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お待たせしました。

ほんと、亀更新でごめんなさい。



最高の時間を過ごしていたのに、お酒に飲まれたのか、いつのまにか寝てしまっていたらしく、ソファーの上で二人して転がっていた。まだ朝にもならない時間帯のようで、部屋の中もまだ暗く、起きる気がわかない。ふと、身体に毛布が包まっていることに気づいた。澪がどこからか漁ってかけてくれたのだろうか、と寝ぼけた頭で考えてから、また夢の中に落ちていった。



「サト。起きて」


澪の綺麗な声が覚醒しない頭に響き、心地よい感覚が身体中からむくりと湧き、身体を包んだ。そして、まだ寝ていたいと素直に思った。


「サトー。新見さんが」

「新見さん?!」


寝ぼけた頭でも《新見さん》という単語は鋭い矢のように頭にダイブした。そして、澪の言葉を奪うように声を荒げながら、勢い良く起き上がると、そこには昨夜の姿のまま、スウェットに身を包んだ澪と、清潔感のある無地のポロシャツにチノパンとラフではあるが上品さが滲み出ている私服に身を包んだ新見さんが立っていた。


一体、なにが起きたの?


「わお。寝起き可愛いね。その上驚いた顔を見せるなんて、罪な女」


甘ったるい台詞を吐く澪に思わず目を剥く。


「お前の頭は湧いているのか」


すぐさま新見さんが嫌悪の含んだ声をあげ、どうしたらいいのかわからず、反射的に立ち上がった。


「お、かえりなさい。あ、あの。朝ごはんは…」

「いただく。が、君はとりあえず着替えてきなさい」


はしたない、と言いたげな歪んだ表情に寝ぼけていたはずの頭がすぐに冴え、手足が冷めていく。固まる身体を慰めるように、澪が手を伸ばし「サト?」と声をかけてくれた。


「あ、澪の服も貸すから。こっちに…」

「工藤に入る服などないだろ。工藤は着ていた自分の服を着ろ」


確かに、身長も澪よりだいぶ低いし、体型だって澪のほうがスレンダー。そんなこと今更考えずともわかってはいる。わかってはいるけど、遠回しに言われていることにおこがましくも傷つついてしまった。


「…昨日の夜洗っておけばよかったね。ごめんね?」

「別にいいよ。そういえば、スウェットに着替える時、服を置いたままにしてたの忘れてた」

「あ、そうなの? 気づかなかった。じゃ、脱衣所で着替える?」

「うん。そのまま洗面所借りるね」


そう言うと私の肩を軽くさすってからリビングから出た。澪の瞳がいつもより慈愛に満ちていたからか、目頭が熱くなり、鎖骨が軋んだ。その痛みから逃げるようにリビングを出て、自室に逃げ込んだ。



着替えを終え、リビングに戻る前に洗面所に向かう。澪は歯を磨いている最中だったので、私も並んで歯を磨いた。


「朝ごはん食べていくよね?」

「えー。いいよ。せっかく二人なんだし。お邪魔虫は退散しますよ」


先ほどのやりとりを見て、聞いて、どうしたらその考えに至るのか是非聞きたい。


「まーた、困った顔しちゃってー。仕方ないなー。朝ご飯だけもらおうかな?」


私の困った顔見たさに言ったのかと疑いたくなったが、嬉しさが勝ち、我も忘れて抱きついた。


「ありがとう! ちょっと待ってね! すぐ用意するから!」


化粧もばっちりしたかったけど、新見さんも澪も待たせているのに呑気に化粧ができるはずもなく、最低限の用意をし終えるとリビングに向かった。



リビングに入るとテーブルで今朝の朝刊を読んでいる新見さんの姿が目に入った。邪魔にならないようにそっとキッチンに向かい、コーヒーの用意から始めることにした。ちらっと時計に目をやるとまだ6時を少し過ぎた時間帯だった。そういえば、新見さんはいつ帰宅していたのだろ。そんな今更な疑問が浮かんだが、新見さんに聞いたところでどうにかなるわけでもないなと思い直した。


