閻魔の右腕観察日記
今回の主役は、閻魔様の補佐、小野篁さんです。彼、実在の人物をモデルにしております。そのため、物語を書くにあたり実話や逸話を参考にさせて頂きました。しかし、若干事実とは異なるところもあるかもしれませんが、そこはフィクションということでお許しください。
ちなみに、彼は本編で登場する予定はありません。SSだけの貴公子です。
皆さん初めまして。私は閻魔様の補佐を勤めております、小野篁と申します。簡単に自己紹介をさせていただきますと、産まれは平安時代。そこそこ偉い貴族でした。
でも、当時の天皇の嵯峨天皇が、どうにもいけすかない奴でしてねー。何回か喧嘩になって一度は隠岐に流されたこともあります。テヘペロ♪
さて、そんな私が閻魔様と知り合ったのは本当に偶然の出来事でした。私、結構好奇心旺盛なたちで、井戸とか見たら覗きたくなる癖があるんですよ。そして、その日も、六道珍皇寺にある井戸を何となく覗いてみたんです。
そしたら、バランスを崩して井戸の中に真っ逆さま!あの時は流石に死んだと思いましたね。
しかし、運の良いことにその井戸は地獄に繋がっていたらしく、私は生きながらにして地獄に落ちるという貴重な体験を出来たわけです。その時、そんな私に興味を抱いた閻魔様に裁判の補佐をやってみないかと言われたわけです。
二つ返事で受けましたね、はい。だって閻魔様の仕事のお手伝いが出来るとか、これほど好奇心をくすぐられるものはないではありませんか!ただ、閻魔様が少女だったのには驚きました。もっと怖い感じだと思っていたので…。私の驚きを他の人にも味わってもらうために、地上に戻って閻魔様の像を彫ったときはあえてごついおっさんの像にしてみましたよ。ふふふ。この私の像のおかげで閻魔様のイメージは地上では完璧にごついおっさんになったので、毎回地獄に来た人々が閻魔様を見て驚く顔を見れるのが愉しいですね。計算通り。(ニヤリ)
そして、偶然にも手伝いをしたおかげで閻魔様に気に入られた私は、死語もこうして閻魔様の補佐として働いているというわけです。いや、本当にラッキーでしたね。この仕事なかなか愉しいですから。特に、罪人たちをからかう時が面白いです。
さて、長年一人で閻魔様の補佐をやってきた私ですが、最近新入りがやってきました。
彼?を見た第一印象は、面白そうな人キターー!!でしたね。まず、パッと見男性か女性か分からないって時点で変な人確定です。まあ、近くで見たら男ってすぐ分かったんですけれど。
彼…いや、彼女の方が正しいでしょうか。彼女は、男にしては華奢な体躯に中性的な顔立ちも相まって、女装が非常によく似合っています。ただ、身長は180センチくらいあるのでその時点で男と分かりますがね。
彼女は、見た目だけでも十分変わっていますが、実際に話してみると見た目以上に面白いことが分かりました。
彼女が初対面で私に言った台詞がこれです。
「あなた、無駄にデカくて視覚的に何となく邪魔ですね。まあ、これからよろしくお願いいたします。」
まさか、初対面で毒を吐かれるとは想定外でした。果たして、これは無自覚なのかそれとも意図して言ったのか…。
ちなみに私の身長は190センチあります。平安産まれにしてはデカイって?ハハハ、よく言われます。
とにかく、彼女…響が来たおかげでこれまで以上に愉しい日々が送れそうです。さて、彼女は私の好奇心を満たしてくれる存在になるのでしょうか?
