リニューアルOPEN
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店が火事で焼けてしまってから、約一ヶ月と半月。二十五年ぶり位に私はのんびりと専業主婦して店の改装が終るのを待っていた。
もともと、落ち着きの無い気性なもんで。家でずっとだらだらと過ごせたのは、三日間だけやってんけどね。その後は『黒猫』を少し手伝わせてもらったり、松爺の家で掃除や洗濯にご飯の支度をしてあげたり、温泉旅行へ行ったりしてなんとかこの休業中の時間を消化することが出来た。
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「思ってたよりも、家が傷んでて改装に余計な日にちがかかってしもて悪かったな~! やっとこさ、工事も無事に済んだからいよいよ明日から引越しやな! とにかく引越しせんと店もオープン出来んからな!」
「何から何まで、松爺にお世話になってしもて……。ほんまにありがとう。しかも、こんなに店を綺麗に改装してもらえるやなんて。ほんまに、感謝してます」
「いやいや。陽子ちゃん。気にせんといてや! これは、ワシがワシの居場所を守るためにやったことやからな! へへへ」
改装工事の終わった店の中で私と松爺は最終チェックをしながら、カウンターへ座って少し話し込んでいた。
「オトンは? また、旅か?」
「あはは。そうそう! オトンも家でのんびりしてられるんは、三日間が限界やからね。今度は東北へ行くって張り切ってたわ!」
「二人とも自由人で良かったな! 比奈ちゃんも両親のそういうところをきちんと理解出来てるみたいやし、ほんまうらやましいわ。ワシは子供もおらんし、カミさんには先立たれるし、今は少しおかしな猫のミケランジェロだけがワシの家族や」
松爺は少し寂しそうに笑うと、オープンにはまた顔出しするからと言って帰って行った。
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私が家に帰ると、比奈が麻由美ちゃんと美花ちゃんと三人で引越しの荷物を纏めてくれていた。この三人は手際が良いので食器類なんかは、すでに纏められていて綺麗に積み上げられていた。
「ただいま~! もう、こんなに荷物が纏まってる。引越し屋のプロみたいやな! すごいなぁー!」
「そやろ? 麻由美ちゃんも、美花ちゃんもすっごい手際がええんよ! ほんまにプロになれそうやわ」
「比奈ちゃんもオカンもちょっと、それは褒め過ぎやで!」
「そうそう! こんなん普通やから! それに、もともとオカンが綺麗に整理整頓してるから、ダンボールにも纏めやすかったんやで!」
私と比奈が二人を眺めて感心してると、二人とも照れくさそうに笑って顔を見合わせていた。
「それで? 店はいつ頃にオープン出来そうなん?」
「そやなぁー! 多分、来週の月曜からは営業再開しようかなぁって思ってるんやけどな」
「ほんまに? 嬉しいわー。仕事終わったら、絶対に夜定食を宗ちゃんと食べに来るわ!」
麻由美ちゃんにいつ頃オープンするのかを聞かれて、私が来週ぐらいって答えると美花ちゃんが、嬉しそうに声を上げて喜んでくれていた。
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夕方になって宗ちゃんや、こうちゃんも家まで来てくれて一緒に最後の荷物の片付けを手伝ってくれていた。
「そう言えば、せいちゃんはいつ引っ越して来るん?」
「ああ。せいちゃんも明日やで! いっぺんに済ませたほうが楽やし、せいちゃんの荷物は軽トラで十分積んでこれるって言うてたしね」
「心配してうちが大丈夫なんか聞いたら、面倒やから足らん物は、こっちで落ち着いてから買うって言うてたわ。せいちゃんらしいやろ?」
この家に越してくる予定になっている私の妹の次男で、甥っ子の誠二のことをこうちゃんが、心配して聞いて来たので私が誠二も明日越してくると答えると、せいちゃんと連絡を取りあっていた比奈も笑いながら誠二の現状をこうちゃんに話していた。
その後も、たくさん『オカンの店』の常連さんたちが手伝いに来てくれて、引越し荷物も綺麗に整理整頓されて、明日は気持ち良く新しい私のお城へ引っ越せそうやった。
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翌朝。六時には起きてしっかり比奈と朝ご飯を食べて、引越しのトラックを待っている間に二人で掃除をしていると、めずらしく比奈の旦那の雅章さんが休みがとれたと言って手伝いに帰って来てくれた。
