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苦手な方はご注意ください。

Fight Against Zombies!

生存確率ゼロパーセント エピソード・ロージー

作者: たまご風味

(2020年10月10日 ニューリバティ第一消防署内 07:21)


ロージーは唸った。今日の朝からずっと、調子が悪いのだ。


ー昨日は踏んだり蹴ったりな1日だったな。


朝から犬のフンを踏み、好きなロックバンドのチケットを手に入れられず、おまけに酒に酔った友達に腕に噛み付かれた。喧嘩になったロージーは泥酔状態の友達をその場に残して立ち去った。


まさに踏んだり蹴ったりだった。傷はきちんと処置をしたが、痛みが消えない。


ロージーの仕事は消防署の電話番である。通報を受け、消防士たちに的確に情報を伝えるのが彼の役目だ。いつ通報が入るかわからないので、同僚に預け飲みにいく時以外は基本この署内に住み込みだ。もう半年以上家に帰っていない。


一切ベルのならない受話器を見る。


昨日の夜からポツポツと奇妙な通報が増えていた。錯乱状態のご主人だとか、路上で倒れた後、車に轢かれたにもかかわらず何事もなかったかのように起き上がった女とか、店の料理にやたらといちゃもんをつけた後、突然店員に襲いかかった老人とか。まあ、最後のは警察の方に回したが。


それでも最初はそんな通報もごく僅かだった。それが日付が変わった後から、10秒に一回はそんな電話がかかって来るようになった。


その後、朝早くどっかの会社…グレートフォンデイションとかそんな感じの実験施設が爆発事故を起こしたとやらで、署内にいた全ての消防士と消防車両は総動員されることとなった。この第一消防署からはいくら通報を受けても出動させる人員が残っていないから、仕方なくロージーはこの署に来る通報を全て第二消防署に行くよう回線を切り替えた。今は一本も通報がこない。


ごめんな、第二消防署の電話番くん。向こうは今頃署二つ分の通報にてんてこ舞いだろう。


ああ、頭がガンガンするし、だるい。


二日酔いだろうか、そんなに飲んでもいないのだが。


ーそれに、まだ噛み傷が痛む。


あれ、僕は何をしてたんだっけ。


傷口が熱い。


それよりここはどこだ?


脳が考えることを止めようとする。


「…ージー、おい、ロージー?大丈夫か?」


はっと現実に呼び戻される。消防署内だった。声の主を探す。


「たった今ここについて、さっきから呼びかけてたがだいぶ調子が悪そうだぞ。風邪か?」

ケイン・キックだった。この署の消防士の1人だが、今日は非番だったはずだ。


ロージーは訊き返す。

「あれ、キックさん今日は非番の日じゃ?」


ケインが答える。

「ああ…朝のテレビで製薬会社の実験等で爆発が起きたってニュースを見て、飛び出て来たんだ。」


朝…製薬会社…大爆発…

なんだっけ、それ。


記憶をたどりながら話す。

「ああ…製薬会社…のそれなら早朝に通報がありまして、で、えーと…ここの消化器…じゃなかった消防士の方達はみんな出動しちゃいました。」


ケインの表情が曇ったように見えたが、ロージーは意識が朦朧としてそれどころではなかった。

ケインが口を開く。

「そうか…お前大丈夫か?さっきからろれつが回ってないぞ。」


ロージーは答えた。

「なんか朝から具合が悪くて…」

あれ、今僕が喋ってる人って誰だっけ。


ケインは心配そうな顔をして、優しく言った。

「よし、もうお前今日は家に帰ってゆっくり休め。もう長いことベッドで寝てないだろ。今日は俺が仕事変わっといてやるよ。」


ロージーは頷いた。こいつが誰だか思い出せないが、俺より「えらい」人らしい。

「すいません、じゃ、じゃあ僕帰りますね。」


ケインは微笑んで言った。

「ああ、ゆっくり休めよ。」


------------------------------------------------------------------------

だめだ、気分が悪い。帰る前にトイレによろう。


ロージーはふらふらと個室に入った。倒れこむように便座に座る。


………


…頭、痛い


だるい


おなかすいたなあ…


あたま、いたい


かまれたほうのうでのかんかくがない


だるい


かあさ のつく てくれたあぷ るぱいおいし ったな


あたま、いた


にく、たべたい


ロージーは周りを見渡す。全方向が個室の狭い壁に囲まれている。


ここ、せまい、にく、ない。

ここ、ロージー とじこめてる、でたい。


ロージーは焦点の定まっていない目で、トイレの扉を叩き始めた。


だせ、ここ、ここ、だせ。

にく、よこせ、たべる、にく。


叩く力が強くなる。

扉の外から人の声が聞こえた。何を言ってるのかロージーにはもはや理解出来なかった。


さらに力一杯扉を叩く。


金具が外れ、扉ごと床に倒れこむ。


ロージーは目を見開いた。

扉を挟んだ向こう側に、ケインがいた。


ーにくだ。


にくが俺の下にいる。にくだ。


おい、おまえのにく、よこせ。


ロージーは扉の下敷きになっているケインに手を伸ばす。


次の瞬間、激しく壁に打ち付けられた。

が、ロージーは痛みも、怒りも感じていなかった。


何も感じていなかった。彼に残っていたのは、ただただ肉を貪り食いたい、目の前の肉にありつきたいという衝動だけであった。


さっき自分を蹴たおした肉が楕円形の刃のついた棒のようなものを壁から外して手に取ったのがロージーには見えた。


肉は自分に話しかけていたが、何を言ってるのか理解出来なかったし、気にも留めなかった。


ロージーは肉に向かって掴みかかった。







次の瞬間、ドスッという鈍い音が聞こえ、ロージーは衝撃とともに自分の胴体に別れを告げたのだった。




ロージーの目には今度こそ、何も写っていなかった。



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