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そう、俺は日本の女子高生を目指す

 ――チェンです。今は関西空港を去って、京都につきました。お土産なら、またメールで教えて。


 「よし」


 ボタンを押して、送信。

 俺はチェン、台湾人、二十歳の大学生でアニメ好き。今は独学で日本語を一生懸命勉強中。そして今日はついに、夢の地――日本に到着した。

 優しい気候に快適な環境、行儀正しい人々に素晴らしい文化、何より二次元の源である国。この地へ来たの夢にまで見た。


 「じゃあ」


 口の端をあげて、早速プラットホームのほうに向かった。

 まずは荷物をホテルに、そんで京都を満喫するんだと思いながら、空港で買ったイコカを財布に戻し、期待を胸に電車を待つ。

 プラットホームにつくと、電車が遠くから大きな声を上げてやってきた。

 日本での第二本の電車だ。さっきは空港から一時間半をかけてここにきたが、あとはこの電車でホテルの近くにいける。


 と、何気なけ考える瞬間だ。

 高速に目の前に過ぎった電車に、一人の女子高生が視界に映った。

 太ももの半分にも足らない短いスカート、黒くつやつやしている革靴、白いシャツにブレザー、そしてリボンとニーソックス。

 顔こそ普通だが、その装いだけで、もう十分外国人である俺の目を引く。

 アニメのキャラと似たような制服姿に、俺はただ呆然で突っ立ていた。その瞬間、俺は再び実感した、自分が夢の地にいると。

 そういえば、二次元の故郷は日本といったら、制服も当然日本のを参照することになる。

 つまり日本の女子高生は何をしなくても初めてから二次元に近いわけだ。




 「そこで、俺は一つの結論に辿り着いた、日本の女子高生じゃない女子高生は女子高生じゃないと。つまり台湾の女子高生は女子高生じゃない!」


 「お前、やっぱり頭のどこかがおかしいだな。」


 向かい席の友人――ワンがご飯を口にやりながら半眼を作ってきた。


 「お前分からないか。日本の女子高生だぞ。衣装だけで文化財に指定されるべきレベルだぞ。」


 「んなこと言ったって、俺は見たことないし、大体なんで女子高生にそんなにこだわる?」


 「かわいいから」


 「しばらく話しかけるな」


 「なんで!?」


 「いや、そんな真剣に女子高生の話題するのもね……」


 ワンはうつむいて、視線を逸らした。

 なんかちょっと仲間外された気分……

 まぁ、ワンはもともとこういう人だし、別にそんなにへこんでいないけど。

 彼は俺と同じ大学二年で、高校時代から一緒にアニメを見てきた友達だ。

 けれど、大学生になってから、いろいろのサークルに参加し、彼女までできた。もうすっかりリア充になった。


 「まぁ、そぉですね。君にとって、女子高生なんかどうでもいいですね。では今僕が予備校で先生をやって、毎日女子高生と仲良くしているのも、君も気にしないでくれるよね」


 「死刑!」


 「いてっ、ちょっ、殴んな!」


 ちなみに、欠点はすぐに手が出ることだ。

 ワンとも長い付き合いだ。けど痛いのはやはり痛い。もし今は食事中じゃなかったら、二の腕はもう折れるところだった。


 「しかし安心したよ。やっぱお前は彼女を出来てもこち側だ」


 「俺一度もアニメを見ないと言ったことがないが。つーか、前も言ったろ、リアルをエンジョイすることはアニメを見ないことにイコールじゃねぇ」


 「えっ、そう?っていうか英語で喋らないでよ。分からないじゃん」


 「この程度の単語も分からないかよ……どうやって大学に入ったの?」


 「女子高生のかわいさで。もちろん日本の」


 「だからなんで女子高生!?」


 「いや、だって……」


 しばらく黙って、もう一度考え直す。自分の考えは間違っていないと確かめてから、口を開く。


 「試験を準備していたときのこと、覚えてる?」


 「は……確か毎日死ぬほど勉強してたが、何?」


 「いや、勉強以外だよ勉強以外」


 「……勉強以外」


 あごに手をやって、真剣モードに入ったワンのまじめ顔を見ながら、俺はとても慈しむ目をして、言う。


 「忘れたかい?あのアニメの話に盛り上がっている、僕たちの青春時代を」


 「また口調を変えたら殺すよ」


 「ごめん、俺が悪かった」


 命の危機を感じ、すぐ頭を前に倒す。何というすばやい判断力、これも世間に生きるために身につけたほうがいい技だと思う。


 「ま、とにかくだ。あの時はよく女子高生の話をするよね。で、萌え萌えと思うと疲れが自然と消えて、勉強も効率よく進めるじゃん」


 「確かにそうだけど」


 「でね、それは当然二次元の子のこと、そして二次元の子はほぼ日本人、つまり俺らの人生一番苦しいとき、日本の女子高生が一緒に過ごしてくれたってことだ!だから俺が大学に入れるのも女子高生のかわいさのおかげ。ちなみにお前もな」


