ヤンデレの幼馴染に死んでも愛され続けて百年目
※いろいろ注意。
近親……相姦……?
できれば前作「ヤンデレの幼馴染に死んでも愛され続けて五十年」 http://ncode.syosetu.com/n3147y/ を先にお読みください。
精霊に子供は出来にくい。
そもそも寿命が長いほど子供が出来にくい。
というのが通説だ。
半ば無理矢理血の盟約を結ばされ(お互いの血を飲むという血生臭い儀式によって精霊が一生を捧げる契約。つーかキスしてる途中に気づいたら流血してたってどういうこと)、ついでに戻った神殿でにっこり笑ったクェン坊や……いや、野郎に「ご帰還、そしてご結婚おめでとうございます」と言われ、私は燃え尽きた。マジ、かよ……そして。
なんなの!?
目隠しされてる花嫁って何なの!?
こちらでの一般的な形式に従った結婚式では、ドレスは相手の髪か目の色に合わせる事が多いので、私のドレスは否応無しに黒。葬式かっつーの!
そして顔にはベール――じゃなく! 普通に黒い布をキュッと結ばれて何故か照れられました。何を言ってるのかごめん私わからない! 「俺だけを見てよ」はいすいません!
そうして始まった(血の)結婚式。ごめん血生臭い名前付けて。なんか一々こいつの行動とイベントには(血の)が付随する気がする。血の誕生日、血の入学式、みたいな。ああそういえば葬式の時も手握りすぎて血ダラッダラ出たらしい。こわいよー、ついに自傷まで出ちゃったよ。でも流石にそれはちょっと心が痛い。ご、ごめん。
……うん、思えば、私が死んだせいで余計に恐ろしい人格になっちゃったのか。
すいません故郷の皆さん。こいつシリアルキラーとかやってませんでしたか、本気でちょっと怖いです。私に似た女の子を虐殺とかしてませんか。生まれた子供を次々に殺すとかやってませんか。こいつも違う、こいつも違う……みたいな……想像したら怖い!
もしかしたらあれはあれでいつかそのうちきっと少しは僅かに丸くなる日も来たかもしれないなあと思うと、ストーカーちゃんにラブなヤンデレボクッ娘を撲殺したい。僕だけにな!
「美奈、初夜だね」
「すいません手加減してください本当に」
そういう訳で、てめえら見んなオーラを振り撒きながらの殺気溢れる結婚式を終え……し、し、初夜……ひいっ、怖い!
脳裏に蘇るのは、痛いし気持ち良いけど度の過ぎた初体験及び帰還までに各地の宿屋で声を殺しつつ耐えた(じ、自主規制)。痛いだけじゃないのが性質が悪いんだこれが。そのうち発狂しないだろうか私。がんばれ私負けるな私。
「今日は」
少し上気した頬。嬉しいのか。嬉しいのねエネ●リく、なんかこいつをゴリラ扱いって死んでも出来ないなあ美しすぎて。……怖いけど、美しすぎるんだ。美しすぎるヤンデレなんだ。古今東西ヤンデレキャラって言うのは何故か美人なんだ。恐怖倍増だからやめてくれ。
「優しくする」
……!?
ち……ちょ、初めて言われた! 優しくする宣言とか人生初じゃないですか光輝さん!
マジですか!? 本気ですか!? ってか出来るの!?
その後、
宣言どおりにひたすら優しくされて、
むしろむず痒さに発狂するかと思いました。
……ど、どうしよう痛みが癖になってる……!?
初夜の優しさもなんのその。厳しさに~包まれたなら~な日常が再開し、精霊仲間に笑われたりしつつ、50年。
……というか、本当に老けないぞこいつ。今更ちょっと冷や汗が。
毎日のように寝床に引きずり込まれ、あの頃はこれが無かっただけマシだったのかと思いながら――ええ、漸くの妊娠です。ヤメテ、オナカニアナタノコドモガイルノヨ!
「……男だったら、殺してやろうかな」
「ひっ……ちょ、目が、目が本気なんだけど!」
「本気だから」
腹を撫でながら不穏すぎる事を言わないでええええ!
