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大変お待たせしました。



妖艶な美女はその後すぐにボーイさんらしき人を呼び止め、赤ワインを二つ、と頼んでいた。

その姿をぼんやりと映しながら、赤いドレスには赤でも白でもとにかくワインが似合うだろうな、とどうでもいいことに意識を囚われていた。


引き止めたボーイは優秀だったのか、それともここには優秀なボーイしか雇われていないのか、すぐにグラスに注がれた赤ワインが届き、一つをこちらに渡された。

それを受け取った美女は流れるように、自然な動作で二つの内の一つを私に手渡した後、受け取るとすぐにカチンとグラスを触れ合う小気味良い音が響いた。それを合図に吸い込まれるように赤い液体を胃の中へ流し込んだ。


「美味しい」


つぶやきとも取れる感嘆に美女は満足そうに頷いた。


「これ、私が持参したの。次は白もあるわ」

「あ、あの、あまり飲みすぎると」

「大丈夫よ。酔っ払ってもちゃんと介抱してあげるから。特別よ?」


ふんわりと微笑み、グラスを傾け、赤く染まった液体が消えていく。その動作はこの場に相応しく、優雅だった。こんなにも高級そうで美味しい飲み物でさえ、美女を引き立てる小道具へと成り下がるのか、と嘆きたくもなる。


「前田さんは居らしてないんですか?」

「奈那子は夜からの参加なの。それまで働くそうよ。キャリアウーマンも考えものね」


そう言うとまたグラスを傾け、美女の体内へと流し込まれていく。

アルコールなど入っていないかのように、するすると飲まれていく赤ワインが底をついてしまいそうな量に差し掛かるとすかさず、ボーイが近寄ってきた。


「次は白を二つ、お願い」


私のグラスにはまだ一口分しか減っていないというのに、なんの疑問もなく、私の分まで一気に注文してしまったので、慌てて、グラスを傾ける。


「ゆっくりでいいのよ? 私にペースまで合わせてしまうと貴女、廃人になるわよ?」


だったら私の分までワインを頼むというプレッシャーはやめて頂きたい、と心の底から願うが声には出さなかった。


目の前に立つボーイさんは頼まれればすぐにその場から立ち去るように定められているのか、私のグラスの中身に一瞥はしたもののすぐに「畏まりました。すぐにお二つお持ちします」と言い、立ち去ってしまった。


「それにしても、すごい庭園よね。いつみても感服するわ」


そう言い終えると花の方へ歩み出したので私も後を追った。


「貴女はお花とか活けるの?」


視線を少しだけこちらに向けてからまたすぐに美しい花たちへそそがれる。


「いえ」


そんな令嬢みたいなことを求められているのか。


「私も無理。観賞してる分には好きだけど、育てるとか活けるとかってする気が知れないわ」


根底から否定する勢いのセリフに、もしかしたら酔っているのでは、という考えが頭によぎる。ワインは控えたほうがいいかもしれないと言おうと決心したが、タイミング悪くボーイが現れ、白ワインの入ったグラスを手渡してしまった。


「あら、ありがとう。貴女も飲んでみて」


先ほどペースを合わせるなと言ってくれたばかりなのに、と心の中で嘆きつつもグラスを手にとった。

残っている赤ワインを胃へと流し込み、空になったグラスをボーイへ手渡すとボーイは速やかに立ち去っていった。





花を観賞しながら談笑しているとついに赤も白もボトルを空けてしまった。

それは美味しさももちろんだが、この女性の話術が長けていたからだったと思う。


「あら、いつの間になくなっていたのかしら?」


わざとらしく空になったグラスを掲げる。その仕草は妖艶で同性の私ですらどぎまぎしてしまう。


「貴女、顔が真っ赤よ? 酔ったの?」


私の顔に視線をむけた美女が口元を緩めながら、赤く染まった頬へ手を伸ばしてきた。

そもそも、二本のボトルをほとんどこの美女が飲み干し、私も付き合い程度にしか飲んでおらず、酔うには少し早いくらいだが、パーティーという緊張からかすっかり心臓音がいつともより陽気に音を響かせ、身体中の体温を上げていた。


「暖かいわ」


美女はふふ、と声を漏らす。普段の私ならきっとこの妖艶な笑みを前にして卑屈な考えがこれでもかと頭の中を駆け巡りムダに落ち込み、絶望をかみしめているところだが、酔っ払った脳ではそこまで考える余裕すらなく、ただただ、頬を赤らめふわふわと体を揺らし、心地よい微睡に浸かっていた。


「どこかで休む?」


覗き込まれ、目の前に広がる美女の瞳をぼんやりと眺めながら重たい頭をぐわりと揺らしなんとか頷いて見せた。


「頭が落っこちちゃいそうね。歩けるかしら?」


口元が緩み微笑んでいるように見えたのは私の脳がアルコールに攻撃されていたからなのかわからないが、タイミング良く差し出されたこの白く細い腕に私は縋りついた。

この噎せ返るような花の香りから逃れたいと思っていことを見透かされたのかもしれない。


「ありがとう、ございます」


消えてしまいそうなか細い己の声に嫌気が差す。何もできない小娘が、と誰かが罵ってくれたら、思う存分落ち込めるのに、と浅ましい考えが頭を過る。


これだから、酔うと碌な事がない。

醜い感情を胸に私と美女は建物内へと逆戻りした。


「どこで休みましょうか。あ、とりあえずこの椅子で休ませてもらいましょう」


庭から逃れてたどり着いた先はリビングへ続く廊下だった。廊下には等間隔に椅子と花瓶が交互に設置されており、その中の一番手前の椅子に腰掛けた。

椅子、といってもソファーのようにふかふかでゆったりとした広さがあり、ドレスがくしゃくしゃになってしまう被害を抑える事ができそうだ。


「私は誰か使用人を呼んでくるわ。一人で大丈夫よね?」

「はい。すみません」


気を抜くと瞼が閉じてしまいそうであるのに、気づくと反射的に答えており美女は疑う事なくその場から離れて行った。

美女の後ろ姿をぼんやりと眺めていると瞼は意識とは別に力を緩めてしまい、私はすぐに意識を手放すこととなってしまった。





全然話が進まない。

もうしばらくこのじれじれいらいらストーリーにお付き合いいただけると嬉しいです。


【業務連絡】

感想を書いてくださってありがとうございます。返信少々お待ちください。ごめんなさい!!いつも励まされてもらっているのに遅くて本当にごめんなさい!

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