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ヤルダバオトは眠らない  作者: 羽賀智基
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第一章 人格破綻者と笑えない僕 -1-

※本作品はフィクションであり、登場する人物、出来事、事件、企業等はすべて架空のものです。

 …ですので、登場する人物、出来事、事件、企業等に似たようなものが仮に現実に存在し、心当たりがあったとしても、あくまでも架空のものですので通報、告訴、脅迫などはお控え願います。

 

自分で言うのもなんだが、僕は冷静な方である。

そのことを時にに冷やかされることがあったくらいだ。


だが、あろうことか配属初日に、拘置所にこれから同僚となる人間を引き取りに行くという状況で冷静になれるかというと、少々無理があるのではないだろうか。そしてよりによって、その同僚が開口一番言い放った言葉には、さすがの僕も怒りを覚えた。


「ん?あぁ来てくれたのか。早速で悪いんだけど、そこのおまわりさんたちにぶち込む相手間違ってるって言ってくれよ」

「あなたは何を言っているんですか」

まだこの時は、あくまでも冷静にぶち切れていた。


国Ⅰ、世間では官僚といわれる立場になった僕であるが、消費者庁からいきなり出向させられた関連コンソーシアムに配属される、これはまだ理解できる。

しかしよりによって、出向したその日になんで警察署に行く必要があるのか。


…実のところ、この時点ではこの先警察に頻繁に出向くとは思わなかった。

警察と仲良く、とまでは言わないけれど、協力して仕事をすすめて行く必要があるというのは後ほど知ることになる。であるが、それはあくまでも協力者としてで警察署に出向くのであって、犯罪者として警察に出頭するわけではない。


にもかかわらず目の前のこの男は、一体何をやったんだかは知らないが、少なくとも警察官が犯罪だと思うようなことをやらかしたにもかかわらず、私はやってない潔白だとでも言いたそうな涼しい顔をしている。


「大体ですね」

「OK落ち着こう」


僕の上司に当たる、恰幅のいいロマンスグレーの髪の男が渋い、だけれども明るい声を僕にかけてきた。


「まだ彼が何をやったか、話してもらってないじゃないか」

「それは…」

「それよりお互い自己紹介もすんでないだろ」


男はつくづくマイペースだった。言われてみれば確かにそうである。

最近の拘置所ってのは意外にきれいなんだな、と映像でしか見たことがなかった僕は男の部屋を見ながら思った。少し冷静になれたかもしれない。


「私からでいいか。私は山岡雄二。君らの所属する特種分析班のリーダーだ。リーダーといっても君らと違って細かいことはわからないから、マネージメントなどで君らをサポートする形になるな。よろしく頼む」

「はい」

「…はい」

「私のことは…せっかくだからな、そう…リーダーと呼んでくれ」

「は?」


もうこのあたりから、僕のペースは崩され始めていた。


「んで、こっちの檻の中にいるのが…水島望。実際のところ彼にはある意味では期待していないが、別の意味では非常に期待している」

「…どういう、ことだ?」


檻の中の男が怪訝な顔をする。


「大体特種分析班ってどういうものなんだ?」

「いわれてみれば、僕もまだよくわからないのですけれど…資料やパンフレットの中にそんな組織は存在しないんですが」


不意に水島ににらまれる。僕はびくっとした。おかしなことを言ったつもりはないが、実際存在しない組織ってのはいい気分はしないだろう。


「おいおい、そんな顔するなよ。君の言ってることは間違ってはいない。組織改正で新規に急造された組織だからな。なにしろ、水島君のために作ったようなものだ」

「俺のため?」


僕もさすがに不安になってきた。それはそうだろう。この犯罪者一歩手前か一歩先かのやつを中心に据える組織って、いったいぜんたいどういう組織だ。

アニメや映画で犯罪者を利用する組織なんてのはちらほら見るが、まさかそれを現実にやろうというのだろうか。


「そうだ。君の話はいろいろ聞いていてね。面白かったのはほらあれ、『盛り塩ってレベルじゃねぇぞ!』事件」


…なんだそれは。


「あの話は傑作だったなぁ。そもそも君幽霊とかあんまり信じてないたちだと思うんだけど、また何でそんなことを」

「いや、幽霊ってのがいるかいないかよくわからないんだが、もし仮にいたとしよう。あくまで仮に、だが」


不意に檻の中の男の目が猛獣の目になった。


「いろいろ目的はあるが、盛り塩は行われているわけだ。もし、幽霊に盛り塩が有効であるなら、もっとこう、大量の盛り塩をやってみたらどうだろうって」

「試してみたのか」

「ああ。幽霊が出るといういわくつきの物件で」

「どのくらいの盛り塩してみたんだ」

「ざっと50kgくらいか」


…盛り塩ってレベルじゃねぇぞそれ。

リーダーはニヤニヤしている。僕は少し頭痛を感じた。


「で、結局どうなったんだ」

「実際のところ幽霊がいるかどうかはわからなかったが、代わりにびっくりした奴がいた」

「誰だ」

「今でもいるんだなぁ、地上げ屋」

「あぁ、そういう」


どうやら幽霊が出るという噂やら細工やらしかけて、家から人間を追い出したかったらしいのだが、よりによって仕掛けようとした相手が救援に頼んだのが件の人格破綻者で、その結果ぎょっとしたのが地上げ屋だったというなんとも笑えない話であったようだ。


「で、今回は何をやらかしたんだ」

「波動カウンターに闇の波動を浴びせたら、燃えた」

「お前は何を言っているんだ」


 ダメだこいつ。早く何とかしないと。


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