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ヤルダバオトは眠らない  作者: 羽賀智基
19/22

断章 -1-

まただ。また夢を見ていた。

3度目ともなると慣れたものではあるが、やはり自分が別の存在になっているというのはいい気分ではない。


僕は今度は何者かから逃げ出していた。今度の僕は、異常な性行為に対して嫌悪感を抱いていた。よかった。少なくともそのあたりの感覚が一致しているというのは若干だがほっとできる。


それにしても僕はなぜ逃げているのだろう。

僕の腕には入れ墨のようなものがある。どうやら今度の僕はクローンらしい。ちょっと前に作られてた、ゾンビゲームのスピンオフ映画の主人公か。1作目だけだろあれ面白かったのは。いや僕はゲームやったことないから知らないけど。


まさか僕、性行為されるためにクローンとして作られたとか、そういう設定の夢か?おいおい、逃げながら僕は心の中でため息をついた。あの偽神、相当な好き者らしい。まさか処女がいいからとかそんな理由だったら、殴りたい、その笑顔、である。


前の僕の処女膜だけ再生すりゃいいだろうが、と思ったがそれを偽神に言ったところで仕方もないし、第一すでにやってそうだ。それにそこだけ処女でも中身がビッチじゃあなぁ…前の僕の方も相当な好き者だったように思えるし、それじゃあ新鮮さもないだろう。


いずれにしろイヤな話である。今度の僕が逃げ切れることを祈ろう。


---


気が付いたら場面が転換していた。

どうやら僕は逃げ切って、愛する人と子供を2人作っていた。子供も結構大きくなっていた。飛びすぎだろ。いやまぁ過程を知りたいわけでもないのだが。


どうやら僕が住んでいる村は時代相応のようである。それでも、クローンが持ってきた知識と技術によって、よその村に比べれば相当裕福に暮らしているようだ。そりゃ元の暮らしに比べるべくもないが、好きでもない奴に変態行為され続けるってのに比べればマシじゃないか。


僕は村に食料としてトウモロコシを持ってきたようだ。それ以外にも見たことのない豆とか野菜とかも携えている。…どうやらこちらは失われてしまったようだ。多分僕が持ってきたもの全てをあわせると、結構健康的な食生活が出来たのかもしれない。トウモロコシは栄養価がそこまで高いわけではないので、それだけ食べている人に栄養障害が起こっていたなんてことも聞いたことがある。


クローンは「白き神」だったのか?

なるほどトウモロコシってやつは原種とされる植物と似ても似つかない姿である。どうやらクローンは人類の歴史にものすごく重要な役割を果たしているということになる。これ学会の偉い先生に見せたらどんな顔することやら…クローンのせいで人類史がいろいろヤバい。


クローンは子供たちを見ながら微笑んでいる。いいお母さんのようだ。子供たちもいい子で、まだ小さいのに親の手伝いをしっかりやっている。僕まで微笑んでしまいたくなる。


ふと空を見る。クローンは恐怖と嫌悪感の入り混じった表情で…


…その天まで届きかねない巨大な樹を見つめていた。

巨大な樹は…羽のように葉を動かしている?そして、樹が動き始めた。


---


また場面が転換している。

なんなんだよあの化け物は。あんなもの作れる相手に勝てるとも思えない。

にもかかわらず、僕は村の人たちとともにあいつに立ち向かおうとしている。

 

 …何故そんなことをするんだ


違うな。なんとなくわかる気はする。人間の矜持だ。例えどれほど圧倒的な力を持とうと、一方的に支配し蹂躙する、そんなことが許されるだろうか?


僕たちは一方的に蹂躙されていたが、その一方でクローンはあるプランを立てていた。超高速飛行船による強襲。飛行船は2隻用意して、一方をデコイにして大量のドローンでかく乱する。巨大な樹とも巨大なヘビともつかぬその空に浮かぶ怪物の司令部に突撃するというなんとも無茶な方法だ。


それにしてもクローンはいつの間にそんなものを用意していたのだろう。クローンが強襲役、僕の夫はかく乱する役目のようだ。他の村人はというと、どうやら対物ライフルや砲撃、ロケット弾のようなもので支援するようだ。…おかしいだろこんなの。歴史学者は見てはいけない。


戦いが始まった。相手も大量の飛翔兵器を放出し、そこから無数のドローンを放出して村を襲う。…これみんな大丈夫か?と思ったら何故かドローンがぽたぽたと落ちていった。なんだこれ?


僕はというと夫たちがかく乱している中、なるべく後ろをついていき…一気に近づいて…加速する!飛び交う飛翔兵器の何倍もの速さ、いや、音速を優に超え、大気との摩擦で加熱する温度にまで加速する!狙い通りに…命中した!


---


クローンはどうやら目的を果たしたようだ。だが、その代償は大きかった模様で、気づいたら死にかかっている。偽神はクローンに毒殺されたようだが、クローンは僕で激高したオリジナルに刺された模様。何だよこの三角関係。


オリジナルはしかし、勝ち誇った顔をしている。え?何?脳イメージ記憶?なんだよそれ?遺伝情報と組み合わせればいつでも復元可能?死なない?…脳の記憶と遺伝子保持して、そこからいつでも復元できるらしい。でもさ、それって連続性ないと思うんだけど…そいつは、本人じゃないのではないか。


さすがにクローンも悔しそうだ。そりゃそうだろう。偽神は死なん!何度でもよみがえるのだ!ってそりゃないよと思うよね。


…ところがここで異変が起きる。バックアップ機能が異常になっていたようで、どうやらオリジナルクローンが混同され、クローンの脳イメージがオリジナルに上書きされるというのだ。


あせったオリジナルが強制介入しようとしたが…僕の子供たちと、夫だ。あ、こらオリジナル刺すな。…これもうどうなるんだろう。オリジナルクローンの両方の脳イメージがコピーされていく。


クローンは子供たちと最後の別れを惜しんでいるようだ。


…どうやら子供たちは西に向かって飛んでいくことにしたようだ。

アマノトリフネ?なんとなくそんな単語が脳裏をよぎる。

ひょっとしたらこの子供たちが僕の先祖にあたるのではないか。


 よかった 生きていてくれたんだ!


?どういうことだ今の?僕の中に…まさか!?


---


目を覚ました時、僕は涙を流していた。それはどちらかというとうれし涙だった。


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