コーヒーメーカーがコポコポと音を立てながら黒い液体を作り出す。その様子をぼんやり眺め、出来上がると新見さんのマグカップに注ぐ。新見さんはブラックなので、ミルクや砂糖はいらない。マグカップだけをトレーに載せ、リビングに向かおうと一歩踏み出すと、これから新見さんと向かい合うという現実を改めて認知すると緊張と不安で手が震え、トレーとマグカップが安定せずカタカタと音をたてた。それはマグカップが私の逃げ腰に抗議するかのようで。


新見さんは、キッチンに入る前と同じ位置に座っていたが手元は新聞ではなく雑誌へと切り替わっていた。読んでいる最中に声をかけるなんて私にできるはずもなく、無言で目の前にマグカップだけ置いた。置く際に音が鳴ってしまい、新見さんは視線を雑誌からマグカップにあげたのち、私に向けた。


「…今日の予定は?」


私の予定なんて一度も聞かれたことがなかったので、驚きのあまり無様にも目を見開きながら「いえ」と一言こぼすのがやっとだった。


「母から聞いただろ? その用意をするように言われている。出かける準備を。ついでに工藤も送ってやる」


何時の間にかリビングに入ってきていたらしい澪に視線を向けた新見さんの後を追うように私も澪の姿を捉えた。


「あ、本当ですか? ラッキー」


しっかりメイクができあがった澪は弾む様に足取りは軽く、新見さんの前に座った。あまりのスムーズさに呆気にとれた。


「コ、コーヒーいる?」

「もらうー」

「澪は朝食和食派? 洋食派?」

「取らない派。だからなんでもいいよ。あ、新見さんはどっちなんですか?」

「和食」


思いもしないところで彼の情報をゲットでき、口元が緩んだ。それに、ラッキーなことに昨日の晩ご飯用にと準備していたものが和食だったので、結果的に新見さんの好みを出すことができそうだ。


ホクホクとした心が伝わったのか澪はニヤニヤと笑ってこちらを見ていた。その瞳から逃げる様に「コーヒー持ってくるね!」と言ってリビングを後にした。



朝ごはんは、お弁当用に炊いていた残りの白米と晩御飯用に用意していた和食なので、それほど時間はかからず食卓に並べることができた。


「わお。朝から豪華だねー」

「昨日の残り物で申し訳ないけど」

「あ、そっか。昨日はいきなり誘ったんだった。ごめんね?」

「気にしないで」

「昨夜は、参加する予定ではなかったのか?」


無言で朝食をつついていた新見さんが、不機嫌そうに言い放ち、私はあたふたとしただけで答えられず、代わりに澪が話した。


「私は参加する予定でしたけど、サトは昨日出勤してから私が誘ったので。そもそも定例会があるってサト知らなかったでしょ?」

「あ、うん」

「まー、私がわざとサトに情報いかないように手を回していたんだけど。そういえば、誰から聞いたの?」


澪の爆弾発言にツッコミを入れられる状況でもなかったので、ここは大人な対応でスルーしてあげた。


「篠部君だよ。お昼食べたときに聞いたの」

「篠部か。なるほどねー」


何か思うところがあるのか、澪は一人だけニヤニヤと笑っていた。


「なるほど、なるほど。ところで、サト達は今日どうするんですか?」

「工藤、お前の口は閉じられんのか。それ以上話すなら、追い出すぞ」


ピリピリとした空気が漂い、その圧迫感にたじろぐ私を他所に、澪はケラケラと軽快に笑った。


「新見さん。追い出すはないですねー。サトはご飯食べたら用意してきなよ。まだスッピンでしょ?」

「え、でも…」

「…すぐに出られる用意をしておきなさい」


新見さんの言葉に弾かれるようにして、席を立ちあがる。


「わ、わかりました!」


そう言って自室へと逃げ込んだ。



やっと。

やっっっと、話が進み始めました…。

もうじれじれ通り越してイライラな展開ですみません。

これからテンポアップできるように頑張ります。

ありがとうございました。

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