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ヤルダバオトは眠らない  作者: 羽賀智基
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第一章 人格破綻者と笑えない僕 -7-

ジェネシスウェルネス社は、名前に反してと言っては何だが中華系の企業であるようだ。実態があるとは言ったが、日本支社の規模は小さい。


「日本支社では遺伝子検査とサプリメント販売をやってるのか」

「会社全体としてもそんな感じのようです。遺伝子組み換えなんてやってる感じではないですね」

「妙だな」


三人ともジェネシスウェルネスのウェブサイトを見ている。特に妙なところはない。遺伝子診断でバストの悩みを解決、と謳っていること以外は。うん、それ薬事法違反だと思う。おもむろに水島がサイトのコードを見始める。


「コードも変なところはないな。マルウェア仕込んだりもしてないし、きれいなもんだ」

「でも、病院と警視庁の判断としては遺伝子操作の痕跡があった、という結論だったんですよね」


会社から調査するのは手間がかかりそうである。調査として、次は何を行うべきか…そう思っていた時だ。


「うーん。こういうのは警察の領域だとは思うが、被害者に直接聞けたら聞いてみるのもいいんじゃないか?」

「…それ、いいんですか?」

「被害者が了承すれば、という前提だがな」

「加害者にも聞けないものかな」

「そっちの方が難しいと思うが…まぁ警察の方は俺がアポ取ってみるよ」


結局、水島はジェネシスウェルネスの調査、リーダーが被害者と加害者にアポイントを取ることになった。リーダーが警察とやり取りしている。水島は水島でなにやらPCの前でうんうん唸っている。中国の本社のページを見ているらしいが、殆ど中国語で一部英語だという。中国語なんて大学の教養以来見たことがないんだけど。


僕はと言えば、新規に回ってきたファイルを分類するだけのお仕事に取り掛かっている。新しくやってきたファイル群も、なかなかどうしてオカルト雑誌の編集者たちが見たらよだれをたらしそうなタイトルが付いている。


「サプリメント摂取による組織異常発生事件」


…あれ?僕は少しページを戻す。このサプリメント…って


「すいません!ちょっと来てもらえますか!」

「どうした?」


調査に行き詰っていたのか、水島が即こちらにやってきた。ちゃんと仕事しろ、とも思うんだが…こちらはこちらで気になる話なのでそうもいえない。


「いえ、このサプリメントってやつなんですが、中国で生産しているっていうんですよ」

「よくあることだろそんなの」


水島が憮然とした顔をする。


「この会社が商品を卸している先に、件のジェネシスウェルネスがあったとしても、ですか」

「なん…だと…?」

「そりゃまたどういうことだ」


リーダーも電話が終わったらしくこっちにやってきている。


「どうも、この会社の商品なんですが、2例ほど変な病状が発生した例があるそうなんです。病変を発生させた患者の組織を調べたところ、遺伝子の変異がピンポイントに見られる、と」

「どうなってるんだそりゃ」

「よくはわからないです。ただ、今回の事例と似てませんか?」

「確かに似てるな」


だんだんきな臭くなってきた。無責任な加害者のせいで変なことになったんじゃないかと思っていたのだが、それだってあやしいかもしれない。


「加害者…旦那はなんで嫁の遺伝子組み換えてまででかくしたかったんだ?」

「うーん」

「前提がおかしいんじゃないか?」

「というと?」

「旦那は、本当に嫁を自分のわがままで思うようにしたい悪い奴だったのか?ってことだ」


正直なところ、それは本人でないとわからないと思う。


---


翌日になって、まず被害者とのアポイントが取れることになった。僕たちが被害者の家に行くことになった。リーダーは別の会議があるから、僕と水島だけだ。


地下鉄に乗り込み、目的地をスマートフォンのアプリで確認していると、水島が紙を取り出した。


「あれ?携帯ないんですか?」

「携帯の調子が悪いんだ。仕事終わったらショップによってく」

「…今日、直帰するつもりだったんですが」

「別に付き合わなくていいって」


地下鉄に揺られながら、こちらを見ずに水島が答える。僕だけ座ってるんだけどいいのだろうか。周囲も混んでるし仕方がないけど。


「でも水島さん、どの道戻るんですよね」

「…住んでるからな…」

「というより、今日の予定として直帰にしてました?」

「でも戻る先が職場で直帰っておかしくねぇか?」


水島が半ば非難するような声を上げる。


「そうじゃなくて、残業代出せませんよって言ってるんです」

「交通費出るなら別に文句言わん」

「だったら最初っから直帰にしておけば…」

「ったくそういうのがめんどくさいんだよな、職場って」


そんなんだから、前の職場でもうまくいかなかったんじゃないかって言いたくなったんだが我慢する。僕は家族でも何でもないんで、そこまで言う筋合いはない

し、第一めんどくさい。そういうのはリーダーにでも任せておこう。


「じゃ、帰るときにリーダーに連絡だけ入れときます」

「わかった」


そういうと、また紙に目を落とす水島。


「何見てるんですか」

「いや、これから行く被害者の家だけど、いい所に住んでるなぁって思って」


職場に比べれば、どこだっていいところだろう。住み込みってどこの現場の話かと思う。


「…加害者、というか夫は年収1400万円の外資系企業に勤めてるらしいですから」

「そりゃ白銀台にも住めるっていうものか…」


世間から見れば安月給なんて言えないかもしれないが、上には上がいるなと僕は少しうらやましく思った。水島はもっとうらやましそうであったが、お前の場合は自業自得だと思う。

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