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5W1H  作者: ハムスター
9/9

08.エピローグ

 結局、警察側はいじめの存在に気付き、利子ちゃんの自殺という結論に至ったらしい。

 ……というか、普通に骨折り損になったよね。

 くたびれ以外のもうけは……まぁ、あったと言えばあった、かな。

「で、一番の疑問はお前が俺の部屋にいることなんだが」

「えー。どうせ暇でしょ?僕に構ってくれてもいいじゃない」

「よくない。俺には昼寝とゲームをする義務があるんだ」

 ちゃぶ台の横に当然のごとく座る御社。マジで誰こいつ。

 ちなみに俺は布団にくるまりながら応対している。もう寝る気満々なのです。

「ねぇ、敬司」

「何だよ、うるさい。俺の寸暇を惜しんで寝ようとする姿勢が伝わらないのか」

「僕が犯人じゃないと気付いたのはいつ?」

「……まだ事件のことを引きずるか」

「ごめん。でも聞きたい」

 むー。

「お前に好きな飲み物を聞いたことあったろ?」

「うん。あったね」

「あれでフルーツ牛乳とお前が答えたとき」

「……そんなこと?」

「屋上にあってコンビニにない飲み物って、実はフルーツ牛乳だけなんだ。だから、お前には屋上へ行く理由があった」

「なるほど」

「もちろん、全然信頼度は低いし他の理由もあったけど、まぁお前がシロいんじゃないかと思ったのはその時かな」

「へぇ……」

「それだけか?俺寝るぞ?というか寝る。おやすみ」

「……すごいね。敬司は、自分の見ていなかった事件の5W1Hを把握してたんだ」

「……あのね、俺は別に把握してないから。あくまで憶測だよ。本当の5W1Hなんて、まだ闇の中だって」

「え?闇の中?どういうこと?」

「……おやすみ」

 寝よう。

「ねぇ、どういうことなの?教えてよ」

「揺するな」

「じゃあ教えてよ」

「……肝心の利子ちゃんが何一つ証言してないだろ。俺の憶測も警察の推理も、利子ちゃんの証言がなければ立証しえない」

「そんな……」

「その意味では、お前のことも信じ切れていない」

 そのひと言に、御社は立ち上がり、布団にくるまる俺のところにやって来た。

 またあれか……!!と逃げようとするもやはり遅かった。布団を剥いだ頃には、俺の上に御社がいた。

 以前、刃物を向けられたときの光景がフラッシュバックする。

 そしてまた、俺は跨られ、腕をを床に押し付けられた。

 ただ、今回は刃物はないようだ。

 そして眼前にあるのは、以前のような無表情や妙な笑顔ではない、頬を紅潮させた御社の顔だった。

 柚子の香りのする髪が数本、俺の顔に垂れている。

 危険を感じ取りつつも、御社があまりに色っぽくてちょっと驚いた。

「色々な意味で危険なポーズだな。お前、一応女だろ?」

「女だから、だよ」

「は?」

「敬司。きみはいつになったら僕のことを信じてくれるんだい?」

「……えーと」

「きみは僕を苗字で呼び、佐倉綾や間山利子は名前で呼ぶ。僕のことはいつも適当で、彼女たちのことは真剣に考える」

「……あーと」


「きみはいつになったら僕を信じてくれるの?いつになったら僕のことを真剣に見てくれるんだい?」


 返事が出来なかった。

 確かに俺は今回の件を通して御社と、以前なら考えられないほどの接点を持った。

 そして、結局俺はこいつを、降りかかる火の粉を払うためだけに『利用』した。

 50%の信用などと言っていいように利用し、こいつ自身のことに関してはほとんど無関与だった。

 ……しかし。

 それは論点ではないはずだ。御社自身、『自らの潔白を証明するため』と言って供託してきた。

 俺が御社に対して無関与なのは、ある意味自然なこととさえ言える。

 どうして御社はそれにこだわるんだ?

 以前もそうだった。以前御社が同じような体勢で俺に刃物を突きつけてきたとき。

 御社は、異様なまでに今回の事件の犯人にこだわりを見せた。

 この二つの事柄に関連性があるとしたら、御社の真意は何なんだ?

