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遅くなってしまってすみません。



澪をお風呂まで案内して、リビングに戻ると携帯が転がっているのが目に入った。そこでやっと返信をしていないことに気がつき、慌てて携帯を手にとった。


「澪が泊まること、話してなかった」


慌てて二つ折りの携帯を開いて見ると、新たに新着メールが届いていた。返信していないのに彼からメールが連続して送られてくることはないので、不思議に思いつつメールを開いた。そこには「新見 仁美」と表示されていた。


「お義母様…?」


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


春香さん。

夜分遅くにごめんなさい

春香さんにどうしても

お願いしたいことがあるの

このメールを見たら

何時でもいいから返信下さい


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「私にお願い? 珍しい」


そう零しながら返信メールを作成する。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


お義母様。

遅くなってしまって

申し訳ありません。

何かありましたか?


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


愛想のないメールかな? とも思ったが、すぐに返信するほうが良いだろうと思い、送信ボタンを押した。続いて新見さんのメールにも「澪を泊めることにしました。事後報告ですみません」とだけ送った。お仕事がんばってください、と最後に付け足そうか迷ったが、文面からは皮肉にしか見えず、削除した。

新見さんにメールを送ってすぐに、お義母様のほうから返信があった。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


春香さん。

返信ありがとう。

実は急なお話なんだけれど…

明後日の日曜日に簡単な

パーティーが催されるのだ

けれど、春香さんにも是非

出席してほしいの。

そんなに堅苦しく考えないで

ほしいのだけど…。

春香さんのお友達を呼んで

頂いても結構です。

詳しいお話は明日お電話しますわ。

とりあえず、明後日予定を空けておいてね。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


メールはそこで終わっていた。


「パーティー…? 明後日?」


あり得ないし。


「お先でしたー。あれ? 何、固まってるの?」


呑気な澪の声に余計力が抜けた。



お義母さんのお誘いに困惑しながら事情を話すと澪は目を見開いてからぱちぱちと瞬きをした。


「パーティーってそんな急に呼ばれないでしょ。なんか怪しいな」


私が置いたスウェットを身に纏い、仁王立ちしている姿はなんとも滑稽で、少し肩の力が抜けた。


「怪しいって…。それより、参加することは決定ってことかな?」

「そうでしょ。メールでは空けといてって言われたんでしょ? 新見さんは知ってるの?」


そう言われ、そんなこと考えもつかなかった自分の鈍さに悲しくなった。


「そう、だよね。新見さんにメール、すべきだよね?」

「…いや、ちょっと待って。お義母様が明日詳しく連絡するって言ってたよね? 待ってみるのもありかも。今、遅いし」


うんうん、と頭を上下しながら言い放つ澪。どれが正解かもわからず、結局携帯を閉じた。


「それより、サトもお風呂入ってリフレッシュしておいでよ。その間、この豪華な液晶テレビを見ても?」

「あ、うん。テレビもそうだけど、冷蔵庫にビールとか入ってるから好きに使ってくれていいから」

「はーい。あ、それと。我儘ついでに、化粧水貸してくれない? コンビニ行ったのに買ってくるの忘れちゃって…」

「そんなの気にしなくていいよ。とってくるからまってて」


リビングに澪を残し、自室に向かった。寝室は元々別なので、自室にはベッドとドレッサーが置いてある。そこから化粧水と保湿クリームを手に取った。殺伐とした自室に見て見ぬ振りをして、リビングに戻った。


「これ、使って。私はお風呂入ってくるね」


テレビの前に置いてあるソファーは大の大人が四人は余裕で座れるであろう存在感のあるもので、そのソファーにこれまた王様のように堂々と座る澪の姿が似合いすぎて見惚れつつ、スキンケアを手渡し、お風呂に向かった。



お風呂から出てくると、リビングからは清々しいほどの笑い声が聞こえた。気を抜くとすぐに沈んでしまう気持ちが、共鳴するように持ち上がる。この家で気持ちがあがるなんて。


「お待たせ。何見てたの?」

「お笑い番組。こんな大きいテレビで見ると迫力も違うね! 私の家、まだ、アナログだから画質の綺麗さに驚いたよ」

「え? まだアナログなの? もうそろそろでしょ?」

「うん。でも買いに行くの面倒で先延ばしにしてんの。あ、ビールもいただいちゃいました」

「いいよ。あたしも飲もう」


キッチンに向かい、ビールを片手に持って戻るとテレビの電源は消されていた。


「さ、始めますか」


ニヤニヤとだらしない表情を浮かべた澪がソファーで踏ん反り返っていた。嫌な予感が頭を掠めた。


「な、なにを?」

「パジャマパーティーと言えば、そりゃ、ガールズトークでしょ」


ガールズって年でもないくせに、と言ってやろうかとも思ったが、なんだかドッと疲れたのでため息だけこぼした。


「部屋いく?」

「いいよ、ここで。ちょっと気になることもあるし…。さ、座る、座る」


そう言ってパシパシとソファーを叩いたので、おとなしく隣に座った。


「とりあえず。テーマは新見さんの好きなところにするか」

「なっ! 何言ってるの!?」

「憧れって、なんかきっかけがあったの?」


興奮する私を見事にスルーし、冷静に質問を投げかけてくる澪に困っていると「あー、その顔!」と空いているソファーをパシパシ叩きながら興奮するのでなんとか冷静を装うことにした。


