嫌い
コーヒー牛乳より濃いめに入れたブラックが好き。
見るからに甘そうなお菓子は目の前にあるだけで胸焼けがする。
そんな自分が嫌いだ。
「拓也くん!今日はクッキー焼いてきたんだ」
「私はドーナツにしてみたの」
「今日の自信作はシュークリームよ」
賑わう集団を避けるように廊下の端を進めば彼女らが持つ甘い匂いが鼻をついた。
あぁ気持ち悪い。砂糖とチョコとクリームの波が襲いかかるようで軽く口を抑える。
「お、佐藤じゃん!はよー」
元凶を軽く睨めば丁度良く目が合ってしまい、両手いっぱいに「甘い」を抱えたテロ兵器がこちらにやってきてしまった。
「…来なくていいのに」
思わず憎まれ口を聞けば、お菓子に負けない甘さを称えるその顔が拗ねる。
「えー。友達にあったらまずは挨拶だろ。お前は返してくれたこと無いけどさぁ」
「俺は大島とは違う」
お前に見つかると、女性陣が怖いんだよ。見ろよあの目。間違いなく殺気篭ってっから。
「あ、これありがとね!大事に食べるから!」
でもそんな恐ろしい彼女達だって、バイバイと笑顔でこいつが手を降れば別人のように蕩けるから、なお怖い。
呆れて勝手に歩けば、慌てたように追いかけてきた。
「うふふ。今日も大量大量。あ、佐藤にも一口あげようか?あの子のシュークリーム美味しいんだよ」
「いらない」
「えー?本当なのに。甘いの苦手って絶対損してるぜ?」
「煩せぇ。苦手なんじゃなくて嫌いなんだ」
「そうなんだよなぁ、お前飲み物はブラックだし、食べても煎餅までだもん。俺には耐えられない」
首を降る度に薄茶色に脱色された髪が浮き、また甘い臭いを撒き散らす。
「お前臭いから近よんな」
「うわ酷っ」
だって事実だ。心持ち早めに歩いても大島は離れてくれなくて辟易する。
「佐藤桂樹だなんて最高な名前してるのにそれだもんな。可愛くねーの」
知らねえよ。胸に刺さった小さな刺を無視して俺は顔を背けた。
「はいはい、それで?シュークリームの彼女が運命なのか?」
「いや!確かに美味しいんだけどまだ足りない!俺は身も心も甘ーい可愛い子と付き合うんだから」
女の敵め。
「幸い容姿には恵まれたんだし、どうせなら何時でも甘い気分で居たいだろ」
適当に聞き流しながら、漂う臭いにまた気持ち悪くなってきて吐き気を堪えた。
「だってこんなに甘くて美味しそうなんだから」
俺は、甘いものは嫌いだ。
大島拓也
高校二年生。甘い容姿と飾らない性格で人気者。甘い物が大好き。
佐藤桂樹
高校二年生。どちらかというと恰好いい系。甘い物が嫌い。