顔を青くして全力で横に振る私を見て、ふ、と笑う悪魔。
「殺さないよ」
ほっとした私の頬を撫でる、相変わらずの白い手。
「子供ばかり見るようなら、どうするか分からないけど」
……っひ、ひいいいいいいいい!
そうしてどうにか出産まで漕ぎつけた。ちなみに出産は相手が人間だから人間式になる。精霊は基本的に相手に合わせるタイプです。
妊娠中は流石に腹締め上げたりはしてこなかった。首も絞めなかった。こんな長期間優しいのは初めてだなあと思う。でもやっぱりむずがゆい。深刻なM化に泣きそうです。
ちなみに子供を気にしてる訳じゃなく私の健康を気にしているらしいです。死なれたら困ると。私も困るけどなそりゃあ……どうしよう男の子だったら。近づけない方がいいな。
「いっ……つぅー」
陣痛の感覚が短くなる。……どうしよう、あんまり痛くないんだけど……いや、多分滅茶苦茶痛いんだけど、痛みに慣れすぎてるのか……うん、私の未来はどこに。
近所で評判の腕利きの助産婦さんが、大丈夫ですかーと声を掛けてくる。大丈夫すぎて自分が怖いわ。
「あ、全然大丈夫です」
「そうですか?」
ちなみに立ち会うからとうるさかった光輝は外に追い出しました。頑張ったぞ私。後でどんな報復が待ってるか分からないけどね!
……でも生まれた子供の性別確認してすぐ殺しかねない気がして、とても立会いはして頂きたくない。怖いっつの!
それから数十分。
やっぱり痛くて、最後にはギブギブギブギブ連呼しながらも、無事、生まれ――
「元気な男の子ですよ!」
――あああぁぁぁぁあ男だったあああ!
嬉しいやら恐ろしいやらで、生まれたばかりの赤子を抱き締める手が震える。
しわしわで赤ら顔。本当に薄らとしか生えていない髪は黒い。目はまだ開いてなくて分からない。似てるかどうかもまだ全然分からないけども。
でも、光輝と私の、子供、なんだよなあ。
耳が割れそうな大音量で泣きながらもしがみついて……しかも首にしがみついてくる我が子を見て、こいつは間違いなく光輝に似たなと確信した。苦しいから!
「産まれたね」
「あ」
「男の子だってね」
「あ、はい、なんかごめんどうかごっ、ご慈悲、うひぁっ」
挨拶代わりに耳に噛み付かれた。いや、ねぎらいかもしれない。ぴ、ピアス穴が開く!
ぎり、と強く力を込める。痛みに一瞬目を瞑ると、首にしがみついていた息子が離れた。
「え、ちょ」
「……」「……」
慌てて目を開けると、無言で睨みあう夫と息子。怖い。正直言って怖い。いつの間に目開いたの!?
私より少し暗い色の銀の瞳は、光輝にそっくりの鋭さを既に宿しているようにも思える。固く引き結んだ口元がくっと上がり――待て、笑った!? 笑ったんだけど!
「俺と、『同じ』か」
「あぶぁ」
「……残念だったね。君のじゃないんだよ、分かる?」
「ぶぅ」
何か通じ合ってるよ……いえ、仲良くしてくださるのは結構ですが。
精霊と人間の子供だから、半精霊って事になるのかな。精霊は早熟で、私のように大人の姿で生まれてきたり、または子供の姿で生まれたとしても知能は高い。
と言う訳で、もしかしたら既にこのちまっこい赤子が高い知能を備えている可能性はある。
「子供だからって、容赦しないからね」
「うーあ」
「殺る時は殺るから」
殺らないでくださいっ!!
しかし生後十分も経っていない息子はというと、
「ふ」
……笑ったあああああ!! だから笑い方が子供じゃないんだって!
