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百日草 -妖月ノ刻-  作者: 灯都和
序章◆逢會
1/3

第一話

題名は「ひゃくにちそう -ようづきのこく-」と読みます。

 賑わっていた城下町じょうかまちが、ぱたりと静まり返った。

 まるで何かに操られたかのように、そこに居た全員が、音を立てて開いた城門へと一直線に視線を注ぐ。


 そこには――右目の位置に据えた眼帯を、片手で抑える隻眼せきがんの姫の姿があった。


尊姫みことひめさまだ!」

「尊姫さま……!」

 卒然と姿を現した姫に、誰もが慌てて道を開け、深々と頭を下げる。

 姫は左右にいくつも頭が並んだ道を進みながら、そっとお辞儀を返した。


 尊姫は、この小国――紀奥きおくの姫君だった。

 普段は城内にこもりっぱなしで、めったに城の外へでない隻眼の姫。

 そのしなやかな身のこなしと、黒髪の隙間から覗く片目の鋭さに、町人たちは息を呑んだ。


「尊姫さま。やはり町人たちが驚いていますし、戻った方が……」

「いいのよ」

 尊姫は護衛につけてきた太一たいちの言葉をさえぎり、町内をぐるりと見渡した。

「久しぶりに来たけれど、やっぱりここは良いわね。皆、はつらつとしている」

 そして、瞳を閉じて大きく深呼吸する。

 尊姫は、新調の着物を買うべく、町内にある呉服屋へ向かっていた。

 だがこれは名目上のことであり、単に城の外へ出たかったのだ。

 もう随分と長い間、賑わう城の外へ出ていなかったから――城外の空気を、吸いたかった。

 案の定、侍女たちには「着物なら、わたしたちが買いますから」と城の外へ出ることを反対されたが、その反対を押し切って町へと繰り出した。


 今日は少し肌寒い日だった。

 まだ日中と云うのに、吹き抜ける風は夜風のような冷たさを持っている。

 表着うわぎを着てくればよかった、と尊姫は小さな後悔をする。

「今日は結構寒いですねえ」

「あそこ……」

 

 尊姫は、太一の言葉に返す代わりに――おもむろに、足を止めた。


「尊姫さま?」

「あそこで、誰かが倒れているわ」

 細い声で囁くと、尊姫は手を伸ばして前方を指差す。

 太一がその先を目で追うと、確かにそこには倒れ伏せている男がいた。

 けぶるような紅樺べにかば色の髪。

 頭上に生えた鬼のような鋭い角。

 ――そして、頬に刻まれた百日草の赤い紋様。


 それは紛れも無い、ものの姿だった。

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