眩しい
ねぇ、その子はそんなに可愛いかな。
僕はそんなにその子に劣ってる?
僕だって頑張ってるよ。
それでも伸びすぎた身長を縮めることは出来ないし、小さな時から頑張ってきた水泳で付いた筋肉も確かに僕の自慢なんだ。
つやつや輝く真っ白でシミ一つない肌と黒目がちなまん丸の目が羨ましい。
日に焼けてところどころ剥げた、斑な肌と目付きの悪さが恥ずかしい。
もう少しだけ。
ほんの少しだけ可愛くなりたかった。
そう願ってしまうことすら、大好きな両親への裏切りに思えて、変わってしまった僕の価値観が憎らしい。
あの人には唯一無二の方が居たから。
いつ見てもお似合いだったから。
その人の容姿が決して優れているとはいえなかっただけに、僕はあの人に憧れる事だけは許された気になっていた。
「不毛だったなぁ」
世の中見た目じゃないんだだなんて勝手に解釈して、いつか僕にもと自分磨きだなんだと頑張っていたのが馬鹿みたいだ。
結局、王子様が選んだのはそれに相応しくとてもとても美しい子だった。
壇上の上で、さらし者にされる憧れの人は、それでも可愛いあの子の手を離さなかった。
周りの人はあの人を変わったとか、あの子を女狐とか言って叫んでいるけれど、
僕にはあの2人の姿がお似合いに見えて仕方がない。
そんなこと言ったら馬鹿にされるかな。
でも、見方を変えたら周囲の反対にめげず、2人で逃避行に繰り出す王子と姫にも見えるんじゃないだろうか。
だったら壇上で2人を糾弾する彼らは城の重鎮かな。
舞台にも上がれない僕達はただのエキストラ。
いや、こうやってぼうと眺める事しか出来ないのだから僕は配役すら無いかも。
何だか疲れてしまって体育館から飛び出すと、空は2人の門出を祝すように晴れ渡っていた。
ほら、やっぱり世界は主人公達に味方する。
僕の後ろから派手な音と共に飛び出す2人は、そこに立ちすくんでいた僕に驚いたようだ。
すっと、泣きそうに歪んだ顔のお姫様を庇う姿はやっぱりとても絵になっていて、幻想を抱いていた自分に顔が熱くなったのが分かった。
「おめでとうございます。お幸せに」
最後に呟いた言葉は届いたのだろうか。
いや、こんな背景にもならないような存在など彼らには取るに足らないものだろう。
それでも、なけなしのプライドが歪む視界を、最後に残ったそれだけを手放すことが出来なくて俯く頭を無理やり空に持ち上げた。
眩しい、眩しいその空は、やはりどこまでも美しかった。
西条渚
高校3年生。体格と目付き故に人に遠巻きにされている。スポーツ特待生。