4月 入学式9
入学式が終わると綺和は学生寮のことで先生から個別に説明があるとのことで職員室に来るよう言われていた。
「…困ったなあ」
人気のすくない廊下でぽつりと呟く。綺和はすっかりこの広い校舎で迷ってしまっていた。誰かに道を尋ねようにも誰も通らない。本当にここは校内なのかと疑ってしまうほどあたりはしんと静まっている。
「………生物教室Ⅰ、Ⅱそれから物理教室…あっ、ここって特別教室棟!?」
各教室の入り口上についているプレートを読み上げると現在自分がどこにいるかが認識できた。職員室は普通棟なのでどれだけ探してもあるわけがない。
でも普通棟に行こうにも道順が新入生にはわかっていない。
広すぎるよーっ、と愚痴をこぼしながら物理教室の前を行ったりきたりしていると、開いている扉から視界の隅に何かが移る。
「あれは」
そっと教室の扉をスライドさせ忍び足で侵入。
開いた窓からは中庭の桜が薫り、ひとひら淡い桃色の花弁が机に突っ伏しているソレ、彼の黒髪の上にのった。
講堂から遠いここで一人居眠りをしているのは今朝桜の根元で眠っていた男子生徒。穏やかな寝息をたてて頭上の花びらに気づかない。
綺和はその艶やかな黒髪に手を伸ばし―
あと花弁まで数センチというところでためらった。
朝、起こしてしまい少し不機嫌にしてしまったのを思い出したのだ。時と場所を考えてほしいけどこの人は何かの事情で眠っているのだろうか、とか思考をめぐらせてしまう。
でも、……
狙いを眉間に合わせ親指で中指を思いっきりはじく。
べしっ、という音とともに少年は「うっ!?」と痛そうにうなった。
「おはようございまーす」
「……………またお前かよ」
男子生徒は眠そうに頭を起こすと花弁は床にはらはらとおちてゆく。そしてかれは綺和の顔に穴を開けるようににらみつけた。
「俺の安眠を妨害しやがって…」
「こんなところで無防備に寝てるからいけないんですよっ」
「うるせー、ウィンクすんな。生真面目だなあまったく…」
「よく言われます」
ふうん、とひじをつきながら少し動きがフリーズした後少年は口を開いた。
「部活入る予定あるか?」
なんだろう、と頭の上にはてなを浮かべる綺和だったがいいえとすぐに首を横に振った。
その様子を見守った後彼はだるそうに腰を上げ立ちあがる。そのままあくびをしながらよろよろと綺和に背を向けて歩き出す。
「じゃあ今日の放課後、生徒会室に来い。HRの後にすぐに来いよ絶対だからな」
「ちょっと待ってください、それって」
綺和の言葉に耳を貸そうとしない少年は去り際、
「俺は生徒会書記の綵鏡弑椰。職員室は生物教室脇の会談を降りて右。それじゃあな」
と、だけ一気に告げると姿を消した。
「…えぇ……な、なんなの?」
取り残された綺和はため息まじりに率直な感想を吐き出した。
「…あれ、これは……」
綵鏡弑椰と名乗る男子生徒が去ったあとの机にはB4サイズの紙が一枚おいてあった。生徒会活動計画表と銘うたれたそのプリントは彼の忘れ物だろうか。
「これがなきゃ、困るよね…っていうかあの人何で私が職員室に行くことしってたんだろう…?」
綺和は紙を持ち独り言を呟いた。
床に落ちた花弁が窓から吹く微かな風でふわりとその身を踊らせた。




