理解できない日常5
朝、私は急かされていた。
身支度を完璧に終えた奏斗が私の隣で早く早くと小さく声をかける。
「そんなに急がなくても…」
「せっかくの休みなんだから時間大事にしようぜ。鞄は持ってきてやるから他の準備してろ」
奏斗はそう言うと、私を軽く追い払うみたいに、しっしと手を振った。失礼なやつだ。
少し文句を言おうかとも思ったけれど、これ以上彼を待たせるのも良くないので、私は着がえるために部屋へ急いだ。
「また白衣?」
私が洋服かけにかけてあった白衣に手をかけると、文句ありげな表情で奏斗が言った。
「楽だから重宝してるの」
「あっそ」
自分から言ったくせに冷たい返答。そのあともジト目で見てくるから気になったけど、無視して玄関に向かった。
「ほら、行かないの?」
「あ、うん。行こうぜ」
スカートをはいた彼と、白衣の私。傍目から見たら相当異色の組み合わせだろうと思いつつも、変な目で見られても気にしないと決心して扉を開けた。
歩き出して十数分、私は彼に行き先を聞いてなかったと思い、口を開いた。
「そういえば、どこ行くの?」
「ん? ああ、今日は服買おうかなって思ってさ」
「私が一緒じゃなくても良かったんじゃない?」
「別に服選ぶだけじゃないよ。一緒がいいなって思ったから誘ったんだけど」
一緒がいい。その一言で心拍数が上昇した。なんだろう? なぜか嬉しいなんて感じて、私はその慣れない感情に一人で焦っていた。きっとあれだ。まだ彼に見捨てられていないことが嬉しいんだ。まだ彼の幼馴染でいられることに安堵しているだけなんだ。
今の気持ちに理由をつけて、隣を歩く彼を見た。ぱっちりした二重の目やバランスのいいパーツ配置は美少女のそれで、両サイドに揺れる髪はさらさらで羨ましい。私が彼だったら、私をこんな風に連れ歩いたりしないだろうな。そう考えると急に自分が哀れに思えて、私は彼の顔を見ていられずに、ずっと俯いていた。
「あ、ここの店」
不意に彼が言って顔を上げると、外観からして可愛らしい店があった。
「いつもここで買ってるんだ」
普通こういうところって女の子しか来ないのでは? とツッコミを入れかけて、彼にそんなことを言うのは今更すぎると思い至った。そうなんだ、と小さく言って、彼の後ろをついていった。