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ヤルダバオトは眠らない  作者: 羽賀智基
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第一章 人格破綻者と笑えない僕 -4-

この日一日でリーダーこと山岡雄二がニヤニヤした回数を僕はカウントしていないが、少なくとも5回はあったろうか、その原因全てが厄介事だったことを考慮すると、この水島という男の厄介っぷりは人間災害といっていいレベルなんじゃなかろうか。その時はさすがに言いすぎかと思っていたが、後々考えるとそんなに的外れでもなかった。話を戻そう。


「我々の機関だが、要は消費者庁の外郭団体としてお客さま、つまり国民の皆様からのクレームを受け付けるところだ。その中でも私たちの部門は、ほぼ詐欺といってもいいような団体を相手にすることになる」

「大役ですね」

「そう気負わなくてもいい、箱崎君。…ちょっと固いかな」

「いえ」


リーダーが少し真剣な顔で話を進めているので、こちらもつられて真剣な顔になっていた。水島もそれなりに真剣な顔をしている。もっともこっちは、おそらくさっきのとんでもない労働契約書のことと比較しながらのことだろうが。


「特定の例をあげないとするなら、水になんらかのエネルギーを与えてその水が病気を治すとかそういうやつだな。ここからが重要だ、特に水島にな」

「なんだ」


水島も多少不安そうである。この男でも不安になることがあるのかと思うと少し面白かった。僕は性格が若干悪いのかもしれない。


「そのエネルギーとやらがどうでもいい、あるいはまったく存在しないものならばまだいい。そんなのはただの詐欺だ。だから我々のチームの対象外ということになる」

「対象外?」


水島が手帳を取り出している。こう見えても社会人経験がありそうだこの男。


「我々の相手は、その水に例えば放射性物質を混ぜてるような連中、ということになる」

「…病気を治すどころか悪くなりますねそれ」

「量によるだろうけどな。ラドン泉とかもあるから悪い効果だけってことも存外ないのかもしれないけれどさ」


ここまで聞いても僕はあまり実感を持てずにいた。詐欺師を相手にする正義の味方、割とドラマなどにはよく出てくる。○査のなんとかとかそんな映画もあったよね。しかし、詐欺師というよりこれは…


「いまいちわからないな。もう少し具体例を挙げてほしい」


水島がらしくないことをいう。初めてじゃないか、まともなことを言ったのは。


「そうだな。では数年前に発生したクイーン細胞事件のことを例に挙げよう。どこまで知ってる?」

「俺は大体は知っていると思う」

「…すいません、不勉強で。論文が撤回されたくらいしか知りません」

「そうか、じゃあ箱崎君のために簡単に説明していこう」


クイーン細胞。それは胚性幹細胞や遺伝子導入性幹細胞を超える究極の万能細胞という触れ込みでマスコミに大々的に報じられていた。しかし、その実態は胚性幹細胞だった。さらにおそろしいことに、胚性幹細胞を作る際の受精卵を不正に調達していた…要は人間のもとをどこかから不正に持ってきていたというのだ。

このことが明るみに出ると、クイーン細胞の開発チームのリーダーであるケビン山崎博士は自殺してしまった。そして主要な開発者の大久保奈津子は、現在収監中である。


「我々は警察組織ではないので、犯罪自体を調査するわけではない。この例で言うなら、胚性幹細胞をどこから持ってきたのかを調査する部分だな、を行った」

「警察と研究者の中間みたいですね」

「まさにそんな感じだな。疑似科学、と言ってしまっていいかどうか分からないがの中で、危険なものや人道に反するようなものを調査するチーム、というところだな」

「でもそこまでえげつないものは、そうはないんじゃないか?」


水島が少し引き気味につぶやいた。


「確かにな。クイーン細胞事件はさすがに特殊な事例であるといえるだろう。しかし、だからといってありえないと断言するのは科学的態度とはいえないのではないか」

「それはそうかもしれないが、そもそもチームとしてやっていけるほどの仕事が入ってくるとも思えないが」

「なんとなく今フラグが立ったような気がする」

「不吉なことを言わないでください」


またリーダーがにやりと笑った。僕はリーダーのこともあきらめないといけないようだ。もっともそういう人でなければ、疑似科学の中で危険な代物と相対するというようなことはやれないだろうけど。


「まぁ、気楽にやればいいと思うぞ。仮に危険なことを見落としたとしても、我々のチームが最終安全弁ってわけじゃないし、逆に見つけられたらラッキーくらいで考えている」

「やけに過小な扱いですけど、それで我々の給料って大丈夫なんですか?」

「そこんところはこいつの親元から出るからどってことはない」

「なんだかなぁ」


なんとも不思議な組織だ。実質水島の首輪くらいの役割しかないんじゃないだろうか、特に僕。


「あとだからといって、特に水島、適当にやろうとか思うなよ。監視の目は常時光ってるんだから」

「適当にやるなって、一体何をするんだか…」

「まずはそうだな、回ってきてる事件が既にいくつもあるんで、そのファイルの調査だな」


そういうとリーダー、ファイルを取り出した。


「新型冷温核融合による火災と放射能汚染について」


いきなり刺激的な、その分野の人たちには感涙もののタイトルが目に飛び込んできた。モーとかいうオカルト雑誌があったと思うけど、そこに売り込んだらいい値段で買い取ってくれるんじゃないか?

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