可愛い
例えばかっこいい男が居たとして、その隣にはやはり可愛らしい女が居ることは必然なんだと思う。
俺は別に女になりたいわけじゃないけれど、可愛いものが好きだ。
ヘアメイクアーティストの父とファッションデザイナーの母、歳の離れた姉は絵本作家。
親戚には花屋さんにお菓子屋さんとか、テディベアブランドの社長までいるという徹底的な家庭環境のおかげで可愛いは身近なものだった。
綺麗でキラキラしてて自分を飾ってくれるものに囲まれていると安心する。
そんな可愛いものの代表である女の子をもっと可愛くして、嬉しそうに笑ってもらえたら俺も何だか嬉しい。
そんな俺の数少ない男の友人が彼、河野晴人。
季節外れの転校生だった彼の容姿はとにかく整っていて、学力も転校してきて直ぐに受けた試験では上位に名前を残した程だ。
そんな奴を女の子が放っておく訳もなく、彼の周囲には可愛い子が自然と集まった。
明るい笑い声は彼女達をわかしたし、男子も彼の裏表のない性格に毒気を抜かし受け入れた。
彼はあっという間にクラスの中心人物になったのである。
「晴人君はオレンジが好きなんだって!学がオススメしてくれたチークのおかげで褒められちゃった!」
「あれはオレンジはオレンジでも派手じゃないから麻友に似合ってたもん。当たり前だよ」
「学の言う通り抹茶味のクッキー好評だったよ!甘すぎるの苦手らしいから危なかったなぁ」
「良かった良かった!次はスコーンとかにして中にチーズ入れたりしたらどう?」
「新しい髪型可愛いねって言われちゃった!」
「花奈は小顔だからショートカット似合うと思ってたんだよね!さすが俺!」
俺は他の男子より女子と仲良かったから必然的に彼の話も良く聞くことになった。
たくさんの女の子に愛される彼は物語の王子様のようで、前から可愛かった女の子達はそれこそ一気にお姫様のように輝き出した。
女の子は恋をすると綺麗になるというけれど、ここまで大勢にも効果があるとは驚きだ。
俺は物語の魔法使いのように彼女達の綺麗を作っていった。
俺は可愛いを彩るのは得意だけど女の子にはなれないから。
彼の周りに彼に似合う可愛いを送り込むため日々精進するのだ。
今日も彼の世界は美しい。かっこいい男の子と可愛い女の子。
素敵で素敵な俺の理想。
だから俺が最近マニキュアをオレンジにしたこととか、クラッカーのディップソースに凝りだしたこととか、襟足まであった髪を思い切って短くしたことは偶然の産物であってわざとではないのだ。
「俺の好みの子か?そうだな…高橋が女なら間違いないんだけど流石にねっ」
「ほんとにー?まぁ、俺も女なら河野に惚れるかもね」
「お前が言うと洒落になんねーなおい」
「あははっ、何言ってんのさ」
そう、偶然なのだ。
ただ、俺は冗談めかして笑う君の耳が色付いているのを知っていて、可愛いは俺の味方である。
それだけだ。
河野晴人
高校三年生。何でもこなせちゃうスーパーボーイ。最近理想が服を着て歩いてるという言葉を実感させられた。
高橋学
高校三年生。女子力カンストしてる系男子。脱いだら以外に筋肉がある。