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そんな二人を横目に、ウロウロしている新入社員へ意識を向けた。その姿は、初々しさと爽やかさを放っていて、見様によっては微笑ましく見える。

そんな集団の中から篠部君の姿を見つけると同時に彼も私たちの姿を見つけたようで、綺麗な顔を親しみやすい優しい笑みへ崩した。


彼は元々背が高く、今時の若者らしい垢抜けた容姿で、何もしなくとも一目置かれるのにわざわざ自分から身体をすり抜けさせ、こちらに向かう行動には、感心させられる。


「里中さん。こんなところに座ってたんですね」


綺麗な二重瞼は多少笑みで崩したとしても、輝きは失われずに放たれ、眩しいくらいだ。


「うん。早く着いちゃったから座ってたの」

「おい。私に挨拶は? まぁ、いいけど。それにしても遅かったね。残されてたの?」

「いえ。主任に引きとめられてたんです」

「朝井さんが?」


澪は、眉間にきつく後が残るほどのしわを浮かせ、怪訝そうに言った。私も斎藤君も同じような表情を浮かべていた。


「…なんか企んでそうだな」


流石、エース。


「同感」


澪が溜息と共に吐き出すと、私も無意識に頷いていた。

どうしてやろうか、と澪が囁くが、すぐさま上座から聞き取りやすい朝井さんの声が響き、仕方なく朝井さんの悪巧みについては保留となった。


「でわでわ。遅くなりましたが、今いるメンバーでとりあえず乾杯しますか」



乾杯の音頭も朝井さんが当然のように仕切り、宴の始まりとなった。音頭を取り終えると、すかさず「今夜は無礼講だから」といつものように掴めない笑顔を張り付けながら言い放った。私たちはまたみつめあって苦笑を洩らしつつ、お酒に口をつけた。


「里中さんは飲める方なの?」


既にビールを三分の一ほど飲み終えている斎藤君に聞かれると思わず、苦笑してしまった。


「強くはないと思う」

「工藤とはよく飲むの?」

「うん。さすがに澪程飲めないけど」

「確かに、サトは弱くはないけど私より強くもないね。まー、私が強すぎるだけだろうけど」


そういうと目の前に置いてあるビールを一気に煽った。


「よ、さすが工藤! 良い飲みっぷり! ほら、お前も飲め」


いつも以上に人懐こい笑顔の篠部君に、わざとらしくお酒を勧めると、篠部君は嫌な顔ひとつせず「はい」と答え、ジョッキに残っているビールを美味しそうに胃に収めた。

隣の斎藤君は小気味良い高音の口笛を鳴らしその姿を称え、お返しとばかりに自分も一気にビールを流し込んだ。


やっぱりこの流れか。


心の中で悪態をつく。

そんな私を見越したのか、澪も斎藤君もいやらしい笑みと期待の篭った瞳で煽る。


この定例会では、幹事が“無礼講”と言うと、最初の一杯目は先輩後輩関係なく一気に胃に流し込むという、学生のような風習がある。26にもなったいい大人が酒の飲み方も知らないのか、と言ってやりたいが、この風習がある年の同期は仲良くなるという実績めいたものがあるから仕方がない。


一応飲みやすいカクテルを一杯目にしていた自分を褒めつつ、胃に流し込んだ。


周りでもすでに先輩が後輩をあおり、酒を胃に流しこんでいるようで、あちこちで口笛や拍手、黄色い歓声が聞こえた。その中でも、朝井さんが私たちに期待めいた視線を投じてきていることに気づいていたが、三人ともあえて触れずに二杯目の酒を頼んでいた。




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