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驚く


「ねぇねぇタカちゃん」


「なんだいスギやん」


「飽きた」


「いや、早くね?」


だって事実だ。

グラウンドには青春を全力で楽しむ運動部の奴らが声を上げているし、なんなら俺達だって今頃は前々から約束していたカラオケに繰り出すはずだった。


それがなんだ。

何が悲しくて高校生にもなって漢字の書き取りなんかやっているんだ。


「そら、スギやんが小テストで0点取ったからでしょうに」


「五月蝿いな。取りたくて取ったんじゃねぇもん」


抜き打ちなんて卑怯だろ。漢字なんて滅びれば良いんだ。

だからって、英語になられても死ぬけど。


「"もん"て…お前が言ってもビックリするぐらい可愛くねぇな」


「ひでぇ」


はいはいと手のひらを降って、視線でまだ3分の1も埋まっていないプリントを指される。

分かったよやれば良いんだろやれば。




(嫌なら帰れよ)

とは言わないのは待ってくれているのが嬉しいからで。

興味もない携帯を弄って時間を潰してくれる悪友のためにも早く終わらせなくては。


そう決意すれば、嫌々やっていたときとは違って、もとより多くはなかった課題はみるみるうちに埋まっていった。


「ねぇねぇスギやん」


「なんだいタカちゃん」


あ、間違えた。

消しゴム、消しゴム。


「隣のクラスのスイーツ王子、遂に姫をゲットしたらしいよ」


ビリィッ


「……」

「………」

「…………マジか」

「おう、まじまじ。」


マジなのかぁ。

マジだったのかぁ。


俺達の学校では有名な2人組。

1人は学校中の女子の視線を集めるイケメン様で、もう1人はそのイケメンが懐いてる子。

何となく面白くなって、男子陣は揃って2人を王子と姫だなんて呼んで観察していた。


まぁ、だからそんな2人が遂に付き合い出したと聞けばそりゃあ驚く。


無残にも亀裂が入ったプリントに絶望しながら顔を上げれば、流れるようにセロテープを渡された。


「用意がいいなおい」


「まぁ、予想の範囲内ですよ」


「そうか」


ピーーーー、ピッ

ピーーーーーー、ピッ


「あの姫がねぇ」


なんというか、意地でも認めなさそうだなって思ってたけど。


「まさか受け入れるとは思わなかった?」


何故か掠れた悪友の声に首を傾げながら、少し長く切りすぎたテープをハサミで調節する。


「え?あいつら両思いだったじゃん」


「……気付いてたんだ」


「そりゃ気付くだろー。だって姫って甘いの大っ嫌いじゃん」


「だから、尚更」「尚更あいつといる理由なんて一つしかねぇじゃん」


スイーツ王子、まじで甘い匂い振りまいてたからなぁ。


「…………」


「え、何でだまんの?」


「いや、……スギやんって男同士ありな人だったんだね」


あ、そう言えばあいつらどっちも男か。

あまりにも2人がくっつく事が自然に思えて失念してたみたいだ。


「ありというかなんというか……」


変な誤解は解かなければと慌てて悪友の、タカちゃんの顔を見ると彼は何故かとても真剣な目をして俺を見つめていた。


「どうなの?」


何故かは分からないけれど、何時に無いその様子に、茶化してはいけない何かを感じた。



突然、タカちゃんが遠くに行ってしまったように思えて、

そんな風に考えてしまった自分に驚いた。






「なーんちゃって。ほら早く終わらせないと遊ぶ時間無くなるぞー」


黙りこくった俺に、自己解決をしたらしいタカちゃんはそう言ってテープで張り合わされたプリントを表に返した。


いきなり、現実が戻ってきたように感じた。

誰かのゴールに湧くサッカー部の声援が聞こえる。

今まで話していた事が全て幻に思えるくらい、目の前のタカちゃんはいつも通りだった。








あの時、タカちゃんの精一杯のメッセージに気付けていたら、今も彼は俺の隣にいてくれたのだろうか。

杉本正臣

高校2年生。文系科目が壊滅的に出来ない。人の事には気付けても自分に鈍感なタイプ。


高島平

高校2年生。理系科目は少し苦手。

臆病者で、逃げる事に慣れてしまっている。


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