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今更ですが、設定や氏名、団体、世界観はフィクションですので、作者のご都合主義にお付き合いいただければ、と思います。(言い換えれば、あれえない設定でも目を瞑ってやってくださいと言う切実な願いです)不甲斐ない作者ですが、更新停滞しないよう頑張りまーす。
「なに? あの朝井さんの視線」
「工藤部下だろ? 酌ついでに聞いて来いよ」
「いやよ。あんな、いかにも悪巧みしてますって顔の朝井さんに自ら行くなんて」
頭を左右に振りながら澪は本当に嫌そうに吐き捨てた。その意見に賛成の私も苦笑を浮かべていた。
「それもそうですよね。朝井さん、今日のためにサプライズを用意してるってこぼしてましたし」
目の前に置かれた枝豆を頬張りながら篠部君は淡々と言い放った。
その言葉を聞くや否や斎藤君と澪の顔が輝きに満ち、嫌な予感が頭をよぎる。
「なになに?! その面白そうな話題!」
「朝井さんのサプライズとか恐ろしすぎて面白そう! 新人、他に何か言ってなかったのか?」
「何も言ってはなかったですけど、多分新見さんに関係してるんじゃないかって思います」
「新見さん? なんでまたあの鬼畜?」
嫌な予感があたったように、心臓が激しく動き出した。自然と息が止まり、ロボットのように動かなくなった私に気づかず、三人の会話は弾む。
「ここに来る前に朝井さんが新見さんとなんか話してたんですよ。新見さんは特にこれと言った不自然な点はなかったんですけど、話の途中途中で朝井さんが僅かに口元を緩めるんですよね。なんか、その様子が、隠しきれない笑みって感じで」
「なるほど。新見さんはわかってない様子だけど、あきらか、朝井さんは新見さんに何かする様子だった、と」
「はい。あ、工藤さん。週明けに見てほしいモノがあるんですけど」
そう言うと、澪と篠部君は仕事の話に移行した。
「里中さん? 大丈夫?」
視線を床に落としていた私を労わるように、覗き込んでくる斎藤君に笑顔を作り「だ、大丈夫」と言った。どこからどう聞いても、大丈夫そうに聞こえない私の声色に苦笑する。
「そう? 酔ったのかな? お水貰おうか?」
「大丈夫。久々に飲んだからちょっとぼーっとしちゃっただけだから」
「それならいいんだけど…。無理して飲まなくていいからね?」
優しい口調に笑顔で交わすと、隣の澪が大袈裟に溜息をこぼした。
「サト。斎藤は気をつけた方がいいよ。女の敵だから」
「おいおい。里中さんに変な事吹き込むなよ」
オドケた調子で言う斎藤君が面白くて、思わず笑ってしまった。
そんなことをしていると、周りがざわめきだしたので私たちは顔を合わせた。
「どうしたんだろう?」
澪がそう言い終えると同時に奥から甲高く女特有の声で「新見さん!」という黄色い声が聞こえた。
「…鬼畜め」
斎藤君が私の耳元付近でそうつぶやいたが、そんなことに気にとめられるほど落ち着いてなどいられず、彼の方に視線を送ることに精一杯になっていた。
彼は、参加している者たちの顔を一周見やると、私のところで不機嫌そうな顔を浮かべた。その、何気ない仕草が、私の身体を無条件に反応させた。そんな様子にいち早く気づいた斎藤君は肩に触れながら「大丈夫?」と優しく話しかけてくれた。
固まる身体をぎこちなく溶かし、斎藤君にこくりと頷いて見せてから、また視線を彼に戻したが、彼は私のことなど最初から気にしていなかったかのように、朝井さんと話し込んでいた。その対応に自分が異常に傷ついていることに今更ながら気づいた。
「まさか、ほんとに新見さんまで出席するとはね。一体何の飲み会なんだか」
やれやれ、と澪がこぼした。
そんな澪にも触れずに、固まって使い物にならない身体に脳も機能を果たさず、ただただ彼を見つめていた。
「里中さん、ホントに大丈夫?」
「ちょ、っとお手洗いに…」
「ついて行こうか?」
心配そうに覗く澪と斎藤君に首を振り、一気に身体を叱咤する。少しでも気を抜くと膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
傍に置いていた鞄を手に取り、トイレへ向かった。一瞬、このまま逃げ帰ってしまおうかとも思ったが、それが何の解決になるのだと、自分の逃げグセに反吐が出た。