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夏、花火

~~夏休みのしおり~~


・水分ほきゅうは、こまめにしましょう

・熱中症には気をつけましょう

・交通あんぜんに気をつけて、お友だちと遊びましょう

・おうちの人のお手伝いは、すすんでやりましょう

・宿題はまいにち少しずつやりましょう

・「お花」のスケッチはかならず二人一組で行いましょう


それでは、よい夏休みを

せんせいより


***


 ぼくとあすみちゃんは、官舎の駐車場の日かげに「ラボ」をつくった。

 目的はただひとつ。あすみちゃんの頭から生えてきたアサガオの芽を見守るためだ。

 ぼくらのせんせいは、「手入れはいらない」と言ったけれど、そんなことはぜんぜんなかった。


「発射三秒前! さん、に、いち!」


 ぼくがクスクス笑うと、あすみちゃんは「けんちゃん、まじめにやって」と頬をぷうっとふくらませた。

 ぼくらは今、あすみちゃんの頭の上にロケットのはっしゃ台をけんせつしている。というのは冗談で、アサガオのツルをまきつけるために、棒をたてている。

 これがおわったら、日光浴をしなくてはいけない。日光浴のあいだ、あすみちゃんの具合がわるくなるといけないので、水のほきゅうははぼくのだいじな役目だった。


「たぶん、もうすぐ咲くと思う」

「あすみちゃんの勘?」

「うん。さいきんね、植物エネルギーをかんじるの」

「そんなエネルギーきいたことないけどなあ」

「咲いたら、もっと忙しくなるよ。アサガオは朝に咲くんだから、早起きしなくっちゃ!」

「そしたら、ぼくがスケッチすればいいんだね」

「うん。じょうずに描いてね」

「もちろん! そのために、あたらしく色えんぴつ買ってもらったんだ」

「ふふ。マエストロけんたろう、だね!」


 アサガオプロジェクトは日に日にソウダイになっていった。

 ぼくのお母さんは毎日おにぎりをつくってくれたし、あすみちゃんのお母さんはラボにアイスレモネードを運んできてくれた。チームあすみはぼくらの家族をまきこんで、花が咲くのを見守ったのだ。



「けんちゃん、今日もラボに行くの?」


 ある朝、はみがき中のぼくにお母さんがそう言った。


「うん。もうすぐ、アサガオが咲きそうなんだ!」

「ふふ。朝早くからごくろうさまね。今夜、柳沢神社でお祭りがあるの知っていた?」

「ううん」

「あすみちゃんを誘っていってらっしゃい。花火もあがるそうよ」

「はなび!」

「おこづかいも持たせてあげるからね」

「ありがとう、お母さん」

「そうと決まれば、今日は早く帰ってきて、お昼寝してから行きなさいね。夜は長いわよ」


*****


「おまたせ、けんちゃん!」


 小走りで駆けよるあすみちゃんは、夏の妖精みたいだった。水色のきれいな帯を揺らしながら、今にも地面をけって飛べそうだ。


「どうしてだまってるの?」

「ええと、あすみちゃんがいつもと違うから」

「ゆかた、変?」

「ううん、ぜんぜん! す、すごくかわいいよ!」


 ぼくらの頬に、りんご飴が四つならんだ。

 くすぐったいこの気持ちは、植物エネルギーのせいだろうか。とにかくぼくは、このとき、生まれてはじめてのどきどきを経験した。あすみちゃんの顔をまっすぐに見れなくて、地面とにらめっこする。


 ぼくらはふしぎの世界を歩いた。

 一夜限りの、ふしぎな世界だ。

 提灯のあかりが、ぼくらをさそう。

 金魚すくいに、わたあめ、ヨーヨーつり。

 お面をかぶったおとなが、ぼくらをさそう。

 焼きそばやカキ氷は、なぜかふだんよりずっとおいしく感じた。


「ふふ。夢をみているみたい」

「うん! ぼく、こんなに楽しいお祭りははじめてだ!」

「今夜のことは、ぜったいわすれな……」


 空を見上げたさきに、ぼくらは大きな花火をみた。

 あがっては、咲き、ゆらゆらとちって、夜空にとけていく。

 とくべつな言葉はいらなかった。ぼくとあすみちゃんは、きっと同じことを考えていたから。

 かさなった手から、ぼくはあすみちゃんのどきどきを感じた。

 


 その翌朝、あすみちゃんの頭からアサガオが咲いた。

 青やももいろのその花は、まるできのうの……。


「ふふ。二度も花火がみれたね、けんちゃん」


 あすみちゃんの笑顔は、花火みたいにすてきだった。


*****

よこた けんたろう 絵にっき

七月二十五日、どようび


きのうのよると、けさ、ぼくは三度も花火をみました。

いっしょうわすれることのない、たいせつなおもいでです。



 ぼくはその日の絵にっきに、花火と、アサガオと、あすみちゃんの絵を描いた。

 





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