幼馴染みに呪いを掛けて既成事実を作って人生のパートナーにしてみた
短編の『魔法使いに呪いを掛けられた私が幼馴染みのパートナーになってみた』を読まないと意味がわからないです。多分。
ミーナは僕の幼馴染みで、同時に愛しく思える唯一の人間だった。
父も母も、僕を後継者としては愛しているようだが子どもとしては双子の弟──リルツを愛しているように思う。
弟が甘やかされている間も、僕はひたすらに魔獣の扱いを勉強させられていた。
魔獣使いとなれる証の刺青が浮かび上がり、逃げ道はなくなって、それでもいつか、一人前の魔獣使いになったらミーナと結婚して、幸せな家庭を築くのだと、それだけを目標に生きていたようなものだった。
修行の旅に出なさいと言われた時も、一番にそれを告げたのはミーナ。
戻ってきたら結婚して欲しいと言った僕に、ミーナは無情な言葉を返した。
──僕は結婚出来ないのだ、と。
「魔獣使いが結婚出来ないって本当ですか、レト伯父さん」
「知らなかったのかラルツ、魔獣が嫉妬するのを防ぐために、後継者は結婚することを許されていない」
そういえば父の兄──レト伯父さんはパートナーとなった魔獣を喪う前からずっと独り身だった。
伯父の結婚になど興味のない僕は気になどしていなかったが。
「どうにか、ならないんですか?」
「ならん。次の世代に血を繋ぐのはお前の弟の役目だ」
役目、魔獣使いの血、そんなものいらなかった。
欲しいのはミーナだけ。
ミーナ以外の人間も、人間でないものも、傍には置きたくない。
何をしてでもミーナと結婚してやる。
そう、僕はもうただ弟が羨ましいと泣く子どもではないのだから。
「伯父さん、ちょっと、待っていてください」
「……忘れ物か」
「はい、すぐに戻ってきます」
僕はミーナの家へと走った。
やっぱり待っていて欲しいと言うために。
──だが、目的を果たすことは出来なかった。
「兄さん、何処に行こうとしているんです?」
「……リルツ」
「ミーナのところですか?」
「お前がミーナの名前を呼ぶな」
「あっはは怖い怖い。ボクが好きなのはミーナじゃないですからそんなに睨まなくても奪ったりしませんよ」
おどけたような態度に苛立ちを隠せない。
ぎり、と唇を噛み締めたがたいして気は紛れなかった。
「兄さん、誰がミーナに兄さんのことを教えたか、気付いてないわけじゃないでしょう?」
「……母さん、か」
「そう母さん。あの人ミーナを領主の馬鹿息子と結婚させようとしてますよ。しかも当然側室です」
「な、……っ!」
カッと目の前が真っ白になった。
許せるわけがない。許さない、そんなこと絶対に。
「兄さんがミーナを迎えに来るまでボクがそれを阻止します」
「対価は何だ」
「ボクが家柄も生まれも関係なく望んだ者と結ばれるように協力してください」
それは最高の取り引きだった。
だから僕は、誰よりも冷酷に、何よりも強くなるために修行をこなした。
──そして僕は、一人の魔法使いに出会った。
王子を魔獣に変えて王国を追われた、黒衣の野良魔法使いに。
目から鱗とはこれのことを言うのだと思った。
魔力がないから血の契約が出来ない。なら魔力がある魔獣に変えてしまえばいい。
「出来ないなんて、言わないよね」
「ちょ、ちょー待ってってばラルツ! いくら俺でもいきなり見知らぬ人に呪い掛けるほど鬼畜じゃないっつーか、王子の場合はあれ、王子自らの願いだったわけで」
「やるよ、な?」
魔法使いを名乗れるほど多彩な魔法は使えないが、攻撃の威力だけは自慢出来る。
足元から氷漬けにして少しずつ砕いていけば大抵の人間は屈する。
「俺はなー、痛いの嫌いだっつーの!」
「それで答えは?」
「あーあーやります。やらせていただきますよ!」
「ミーナに触ったり話し掛けたり見たりしたら殺す」
「見なきゃ呪えねー!」
ぎゃあぎゃあと喚く魔法使いを殴って黙らせて、ミーナの家の前まで転移する。
ミーナ、早く会いたいよ。
でもまだ駄目だ。
僕のことを早々と忘れてお見合い結婚しようとしたんだってね。
こんなに愛しているのに、酷いよ。
──トン、トン。
だから本当のことを言うのは少し後にしよう。
先に新婚旅行の代わりに旅をしようね。
大丈夫、傷一つ付けさせないよ。
機が熟したら呪いを解いてあげるから。
「折角、一国の王子に魔獣を仕込んで、魔獣化の呪いを完成させてから魔法使いを追放して、呪いを掛けてまで傍にいてもらおうとしたのに、離すわけないだろう」