「きっかけは、入社してすぐの時。ちょっと問題が重なって落ち込んでたの。誰にも見られたくなかったから資料室でこっそり自分の世界に入ってたんだけも、新見さんが突然現れて『君はここの住人か? 用もないのに住み着くな』って言われたの」

「…うん…?」

「…それが、きっかけかな?」

「どーこーがー?! 今のどこに萌えたのよ! ただの毒舌でしょ? なに? 俺様が好きなの?」

「俺様が好きってわけじゃなくて…」


なんて言ったらいいのか自分でもわからず、またしても困った表情を浮かべてしまった。

確かに、そんな一言で憧れて、こんな生活を送る引き金としては不自然かもしれない。それでも、なにかが引っかかったのだ。


「まぁ、男の趣味なんて人それぞれだし私が口挟むことではないけど。三ヶ月間どんな生活だったの? 休みの日とか」

「最初の一ヶ月は慣れなくてあたふたとしてるか、生活品を買いに出かけたりしてたらあっという間に。あ、ご挨拶もあったし」

「そういえば、実家は近いの?」

「うん。車で30分くらい」

「なーんかなぁ。そのトントン拍子が気にかかるなー」


そういうと、一気にビールを傾け、喉を鳴らした。


「もう一本飲む? それか、日本酒か梅酒」

「冷酒! 水割りで」


空になった缶ビールを高々と掲げ、宣誓するかのような姿に口元が緩む。


「ちょっと待ってて。瓶ごともってくるから」


そう言うと澪は座ったまま器用に上半身をゆらゆらと揺らし、可愛いダンスを披露してくれた。


キッチンに行き、お目当ての日本酒とミネラルウォーターを手に取り、先にリビングに運ぶ。


「氷も持ってくる」

「お、サンキュー」


製氷機から氷を取り出し、魔法瓶に入れ、手近にあったコップを二つ見繕う。こうなると、軽いつまみもあればなおいいだろうと思い、チョコレートとナッツを小皿に盛り付ける。ついでに、トレーも引っ張り出し、トレーに乗せて一気にリビングに運んだ。


「わーお。豪華だねー。ありがと」

「さ、飲もう!」


残しておいたビールを流し込む。少し温くなっていたが、温くなったビールはそれはそれで味わい深く、個人的には好んで飲んでいた。

その間、澪は自分の水割りを好みの濃さで作っていた。


「そう言えば、澪はどうなの?」


ビールを片手に持ちながら、空いた手で目の前のテーブルにおいたつまみに伸ばす。ナッツを食べすぎるとニキビに繋がり食べ過ぎは禁物だが、つまみがあればよりお酒が進み、気分があがる。魅惑的だ。


「あー。こないだの合コンのこと?」

「そうそう。先週くらいに行ってたよね?」

「行った、行った。…そっか。あの合コンの話してなかったんだ。相手はね、大学生だったんだよねー」

「えぇ?! だ、大学生?! ちょっと、それって犯罪…じゃない?」

「えー? まだ大丈夫だよ。高校生ならちょっとあれだけど。それに、大学生って言っても年の差は2、3歳だよ?」


可愛い顔を傾け、キョトンとした表情を浮かべる澪に、なんかあったな、と感じ取った。


「…もしかして…」

「永谷翔くん。22歳で、4回生」

「…なに? その紹介…。あ、待って! 怖くて聞けない」

「やだなぁー。ちょっと仲良くなっただけじゃん?」


そう言うとケラケラと声をあげて笑い、水割りを流し込んだ。私も飲まずにはいられず、残りのビールを流し込んだ。温くなっていたからか、胃は思うほど驚かず、素直に受け止めていたのをいいことに、水割りを無言で作り、また流し込んだ。


「どんな子なの?」

「イケメン」

「それ、死語だよー。付き合ってるの?」

「付き合ってはないよ。とりあえず連絡はとってるんだけど、学生だしなー」


つい先日まで会社の年下の男の子が言いよってきて面倒だと言っていたのに、と思わないでもないが、澪は仕事もできるいい女なので、世の男性がほっとくはずもない。


「恋多き乙女でも若さには目が眩むのかー。その子に会ってみたいなー」

「別に多くないから! ま、機会があればね」

「それはそれは。楽しみですこと」


くすくす笑うと澪は大げさに肩を竦めてから水割りを飲んだ。お互いの恋に、人には言えない悩みに、お酒で滑りのよくなった口からぽろぽろと出ていった。それが時として心地良く、残酷な内容でも、肴のあてに笑うのだ。女はなんて残酷で醜いんだろうと、頭の端で思いながら、コップを傾けた。




反省、言い訳等は活動報告(*)にて。


(*)

私が読む側だった頃は活動報告という場があることを知らなかったのですが、作者様によってはそちらでこっそり番外編や小話をアップしてくださるといったサービスもあるので(私はこまめに報告していないので大丈夫ですが;)是非チェックしてみてください。


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