大人げない殺気と子どもらしからぬ殺気がぶつかり、私は脇で震え上がるしかないのであった。
半精霊の子供だからか、成長速度は恐ろしく早かった。黒髪に銀の瞳の可愛かった赤ん坊(既に過去形)は、2週間で言語と歩行を完璧にしたかと思えば、一ヶ月もすると3歳くらいの容姿になり、徐々に成長速度は緩まったけど3年も経つと見た目も追いついていた。
そして私は――2人分のドぎつい愛情に瀕死だった。
「母さん」
あははお父さんにそっくりーと笑えはしないその笑顔。光輝より数段表情は豊かだけど、そっくりなその目元から放たれる眼光がもう、尋常じゃない。ひいいい!
「な、何?」
「やだなあ、そんなにびっくりしなくてもいいじゃないか。それより、お土産――」
「満樹」
ぞわりと背筋が粟立つ。ガタガタと震える私の目の前から、お土産らしき袋が消え去った。
「点数稼ぎお疲れ様。それと、俺の美奈に話しかけないで」
「あはは、息子が母親に話しかけて何かおかしいの?」
「俺以外の男が美奈の近くにいる事がまず可笑しいよ」
お前らの頭がおかしい。
とは言えず、伸びてきた腕の中に閉じ込められ、ぎりぎりと背中に指が刺さるのを感じながら視界が暗く閉ざされる。
「そろそろ家出てくれない? 我慢の限界だ」
「俺、まだ3歳だよ」
「へえ、知らなかった」
シュンッとか不穏な音がした。何投げたの!? ねえ何投げたの!?
「あっぶないなー」
少し遅れて轟音。だから何投げたの!? もうやだこの家族ううう!
「まあ、今日こそ父さんぶちのめして母さん貰って家出ようかな」
「残念だけど美奈、満樹とはお別れみたいだね。永遠に」
「ちょっ、ちょ、待っ、ストップううう!」
満樹は恐ろしい事に、光輝と同等の実力を既に兼ね備えている。そして愛情も同等だった。まじでこわい。光輝みたいな鬼畜面は今だ見えないけど、多分潜在的にはそっくり同じのような気がしてならない。まだ手に入らないから発揮していないだけで。
「父さんも大人気ないなあ。息子のささやかなお願いくらい聞いてくれてもいいのに」
「美奈だけはあげない。美奈は俺だけのものだから」
「やだなぁ……俺なんて母さんから生まれてきたんだから。母さんイコール、俺」
何を言ってるのかわからない!
「……」
とてつもなくイラッとしたらしく、抱き締める腕の強さにぐえっと色気の無い声が出る。背後で凄まじい轟音が響く。ああもう……もう……もう!
「美奈には、俺しか必要ない」
「ふふーん。いいじゃん、俺母さんの産道から出てきた訳だし、もう一回突っ込んで戻ってみるのも面白くない? あははは」
ある意味目から鱗だよ!!
そんな感じに、人類最強vs人外最強みたいな夫と息子のドンパチに巻き込まれ死に掛けたりしつつも、家族に囲まれてそれなりに……まあ……幸せ……? ごめん自分で言っておいて自信が無い。多分幸せです。
◆
――ミツキ・ヤシロの英雄譚もまた、人口に膾炙している。
自らの母親を愛していたという彼の苦悩、またその美しい容姿や父親さながらの実力もあって、彼の絵姿は未だに良く売れるし、絵巻物もベストセラーである。
本当は1ミクロンも苦悩せずに母親を溺愛していた点についてだが、知り合いは引き攣った笑いを浮かべて顔を逸らすだけだ。
半精霊である彼は現在も生きており、フリーの冒険者として活動している。ただし、女性は近づかない方がいい。
筋金入りの母親崇拝者である彼は、他の女というものを一切寄せ付けず、むしろ汚れるとまで言う程の女嫌いだ。
ちなみにミーナ・ハルベルンは、こう言っている。
――ヤンデレの夫と息子に死ぬほど愛されて夜も眠れない……
我々にできるのは、彼女が来世ではまともな人間と恋が出来るように祈るだけだ。
という訳で短いですが後日談(?)です。
母親と結婚とかそういうのは神話とかだとある話。
エキドナとオルトロスなんて大量に子供生んでますし。……いえそういう問題でもないですが。
まさかの来世編をそのうち書くかもしれません。
番外編はこちら
http://ncode.syosetu.com/n5253y/