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ヤルダバオトは眠らない  作者: 羽賀智基
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第一章 人格破綻者と笑えない僕 -8-

いわゆるシルバネーゼ、天上人の住まうここ白銀台は都内の中でも有数の高級住宅街である。家の作りを見ると、実に金がかかっているなぁと痛感させられる。僕のような、下賤の者がむやみやたらとくるところではない。


水島はと言えば、地図とにらめっこしながら黙々と被害者のうちを目指している。これだけ大きな家があっても気にならないのだろうか…あぁ、そういえばこいついいところの出だったっけ。


街路樹なのか家の木なのか、よくわからない木があるのも白銀台の特徴なんだろうか…いやたまたまかもしれないけれども…ともかく田舎出身の僕にとっては、東京全体もそうなんだけれど何気にコンプレックスを刺激させられる街だ。


おそらくこれから会う被害者を見ても、多分コンプレックスを刺激させられることに違いない。こんなところに住んでいる天上人の妻だぞ。美人でないわけもないし、服のセンスが悪いなんてことも断じてないだろう。憂鬱になる。仕事だからスーツで来れたのがせめてもの救いだ。


---


「こんにちわー」


呼び鈴の前のカメラをじっと見る僕。門構えからして我が家には大金がありますっていう感じである。田舎者の僕がこの門をくぐることはできるのだろうか。


「はい」

「先日お願いした件で伺いました、PRDNの箱崎と申します」

「水島です」


僕らの組織は消費者庁関連の外郭団体として、先日よりPRDNの略称で呼ばれることとなった。パラディン…聖騎士とは…いくらなんでもゲームのやりすぎじゃないのか、大丈夫かクールジャパン。


「少々お待ちください」


絶対美人だ。声でわかる。コンプレックス刺激するような美人なんだろうなぁ。扉が開く。


「どうぞ」

「ほらみろ」


思わず小声だが口に出てしまう。身長は170センチはないだろうけど、かなりの長身でスタイルもいい。言うまでもなく美人だ。モデルか。モデルなのか。天は何物を与えれば気が済むんだ。格差社会反対。


「どうかしました?」

「い、いえ、なんでもないです」


まずい、聞かれてしまったか。水島が変なものでもみるような顔をする。


「なにやってるんだ、早くいくぞ」

「は、はい」


玄関を入ってさらに憂鬱な気分になる。何なんだこの調度品は。とはいえいかにも成金です、というような代物でもない。いいセンスのアンティークである。


「こちらにどうぞ」

「はい、お邪魔いたします」


実際この奥さん、美人なだけでなくスタイルもいい。おまけに服だ。確実に高級な代物だろうけど、落ち着いた配色が彼女によく合っている。うらやましい。センスゼロの僕からすると彼女にはもってないものがない。


「では…すいませんが、手短にお話をうかがってよろしいでしょうか」

「はい…」

「そうだ、自分は席外した方がいい場合には言ってください」


意外に気配りができるのか。と水島、奥さんに見えないように手帳を僕に見せる。


『旦那のパソコンの中身見たいからひきつけてくれ』


おい…それはいろいろとまずいんじゃないか?どうしても必要なことなのかそれは?大体旦那のパソコンの中身に見られたくないものがあったらどうするんだ?


僕がいろいろ考えているうちに、


「いえ、今のところは大丈夫です」

「わかりました」


奥さんの話が始まる。


---


奥さんの話を要約するとこうだ。モデルの卵だった奥さんに、年収1400万の旦那が熱烈アピールして結婚にまで至った。この旦那、スポーツマンで結構なイケメンだ。写真で見る限り身長も奥さんより15センチは高い。ホビットとまではいわないが、小さい方の僕からすると両方とも巨人族に見える。さておき、この旦那、仕事も順風満帆、性格もいいと一見何の問題もなさそうだったが、あるコンプレックスを抱えていた。


「それは…」


奥さんが言い淀む。言い淀むということは…そうか。僕はふかふかのソファから前傾姿勢になりつつ、水島にアイコンタクトを取る。


「私は中座したほうがよろしいでしょうか」

「…はい」

「では、また後ほど」


水島が悪い笑顔をする。うん、君のそれ快楽殺人者が殺人を犯すときの笑顔だから。某博士が人のお肉食べる時ですら、もうちょっと人間の顔してる。悪意の塊の笑顔を浮かべつつ、水島は旦那のパソコンを狙いに行ったようだ。僕は僕で奥さんの話の続きを聞くことにしよう。


「…失礼しました。私にも守秘義務がありますので、他言は致しません。ただどうしてもおっしゃれないことは無理には伺いません」

「…わかりました。実は…夫のコンプレックスというのは…その…男性の…」

「男性の?」


その時点で察すればよかったのだが、若干僕はコンプレックスを刺激するこの人妻に軽くジェラシーを感じていた。なので、軽く言葉攻めをしたくなってしまっても仕方あるまい。


「男性の…あれ…だ…せいきが…」

「男性器が?」


奥さんの奇麗な顔が赤くなる。処女じゃあるまいし、どうせ夜になったらやることやってるんだろが。何ぶりっこしてるんだお前は。


「…が…小さい…っていってたんです…」

「ほう」


まぁそういうコンプレックスもある人にはあるんだろうな。僕だって背が低いのはたまに厭だと思うことあるし。


「それで…ある時なんですが、見てしまったんです。彼が、ある整形外科の宣伝を見ていたのを」


ああ…そういうことか。つまるところ、旦那の方は性的な部分にコンプレックスがあったわけか。と、その時。僕はサイドボードの中に、どこかで見た記憶のあるプラスチック製の白いケースのびんを見つけた。


「あの…」

「どうしましたか」

「あそこにあるケースなんですが…」

「あぁ、あれは健康管理のためにいろいろと。それが」


僕は少し悩んだ。さて、あのびんについてどうやって切りだしたものか。


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