寄り添う
おっじょうさん、おっはいんなさい。
はーい、ありがとさん。
いーちに、さーんし、ごーろく、
「ひーちーはち」
この歌はこの後もずっと数を数えるだけだったっけ。
なにか締めの歌詞はあったんだったか。
ちらりとこちらに目の前の彼が視線をくれたのが何となく分かった。
「クロアチア」
「あんこ」
「コロンビア」
「あゆ」
「ユーゴスラビア」
「あな」
「ナイジェリア」
「……あなぐま」
「…………ま、ま、…あ、マケドニア!」
あ、あ、あぁ……あー
って、
「何で国攻め!?しかも無駄に“ア”ばっか!?ていうかそもそも、しりとりとか懐かしいなおいっ!」
何なんだよその無駄なこだわり。
いや分かるけどね。
何となく続いちゃったら止められない気持ちは分かるけどね。
「……」
「…………」
「寒いね」
「……寒いな」
はー、と息を吐き出せば含まれた水蒸気が凍って細かく広がる。
軽く手を磨り合わせたら、直ぐに目の前から掌が差し出された。
「何?」
「寒いだろ?」
「うん寒い」
にぎにぎと、1人だけ何故か暖かいそれを揉んでいたらそのまま指を絡められた。
「おや、大胆だね」
「まあね」
こんなに寒い中、わざわざ部屋から抜け出して公園のテーブルに向かいに座る。
隣じゃないのは、まぁそういう訳で。
さっきまでいたママさんグループはとっくに寒気から避難していたけれど、万が一の事を考えると下手な事は出来ない。
「冬は帽子を被ってマフラーしてても良いから好きだな」
「僕もサングラスが無いから君が良く見える」
何となく下げていた視線を上げれば、上手いこと君と被ったから可笑しくなってしまった。
クスクスと君が笑う声に俺のくぐもった笑い声が混ざって楽しい。
「いーけめんさん、おーはいんなさい」
「はーい、ありがとさん」
ほんの一瞬だけ引き寄せた体が触れ合って、擦れあった唇が熱を持つ。
「帰ろっか」
「帰りましょうか」
寒がりなのに手袋を付けない俺と、
暑がりなのにポケットにカイロを仕込む君。
いつか来るその日まで。
大切に大切に、毎日を重ねて行く。
いーちに、さーんし、ごーろく、ひーちー……
山吹陸
大学1年生。寒がり。
坂本紅
高校1年生。暑がり。