「まさか、雅章が休み取って帰って来るなんて思わんへんかったわ」
「失礼やな! オレかて一応気にしてるんやで! いつもいつも、比奈と絵美里を放ったらかしにして、仕事仕事で申し訳ないってね」
「何言うてるん! 旦那さんの雅章さんがしっかり働いてくれるから、比奈がゆっくり絵美里を育てれるんやで! もっと、偉そうにしててええんよ!」
久しぶりに帰って来て申し訳なさそうにしてる雅章さんの背中をおもいきり叩いて、私は気合を入れてやった。ほんまに、雅章さんはオトンの若い頃にそっくりで笑える。三人で珈琲を飲んで一息吐いてから、私と比奈は雅章さんに起き出してきた絵美里を任せて、残りの掃除を済ませていつでもトラックが来たら、すぐに荷物を運び出してもらえるように玄関で待っていた。
午前八時に引越し業者のトラックが到着して、あっと言う間に荷物は運び出されて、私は業者さんと一緒に新しい家へ向かった。比奈と雅章さんには家にいてもらって、誠二が来たら手伝ってやってくれと私は雅章さんに頼んでおいた。南公園の側の新しい家では、すでにこうちゃんや宗ちゃんに麻由美ちゃんに美花ちゃんに真斗さんに亜紀ちゃんも手伝いに来てくれていた。
「朝早くからありがとう! こんなに来てくれてんなぁー!」
「ようさんおったほうが、早く片付くやろ? 新しい店も見たいしね」
「がんもとミケは? 若先生に預かってもらってるん?」
「そうやねん。万が一ってこともあるやろ? そやから、若先生に昨日の夜から預かってもらってんねん」
私とこうちゃんたちが話をしてる間に、業者さんがトラックからどんどん荷物を下ろして運んでくれていた。
「すごいなぁー! やっぱりプロは手際がええな!」
「このペースやと、夕方にはゆっくり出来そうやね」
「そうそう! 商店街の竹寿司のタケさんが夕方お寿司を差し入れするって言うてたで!」
「え!? ほんまに? 嬉しいわー♪」
こうちゃんから、竹寿司のタケさんが差し入れしてくれると聞いて私はほんまに嬉しくって、その後はもう鼻歌を歌いながら荷物の片付けに取り掛かった。
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荷物もそこそこ綺麗に片付いて時計を見ると、夕方の五時を過ぎたところやった。
「やっぱり、みんなでやったら早いな! ほんまありがとう~!」
「気にせんといてや! うちら、少しでも早くリニューアルオープンしてほしくて手伝ってるだけやし」
「そうそう! もう~早く店を開けてもらわんと、ストレスたまりまくって大変やからね」
私がみんなにお礼を言うと美花ちゃんや麻由美ちゃんが笑いながら、店のオープンを心待ちにしてくれてることを話してくれて私は感極まって涙が出そうになってしまった。
「そんな風に言うてもらえて、ほんまに嬉しいわ。長いこと店頑張ってきてほんま良かったわ……ありがとう」
「ちょっと、ちょっと! オカン! どないしたんよ! 涙腺ゆるすぎやわ!」
「そやねん。最近、歳なんかしてすぐに涙が出るんよね。フフフ」
私がお礼を言いながら、熱くなった目頭を押さえてると麻由美ちゃんが驚いて私の背中を優しくさすってくれていた。
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午後七時には、甥っ子の誠二の荷物も片付いたので、雅章さんと比奈と絵美里と一緒に誠二も新しい家に来て、みんなで引越しパーティーをすることになった。丁度良いタイミングで、タケさんが大きな桶にお寿司をようさん握ってくれて店に差し入れしてくれた。その後すぐに、亜夜子ママが高田さんと一緒にウイスキーとブランデーを何本か差し入れに持ってきてくれて、一緒に引越しを祝ってくれていた。もちろん。『黒猫』のマスターもクマちゃんとやって来て、自慢のサンドイッチを差し入れてくれた。
「ほんまに。みなさんありがとう。こんなにようさんの人に手伝ってもらったり、差し入れしてもろたり、ほんま私は幸せ者です。今まで店やって来てほんまに良かった思います」
「そやで! オカンは幸せもんや! そやから、これからも元気で頑張って店を続けてや! 頼むで!」
「オカン! おめでとう!」
「おめでとう~!」
こうして、無事に引越しも済ませて、翌日から私は気持ちを新たに『オカンの店』をリニューアルオープンさせることが出来ました。ほんまにありがとう。そして、これからもよろしくお願いいたします。