 なんという雄弁だ。われながら感心しちゃうところだぜ。

 そう思って、ワンに目をやると、何か困りそうな顔が視界に入った。


 「それはそうだけど、今はそういうのから卒業したほうがいいと思うよ」


 「え、何から?」


 「二次元の女の子からよ。確かに俺も今もアニメを見てるけど、一日中女子高生とか萌え萌えとか言ってもいい時期は高校ぐらいと思う。大学生だから、ちょっと大人になれ」


 「大人になることは夢を諦めることなら、俺は一生ガキのままでいい」


 「うわっ、なんか一瞬かっこいいこと言った」


 「ふん、だろう」


 珍しく褒められて、ついに胸を張って自慢した。

 まぁ、しかし本当の話だったら、さっきワンの言ったことに、ちょっと不満がある。

 笑みを締めて、姿勢を改めてからワンの目をじっと見つめる。


 「何だ?」


 「いや、さっきの話だけど、それは日本の女子高生は俺らにとってあくまで幻想ってことか?」


 「そう思うが」


 何か不思議そうな目でこっちを見た。

 なるほど、確かにそうだ。

 俺らは台湾人、日本人でもなければ日本にも住んでいない。日本の女子高生なんざ俺らじゃあ手が届かないだろう。


 ――と思ったらそれで終わりだ。


 「俺は、初めて生身を日本女子高生を見たとき、ああくそ、生まれたところが間違っていたらどうしようもないじゃないかと思った」


 「は……」


 「しかし、こういう消極的な考え方はダメだ」


 ――そう。


 人間とは、もともと夢を原動力として生きていく生き物だ。

 そして、あの日俺たち一緒に見た夢、今も俺の原動力として心に潜んでいる。

 もし大人になるとは夢を諦めるなら、俺はガキのままでいい。

 もし夢に手が届かないと言われたら、俺は自分に翼を付ける。

 もし台湾人である俺にとって、日本の女子高生は幻だったら、俺はそうさせる条件を暴き、そして排除する。


 「いろいろ考えたよ。そしてようやく分かった。」


 まずは、第一歩だ。

 踏み出さなきゃ、何も始まらない。

 けれど、踏み出せば、夢への第一歩となる。


 「俺は日本語力を日本人並みにしてから、日本の女子高生と仲良くするんだ!」


 「いろいろ考えてもバカはバカだな」


 俺の渾身の一言を聞いて、あきれた顔をしてきた。

 きっと彼は俺の言うことをただの冗談と思ってるだろう。実際、昔から俺はよくワンと馬鹿話をする。今のも冗談だと思われても仕方がない。

 しかし、今度だけは違うんだ。


 「ふん、俺はまだ昔の俺と思ったか」


 「いや、昔より馬鹿だともう」


 「ひどっ!け、けど今度はそうじゃないぞ!」


 「は……」


 もうここから去ってもいいかと言わんばかりの顔で、ワンはこっちに見てくる。

 それをかまわず、俺は胸を叩いてから、日本から帰ってきたときに受けた知らせを口にした。


 「俺は長い月日を経て、一生懸命日本語を勉強してきた。そしてついに、明日に言語交換することになった!相手はなんと日本の女の子だ!」


 「………!」


 さすがのワンも一瞬目を見開いた。

 驚いた? 驚いたろう。

 なんせこれは俺たちが高校のときに語る夢の一つだからな。

 うちの大学には言語学校ってもんがあって、言語交換をしたい外国の方々はネットを通じて申請して、大学部の学生も同じことしてから、学校側がペアを作ってくれる仕組みだ。


 「……チェン、お前――」


 「ま、俺が本気を出せばこれくらいのことーー」


 「ついに頭がおかしくなったか?もともとおかしいが、今度は本気でやばいぞ」


 「お前の目に俺は一体どれほど馬鹿なの!?」


 「そこらへんのゴキブリレベル、とか」

 

 生命力が強くて、どんな場合を臨んでも諦めない根性の持ち主というイメージか。てことは、普段から馬鹿にされるのもワンはツンデレの故。

 うん、すごく納得。


 「あ、分かった!またそのネタだな!」


 「は?」


 ほぼ同じタイミングで、ワンも何を納得した顔をし、こっちに向いた。

 なんだか哀れみを込めた目で。


 「分かる分かる。ずっと彼女がないもの、そうなっても無理もない」


 「や、何のこと?」


 「それだろう。どうせさっきのも『俺、彼女できたよ!二次元のだけど』のネタだろう?気付かなくて、すいませんでした」


 「謝らなくていいよ!むしろムカつく」


 どうやら信じてくれる気はないみたい。

 まぁいい、明日だ。明日になって、日本人の女の子と会って、仲良くになると、俺の人生のいよいよスタートラインだ。

 そう思って、俺は口の端を小さく上げた。



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