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さて、響ですが、なかなか仕事が様になっています。サボり癖のある閻魔様を叱り、罪人の帳簿を確認し、逃げ出した閻魔様を捕まえ、獄卒達への挨拶参りを済ませ、裁判中眠り出した閻魔様を叩き起こし…ほとんど閻魔様のお世話係になっていますね。私は基本閻魔様は放置しているので響ばかりが苦労している状態です。彼女、思っていたより真面目ですね。
しかし、私が予想していたより突飛な行動はまだしていません。まあ、閻魔様と響の絡みは面白いのですが…。
そんなことを思っていたある日、事件が起こりました。その日は、私は響と一緒に罪人の帳簿の確認をしていたのですが、ふと、響の黒い髪の中に一本の白い毛が混じっているを見たのです。
私が早速そのことを指摘すると、響はかなりショックを受けたようでした。
そして、何やらぶつぶつと呟いたかと思うと、急に立ち上がりました。
「…あのサボり閻魔め、絶対に許さん…。」
その顔を見て、思わずビクッと姿勢を正してしまいました。散々極悪な顔をした罪人や獄卒達を見た私ですら恐怖を感じるほど、彼女の顔は怒りに満ちておりました。これは…何やら愉しいものが見れそうな予感がします。
数分後…そこには、仁王立ちする響とその前で身体を震わせながら土下座する閻魔様の姿がありました。
どうしてこうなった。
「おい閻魔。貴女にかけられたストレスのせいで白髪生えてきたんですけれど。これどう責任とってくれるんですか?いっそのこと貴女を裁判にかけましょうか?閻魔の補佐の権限で阿鼻地獄に叩き落としてやりますよ。」
「す、すいませんでした。余が悪かったので許してくださいですはい。」
「謝罪の言葉など聞きたくありません。それになんですか貴女のこの腹の贅肉は。仕事サボって食っちゃ寝してるからこんなだらしない身体になるんですよ。もはや閻魔じゃなくて只の豚ですね。おい、泣くなよ豚。鳴くならもっと豚らしい声で鳴きやがれ。」
「ぶ、ぶひぃぃ…。」
え、閻魔様…。あの傍若無人が取り柄の閻魔様が涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら豚の泣き真似をしていらっしゃる…。面白いものが見れるかもとは思っておりましたが、これは予想以上です。あ、写メ取っておきますね。パシャリ。
「あ、篁さん。」
はいぃぃ!?な、何でしょうか響様!?
「何でそんなビビっているんですか…。ちょっと今拷問中の獄卒達のところへ連れて行って貰いたいんですけれど。」
「え、それはいいですけれど…何をなさるつもりなのですか響様?」
「だから何ですかその呼び方は…。いや、ちょっとこの豚に対する怒りが収まりきらないもので拷問でも手伝って怒りを解消させようかと思いまして。…勿論、案内してくれますよね?」
はい!勿論案内させて頂きます響様!
その後、拷問中の獄卒の元を訪れた響は、「何ですかこの温い拷問は。もっと肉体的にも精神的にも痛めつける拷問をしなさい。私が見本を見せます。」と言って自ら鞭を振るい罪人たちに拷問を与えていました。その表情は、恍惚としたもので…正直めっちゃ怖かったです。それは拷問を受ける罪人やそれを見る獄卒達も同様だったでしょう。
‐この日、響に『閻魔の右腕』の他に新たに『黒の女王』の異名がつくこととなりました。勿論、この異名を広めたのは私であることは言うまでもないでしょう。
数日後…そこには、『黒の女王』の名に相応しく、黒のゴシックドレスを身に纏い、黒のベールで顔を隠した響の姿がありました。腰に提げた鞭や履いているハイヒールも黒という徹底ぶりです。
「恥ずかしい…。どうして私はあの時あんなことをしてしまったのでしょうか…。」
響はそう言って顔を両手で覆い隠しています。あの後、響は我に返り自分のしたことを後悔したようですが最早後の祭り。既に獄卒の中には『響様に踏まれ隊』なども結成されてしまいました。そして…
「おう!響様!早速余をそのハイヒールで踏んでくれぬか?そうすれば元気百倍仕事もバリバリはかどりそうなのである!」
私の目の前には、四つん這いでハアハアと息を荒らげて踏まれるのを待つ変わり果てた閻魔様の姿が…。そう、どうやらあの事件をきっかけに閻魔様は新たな性癖に目覚めてしまったらしいのです。響のこの衣装も、閻魔様が特注で作らせたものです。いやあ、閻魔様は素晴らしいですね!(白目)
この事態には、響も毎日頭を抱えております。しかし、自業自得ですから私は知りません。
それに…こんな愉しい状況、歓迎しないでどうするというのですか。やはり、私の目は間違っていなかったようです。
響もやはり変人にならざるを得なかった…。
そして、閻魔様ぇ…後悔はしていません。