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デスクに戻ると朝井さんと澪がせっせと働いていたので、給湯室でコーヒーを淹れなおした。


「お疲れ様。澪、お昼食べたの?」

「あ、サンキュー。お昼は食べたよ」


一口コーヒーを飲むと、柔らかく澪らしい笑顔を浮かべて「美味しい」と言ってくれた。それに笑顔で答えてから、もうひとつのコーヒーを朝井さんに差し出した。


「ありがとう、里中さん」


意味ありげに微笑む朝井さんに警戒しつつも、ここが職場であることを思い出し、無理矢理笑顔を作った。



定時時刻が近付くにつれみんながいつも以上に真剣な表情で仕事に向かっているので思わず凝視してしまった。


「サトはもう終わり?」

「もうちょっと、って感じかな。澪は?」

「私はもう終わっても支障なし!」

「それは、それは。お疲れ様です」

「もう終わるなら先にゲストルームに行ってるけど?」

「あ、もう終わるから先に行ってて」

「はーい」


隣でPCの電源を落とす音が聞こえ、私も作成しているデータを上書き保存して、終わらせていく。


澪の後を追うようにゲストルームへ向かうと、途中で朝井さんに呼び止められた。


「里中さん」

「朝井さん。何かミスしてましたか?」

「いや、資料は大丈夫そう。…アイツのことなんだけど」


アイツ、が彼のことだと瞬時に理解し、自分の体が硬くなるのがわかった。


「そんなに、身構えないで」


朝井さんは苦笑を浮かべながら、私の肩に軽く手を置いた。


「実は、昼飯を食べる時間がなくて」

「…はい?」


辛辣な言葉が押し寄せてくると身構えていたので、少し力が抜ける。


「君はお昼を作ってるんだろ? ついでに作ってくれないかな?    忙しくて昼飯を買いに行く暇が取れないときがあるんだ」


彼になぜ、こんなお願いをされているのか見当もつかず、ただ、みつめるしかできなかった。


「だめかな?」


笑顔で聞いてくるが、その表情に、拒否を受理する気など毛頭ないように見えた。


「…私が朝井さんのお弁当を作るんですか?」

「違う、違う。そんなことしたら俺が殺されるよ。いや、その展開も面白そうではあるけど…。キミ、今日篠部と屋上でご飯食べただろ?」

「はぁ」

「屋上って意外と見られてるもんなんだよ?」


またもや意味深な笑みを浮かべた朝井さんに私はもう、考えることを放棄したい気持だった。


「ま、それは、ともかく。アイツに作ってやってよ」

「…それは構いませんけど。彼が食べるとは到底思えません」

「キミもわかってないなー。ま、俺としては面白いからいいんだけど。話はそれだけなんだ。引き止めて悪かったね」

「いえ…」


しっくりこない返答に後ろ髪をひかれる思いだったが、それよりも澪を待たせていることを思い出し、その場を離れた。もしかしたら逃げ出したいという本能が駆り立てただけかもしれないが。


「遅くなってごめん」

「んー、別に大丈夫」

「今日って新入社員の飲み会なんでしょ?」

「あれ? 聞いちゃった? 内緒で連れて行こうと思ったのにー」

「なんで内緒にするのよ」

「サトの驚いた顔かわいくて好きなの」


そう言われてみれば、澪は事あるごとに私を驚かそうと企んでいた。


「…まさか。今までそんな理由で私のこと驚かしてたの?」

「そんな理由って。大事でしょ?」


呆れて声も出なかった。


「じゃ、いこっか」


そんな私を見て満足したように優しい頬笑みを浮かべながら言った。

無言でうなずくと澪は軽快な笑い声を洩らし、歩き始めた。


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