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4月 入学式1

―4月。


 どの学校でも入学式が催されるころ。

 某所に数年前設立されたここ、私立霧ノ森高等学校でも入学式が始まろうとしていた。

「いい天気〜」

 焦げ茶色の長い髪と丈の短いスカートが歩くリズムに合わせて揺れる。細く長い足で颯爽と歩きながら、うーんと背伸びをした少女、昇利綺和のぼりきわもまた霧校の新入生であった。

 通学鞄も制服もまだ真新しい。


 霧校は自由を重んじる校風で校則は緩めだ。制服も、学校指定のネクタイ・リボンをしていれば何でも良いらしく辺りを見回せば色々な制服に身を包んだ生徒たちが見受けられる。


 もちろん、綺和の胸元にも今年の新入生の証である深緑色のリボンが結んである。


 霧校は日本有数の進学校な上、入試の倍率は毎年二倍近くなる難関の名門校である。独特な校則や新設された校舎、部活動もさかんだ。全寮制であり留学生も多数来ている。

 大変魅力のある学校それが霧ノ森高校だ。


 今日からそんな学校で生活できる、と心躍らせ綺和は校門をくぐる。


 桜並木が続く後ろに真新しい校舎を控えた霧校は新入生の初々しさで溢れていた。

「おっ、綺和!おはよー」

 後ろから軽い衝撃、苦笑いで振り返って挨拶を返す。

 声をかけてきたのは小学校から親友の露更つゆさらゆみ。明るいブラウンの髪を頭の高い位置でおだんごにし赤いリボンのバレッタで留めている。胸元には綺和と同じ深緑のリボン。髪と同じ色の瞳は顔を華やかに魅せてる。少しギャルっぽい外見だが性格は義理に厚い少女でたくさんの人から信頼を集めている。

「おはよう、ゆみちゃん。昨日は眠れた?」

「眠れるわけないよー!あたし遠足前はハラハラして眠れないタイプだしっ。綺和と同じガッコ行けると思ったら余計眠れなかったよ!」

 朝からハイテンションのゆみの早口に相槌をうちながら、二人揃って歩く。

「流石名門校だね。これ全部新入生かなあ」

「そうだね…。一学年でも十クラスあるんだっけ」

「え、嘘!?それじゃあ一緒のクラスになる確率少ないじゃん」

「ふふ、大丈夫だよ。こんなに人がいるならすぐに友だちできるよ」

 他愛もない話をしながら生徒玄関までたどり着くが長蛇の列ができていた。

「ありゃー……出席とるために早めに来たのにこれでも遅かったね…」

「うん…クラスも見ないとなのにね」

 玄関先ではクラス発表と今日の出席確認、入学式に制服につける花などが配られている。

 霧校は生徒数も多いので同じ思考を持つ人も多いらしい。

「まだ集合時間まで50分前くらいあるのになー」

「取り敢えずクラス確認しておかないとだけど…」

 ちらりと横目で暮らす名簿が掲載されているボードが設置された花壇の方を見るとこちらも負けじと劣らず生徒で溢れていた。

「うへえー混んでるし」

 ゆみが苦虫を噛み潰たような表情で呟く。

「めんどくさいけど行かないとか。あたし見てくるけど…綺和のクラスも確認してこようか?」

「あ、本当?じゃあゆみちゃんお願い」

「おっけ、綺和ここで待っててね!」

「うん」


 ゆみは元気よく人混みの中へ入ってゆく。

 その勇敢な背中を見送ると綺和は改めて辺りを見回した。

 桜前線が早めに北上した今年はため息が出るほどすでに桜は薄紅の花びらを広げている。快晴の空によく映える桜。対をなすように建てられた白い外壁の校舎も立派で敷地の半分くらいを占めているらしい。

「―ん?」

 晴れやかな気分に浸っていたのに綺和は一つの桜の根本に注目した。

 こんなに人がいるのに誰も気づいていない?

 確かにここからでは見えにくいかも知れない。ちょうど桜の幹を挟んで向かい側に誰かが座っているようだ。

 気になった綺和はつかつかとその例の桜の樹に歩み寄る。

 そして一呼吸おいて思い切って覗きこんでみた。

「……」

 なんてコメントしたらいいのかわからない。


 そこには木に凭れかかり目を瞑っている少年がいた。

 さらさらの長めの黒髪は真っ白い肌と対照的。睫毛も長く二重で、女子が羨むような顔つきの少年だった。華奢な体はカーディガンを着込んだうえに青いブレザーを羽織っている。ネクタイは赤色。

 つまり二年生らしい。

「あ、あのー?」

 恐る恐る声を書けてみるとその男子生徒は目を開く。気だるげにゆっくりと。

 そして顔を覗きこんでいる綺和と目が合うと不機嫌そうに呟いた。

「…なに?」

「え、あ。ここで眠ってると風邪引くんじゃないかなーと…思って」

 いぶかしげに黒い瞳で綺和を見つめたあと「そう言われればそうだな」と言って起き上がる。

 そして男子生徒は自分に降りかかっていた桜の花びらを振り落としながらあくびをした。

「こ、腰とか痛くないですか…?」

 綺和なりに気遣ったコメントだったのだがその少年のツボだったのか、少年はふっと吹き出した。

「何だよ腰って…」

 寝起きで機嫌悪そうだった少年は腹を抱えて笑う。

「え!?あ、すいません…」

 あたふたする綺和も面白かったのか涙を目にためながら「新入生か…お前面白いな」と一言。

 首を傾げる綺和。

「名前は?」

「昇利綺和です」

「ふーん、わかった。覚えておこう1年A組の20番昇利綺和」

「え!?それって」

 綺和が喋り終わらないうちに男子生徒は立ち上がり、背を向けて歩き出していた。

「ちょ、ちょっと!?待ってください!」

 慌てて後を追おうとするがゆみに待っているよう頼まれたのを思い出し立ち止まる。

 その男子生徒が人混みに紛れる前にこちららを振り返り微笑を浮かべ口を動かした。が、この雑踏の中でそれが聴こえるわけもなく綺和はただ唖然としている他なかった。

「綺和………今の無駄にイケメンな人は何?」

「うわあ!?ゆみちゃん!い、いたの…?」

 気づけばクラスを確認してきたゆみが隣で呆然と立っていた。

「いや…話は聴いてなかったけどなんかあれだね…あの人大変そう」

「?」

 げんなりしたようなゆみが視線を向ける先に女子に囲まれる先ほどの少年がいた。

「……そ、そうだね」

 微妙な空気に包まれる二人。

「そうそう、あたしたちクラス一緒だったよ!」

 空気を察したゆみがいつもの高いテンションで嬉しそうに報告する。

 そう言えばさっきの少年が綺和のクラスと名簿番号らしきことを言っていたので確認してみることにした。

「もしかしてA組?」

「そうだけど…え、何でわかったの?」

「私の名簿番号って20番?」

「え!?すごい綺和なんでわかんのエスパー!?」

 驚くゆみをよそに綺和は苦笑した。


 よくわからないエスパーみたいな人に目をつけられちゃったなあ、と。

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