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癒菜は真ん中にある自分の席に座って、オイラはその前の椅子を借りて座った。


教室に、クーラーなんてものは無い。

窓の向こうの太陽が、オイラ達を攻撃してくる。

なんて暑いのだろう

蝉の声が暑さをより一層濃いものにしていた。


「今日は日本一暑いんじゃないだろうか…」


オイラは作文用紙をシャーペンでつつきながら癒菜に向かって言ってみた


「流石にそれはないよ」

と言って癒菜は明るく声を上げて笑った

癒菜の作文用紙は白紙のままだ


ちなみにオイラは『僕の香りは汗臭いです』と、一応書いてみた



「あ、ホントに書いてるし」

癒菜がオイラの作文用紙を覗いて言った


「いや、実際自分の匂いなんか体臭ぐらいしか思い付かん」




「じゃあ私は、どんな匂いがするかな」

癒菜は右腕を自分の顔に近づけて匂いを嗅いでみせた


「特に…なにも」

目をしかめて言ってから癒菜は作文用紙に『私の体は無味無臭』と書いていた


正直、無味は必要ないと思うけど




「癒菜はいつも畳の匂いがするよ」


そう言ったのは、別に癒菜の事を婆臭いだとか思っているからじゃない


癒菜は「何の事?」といって首を傾げている


「癒菜、茶道部入っているでしょ

だから、畳の優しい匂いがするなって思った」



「あ、成る程〜

えと『佐々木 寿くんには、畳の匂いがすると言われました』」


呟きながら癒菜は作文用紙にオイラの意見を付け加えた


「寿は、そうだなぁー…。土の匂いがするな」


「父さんの仕事手伝っているから?」


オイラの父さんは農業だ、春になるとビートの苗たてなんかを手伝わされる


「それもそうかもだけど、土の暖かい匂いがする

落ち着く匂いだよ」


「ふーん…」よくわかんね

けど、悪くないな


オイラは今の癒菜の言葉を作文用紙に付け加えた

『近くにいた神田 癒菜さんには土の匂いがすると言われました

落ち着くらしいです』



「ねぇ!」

癒菜は声を上げて立ち上がった

座っていた椅子が後ろに倒れてしまうほどの勢いの良さで、膝を付いていたオイラは思わず座ったまま跳び跳ねてしまった


「なに?」



「聞いて回ろうよ!」


癒菜は自分の香りについて人に聞いて回ろうと言うのだ


「嫌だよ、変な目で見られるじゃん」

"はんっ"と声を鳴らして苦笑い

その時だった、前の戸(黒板の近く)がガラガラと音を立てて開いた


バドミントン部の連中が部活動を終わらせて帰って来たのだ


「あれ、癒菜と寿じゃん

なにやってんの?」


「課題だけど…って、なんで一年の教室に入って来ているんですか夏院先輩」



1年生3名と、当たり前の様に2年生が2人が仲睦まじく談笑しながら入ってきた。

その2年生の1人、神田 夏院先輩が話し掛けて来た



「良いじゃん別に、去年まで俺ここで授業受けてたんだぞ」


親指を立て、ウインクをする夏院先輩

残念なイケメンだ


再度何をしているのか聞かれたので、オイラは素直に「赤点取っちゃったので、その課題です」

と答えた




「あぁ、そういえば癒菜からそんな事聞いてたわ

作文だっけ?」


夏院先輩が近づき、作文を除き見る

そして首を傾げた


「…香り?」


「ねぇ、お兄ちゃん、私達ってどんな匂いがする?」


癒菜が立ったまま、机をバシバシ叩いて質問を投げ掛ける



癒菜の大きな声に反応して、何人かがオイラ建ちの周りへ寄ってきた


同級生の桜と、夏院先輩の同級生件オイラの姉の佐々木イブキ


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