを入れて混ぜて食った。
「うまい。辛さが程よくやわらいで極上の味になった。」
お子様ががっついて食いだした。
「わたしには逆に辛みがもの足りないんだけど。」
大人な嗜好のサオリが不平を言った。
「こっちの人でも食べれるように、随分甘口にしたからね。そんな大人なあなたはこれをかけて。」
オレは自分のどんぶりに小瓶の中身をかけるとサオリにも渡した。
「うまい。やっぱりカレーはこうでなくっちゃ。」
「でしょう。」
小瓶の中身をかけたサオリが一口食って言った。
満足したオレはサオリとハイタッチをした。
「あ、二人だけずるい。わたしもかける。」
そう言ってリオがサオリから小瓶を奪うと自分のどんぶりにふりかけた。それもたっぷりと。
「あ、リオバカ。」
オレがそう言ったところで後の祭りであった。
「辛い。辛い。水、水。」
リオが悶え苦しんだ。
「これは辛さを増す香辛料だよ。辛い料理になれてない人がかけると大変な事になるよって、もうなってるけど。」
「ほんとにリオは脳筋なんだから。」
オレとサオリが言うとリオ以外の人達は爆笑した。ちょっとかわいそうなのでエイハブに渡したミルクをコップに注いで渡してやった。
「水よりミルクの方が辛みには効くから飲むといいよ。あと、辛みが薄まるようにカレーを継ぎ足してやるよ。」
「ありがとう。」
涙目のリオはミルクを飲みほした。
「これ、辛い汁も美味しいけど、中に入っている肉も野菜も美味しいよね。」
セナが良い事を言った。
「セナ。良い事言うじゃない。この肉は高級なダンジョン牛の良い所を使っているのよ。まあ、カレーは味が強いから高い肉を使う必要もないけど、そこはオレのプロの料理人としてのこだわりね。」
「アメリ。あんたいつからプロの料理人になったのよ。」
サオリが突っ込む。
「ずっとよ。むしろ冒険者はアルバイトね。」
「それで、昨日はプロの魔物のゲランにやられたのね。」
オレがボケるとリオに鋭く返された。
しょんぼりするオレ以外のみんなが笑った。
「ところで、なんか視線をいっぱい感じるんですけど。」
リオが周りを見渡して言った。
ダンジョンから帰って来た冒険者や庭で鍛錬していた冒険者など広い庭にはそれなりに人がいたが、良い匂いとオレ達のバカ騒ぎに釣られていつの間にか近くに寄ってきていた。しかも全員よだれをたらして。
オレは目で人数を数えると人数分のどんぶりを出してカレーを注いだ。
「みなさん。よろしかったらどうですか?」
「いいのか?いや、いいんですか。ありがとうございます。」
一番近くにいた冒険者風の男を皮切りに我も我もとなった。カレーの良い所は大量にいっぺんで作れるところだ。
「かれー。けど、うんまい。」「ほんとうにうまいな。」「ほんと。ほんと。」
口々にカレーを褒めた。気を良くしたオレはパンも配った。
「パンもどうぞ。そのまま食べても旨いパンですけど。カレーにつけて食うと絶品ですよ。」
「なに、このパン。柔らかいし、まだあったかい焼き立ての高級パンじゃねえか。」
「オレもこんな白くてやわらかいパン初めて食ったぜ。」
「パン自体もとんでもねえうまさだけど。この汁につけて食べると絶品だぜ。」
集まったみんなが口々にオレの料理を褒めたたえた。調子に乗ったオレはみんなの隙をついてアイテムボックスから肉と冷えたエールを取りだした。肉と酒の大盤振る舞いをした。おかげで宿の食堂では誰も食事を摂らず、営業妨害だと宿の女将さんに叱られた。どんまい。
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