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強い


男は強ければそれで良い。

真偽はどうであれ、俺はそう考えてここまで生きてきた。


だから、目の前で柔和に笑うこいつの思考が読めない。

何が楽しくて人の面倒を受け入れるのか。

嫌われたくないのだと零すそいつの口が笑みに染まってない時を俺は見たことが無い。



「おい、部活行くぞ」


声を掛ければいつも通り申し訳なさげに合わせられる二つの手。


「すまない、この後日誌を書かなくてはいけないんだ」


その手の主から告げられる言葉はやはり聞きなれたもので、俺には理解し難い理屈で動くこいつの事がまた遠い存在に思えた。


「お前、昨日もそれ書いてただろうが」


「昨日は本当に日直だったからね。今日は三井さんの変わりさ。何でも塾があるらしい」


「あいつ今日はデートだとかほざいてたぞ」


「だったら尚更変わってあげられて良かったよ。彼氏さんが待ってるだろうから」


ニコニコと邪気の無い笑顔が気持ち悪くて吐き気がする。

こいつが無理をしているのならいくらでも動けるが、これは間違いなくこいつの本心なのだ。

だから俺は何も出来ない。

いつものように、こいつを置いて先に部活に行くだけだ。


「終わったら、直ぐに来い」


「りょーかい」


ピシッと額に当てられた掌を無理やり掴んで引っ張ってしまいたい衝動を押さえ込み、教室を後にする。


「強ければ良いんだから、あいつは何もしなくていいはずなんだ」


廊下を歩きながら、吐き出せない苦言を紡ぐ。

中学最後の剣道の大会であいつと当たった時。

俺は、あいつの太刀筋に惚れた。

真っ直ぐに、小細工なしに振り下ろされる姿は俺の理想を体現していて、

同じ高校で一緒に鍛錬できることに歓喜した。

あいつと共に居れば、もっと強くなれると思えたから。


でも、それは俺の勘違いだった。

彼奴は臆病だった。

誰かに必要とされなければ生きていけなかった。

その姿は俺の理想とはかけ離れていた。


だったら見限れば良い。

あいつの生きざまは理解出来ない。

そう分かってはいても、毎日部活へ向かう度にあいつの机に向かってしまうのは、どうしてもあの試合が忘れられないからだ。


「俺では駄目なのか」


俺は他の誰よりもお前を必要としているのに。

ただ利用しているだけの奴らに負けるのか。



強ければそれでいいはずだった。

俺は強いからそれでいいはずだった。

あいつは強いからそれでいいはずなのに、



俺は今日も、練習が終わる頃に慌ててやってくるあいつを待ちながら、竹刀を振り上げた。

木下慎太郎

高校1年生。愛されたい子。


安倍吉彦

高校1年生。強くなりたい子、

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