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提供人形 -Donor Doll-  作者: 皐月うしこ
第一章 先祖返り
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第二話 恐怖の洗礼(4)

愚かな人間が恨めしい。

非力で何もできない人間になんてなりたくない。

口を開けば敗北を意味する言葉しか出てこないような気がして、沙耶は霧矢の青い目を見なくて済むようにぎゅと視界を閉じることにした。



「ほんまに可愛いなぁ、自分。」


「ッ」



逃げることも出来ずに硬直した沙耶の服の裾から、霧矢の冷たい手が差し込まれる。

霧矢の手の冷たさに、柔らかな胸が反応してピクリと動いた。



「あッふゃッああぁ」



しびれるような感覚が胸の先から全身に流れていく。視界から消してしまいたいのに、沙耶の瞳は服の下に隠された霧矢の手のひらを追ってさまよい始めていた。



「そうそう、そうやって俺の方をちゃんと見とくんやで。」



滑るように流れる手のひらに、沙耶の鼓動はドキドキと早鐘を訴えてくる。

このまま握りつぶしてしまえば、いとも簡単にこと切れるだろう儚さが、ますます霧矢の動きを加速させていった。吸いつくようになめらかで、男とは違う女の柔らかな質感が、いつまでも触っていたくなるほど気持ちいい。手になじむように形を変える肉厚と固くとがっていく先端の色香に、霧矢の口からおのずとため息が零れ落ちていた。



「昨日の夜に見つけた時から目ぇつけとったんやけど。」


「ッあぁ~~っんヤァ…っ…ぁ」


「ほんま、誰かに奪われる前でよかったわ。」



霧矢の口から(ツム)がれる言葉はまるで呪文。

目を閉じていることですら耐えられなくなった沙耶の体は、右から霧矢、左から壱月に挟まれて完全に身動きができないようにされていた。



「ッはぁ…いっ…や」


「いやや言うても、体は正直やんか。嘘はついたらアカンって教えてもろたやろ?」



服の中を移動する霧矢の手のひらに沙耶の顔は赤く反応する。



「やめ…っ…て」


「快楽に抗われへんくせに、抵抗するのはなんでなんやろな。」


「俺らを興奮させるためだろ?」


「ヒぁッ?!」



背中を預けるように壱月に両手をつかまれた沙耶の目に、クスリと笑う霧矢の口元から牙がのぞいた。



「俺はな、沙耶ちゃん。」



スローモーションのように、霧矢の柔らかな髪がゆっくりと沙耶の首筋に埋まっていく。



「恐怖を感じてるくせに、まだあきらめへんその目ぇ見ながら───」


「ッ?!」


「───壊していくんが好きやねん。」



先ほどとは反対側。

壱月に噛まれた方とは違う首筋に霧矢の牙が突き刺さる。



「いやぁぁあぁあぁっ」



痛い。

プツリと皮膚を突き破る音を聞いた瞬間、先ほど壱月に噛まれた時とは比べ物にならないほどの激痛が沙耶の首筋に走っていた。



「イヤッ痛~~~ッあぁ」



本能に従って暴れ狂おうとする体は、後ろから両手をつかむ壱月のせいで自由がきかない。痛みに叫ぶ悲鳴に反するように、すべてを見納めようと見開く視界の中で恐ろしいほど綺麗な霧矢の横顔が見えた。



「ヤメ…て…痛ぃ…きり…ッ…ゃ」



じゅるじゅると血が抜かれていく感覚に意識が奪われそうになる。

人間とはなんと弱い生き物なのだろう。

人鬼であったころとは比べ物にならないほど無抵抗でしかない血の器が情けない。されるがまま、男たちにもてあそばれていくのをただ黙って受け入れることしかできない自分がもどかしくて、許せなかった。



「痛いばっかりちゃうやろ?」


「ッぁ…ッあぁ?!」



甘い霧矢の吐息に、ピクリと沙耶の反応が変わる。



「何、お前。痛いことされて感じるタイプ?」



クスクスと背後から壱月の声が耳に吹きかかってきた。

違うと首を横に振りたいのに、沙耶の体は正直に霧矢の指に応えようと悶えている。



「ッア…あ…~~っ」



恥ずかしさと怖さで消えてなくなりたい。

血を吸われながら、乳首を立たせるはしたない女だと思われたくない。



「霧矢が気に入るはずだぜ。」



何が面白いのか。壱月は霧矢に牙を突き立てられて痛みに泣き叫ぶ沙耶の手首に唇を落としながら、含み笑いをこぼしていた。

そして不意に思いついたかのように立ち上がる。



「しゃーねぇ。ここは霧矢に譲ってやるか。」



いいものを見たといわんばかりに壱月が席を外したせいで、急に支えを失った沙耶は、痛みに顔をしかめたまま崩れた体制を立て直すことも出来ずに霧矢の重力に従っていった。



「ッヤっ~ぁあ」



ぼふっと柔らかな布の質感と感触が沙耶の視界に霧矢を映す。



「なに、どうしたん?」



脱力して赤く染まる沙耶の顔に気づいた霧矢が、差し込んでいた牙を引き抜いてクスリと妖艶な笑みをみせた。



「~~~っ」



ドキリと沙耶の心臓が小刻みに震える。

ひどいことをされているはずなのに、その甘いマスクと心地いい低音に支配されて、すべてを許してしまいそうになる。どうしてこんなことになっているのか。常識で考えればあり得ない事態のくせに、すでに脳は考えることを放棄してしまったようだった。

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