 もっと言うなら、


「お前の目的は何だ?」


 俺の質問に、御社はなぜか一瞬悲しそうな表情を見せた。

 そして嘆息し、俺に顔を近づけ、無表情に戻って言った。

「僕はきみが好きなんだ。愛してる。いや、そんなものじゃないな」

 そこで御社は一拍置いた。


「言うなれば、殺したいほど、殺されたいほどに愛してる。きみを永遠に独占したい、それくらい愛してる」


 背筋がぞっとした。

 頬をつねるような月並みな動作はしないまでも、一瞬夢の中かと疑った。

「マヂ?」

「うん、マヂ」

「……正気、なんだよなぁ」

 俺の呟きに返事はなかった。

「だから敬司、僕と付き合ってくれ」

「ぬ」

「肯定とも否定ともつかない微妙な返事だね」

「……わからん」

「何が?」

 全部だよ、ボケ。

「何でお前が俺に対してそんな感情を抱くのかとか、ここでどう返事すべきかとか、その他諸々」

 そもそも、御社が俺に好意を抱いているとは微塵にも思っていなかった。

 ある時はこちらの心を凍らせる無表情。ある時はおどけて考えなしを装っていたり、かと思えば豹変したり。

 つまるところ、こいつは何を考えているかわからないのだ。

 だから俺も常に、一定の距離を置いて接していた。まるでトランプのダウトでもやっているかのように。

 そんな人間が突然、『殺したいほどに愛してる』と言ってきたとき、どう対応すればよいというのだ。

「僕たちが出会ったのはいつか、覚えてる?」

「ビッグバンの翌日」

 両手で首を絞められた。

「ふごふご……わかった、言うって」

 解放された。結構苦しかった。

「俺がこのマンションを見に来た時か」

「正解」

 俺も御社も、今年の春休み(数ヶ月前だが)にここへ一人で引っ越してきた。

 実際に部屋に入ったのは春休み中だが、実は春休み前から何度かここは下見に来ていたのだ。

 おそらく御社も同じ目的なのだろう、ここで何度か会ったことがある。

 俺が中学の帰りに、地図片手に初めてここへ来た時、ちょうどそこに同じく地図を持ったロングヘアーの女の子が登場する。

 声を掛けると、女の子はこちらをじっと見つめてきたまま何も言わない。

 何となく気まずくなり、俺退散。以上、俺と御社の邂逅でした。

 そして下見に来るたびになぜか御社と遭遇するも、俺は気まずくてすぐ退散する……ということを繰り返した。

 で、春休み、俺が引っ越してきた数日後に御社が引っ越して来た。高校も同じだった。そしてなぜかクラスも。

 ……もっとも、なぜかやはり気まずいのであまり会話はしなかったが。

「それから僕は敬司のことが気になって、敬司の情報を集めるために東奔西走したよ」

「……うげ」

「敬司に後ろからこっそり付いていったりしたことも」

「ストーカーかよ。ていうか、そこまでするのに声は全くかけないのな」

「それは……嫌われるのが怖かったから……」

「なんだそれ……」

「そういうことだから、僕は敬司が好きだ。だから敬司、僕と付き合ってくれ」

 むー……む?

「なぁ、御社」

「なに、敬司?」

「もしかしてさ、お前が綾ちゃん関係のことで豹変してたのって」

「敬司が他の女にばっかり興味を示すからだよ。敬司には僕がいるのに」

「じゃあ殺人犯にやたらとこだわったのは?」

「殺人犯がわかって僕の潔白が証明できれば、敬司が僕を信用してくれるでしょ」

 ……うわ。

 ってことは、コイツは初めから俺が犯人ではないという確証なしに俺のことを信じていたのか。

「もし俺が犯人だったらどうするんだ?」

「そんなこと絶対にないよ。敬司はそんなことしない」

「……確証は?」

「人を信じることに確証なんて必要ないでしょ?それに、もし敬司が犯人だとしても、僕は敬司を嫌いになったりしないよ」

 うーん……負けた、かな。悔しいけど。

「御社」

「なぁに?」

「もう、トランプのダウトはやめにしよう」

 ダウトは、目の前にいる人間が1と言っても、1を出したかどうか分からない。

 でもこいつは、俺を疑う振りをして、内心では俺が裏向きに出したカードを全て信じていた。

 俺だけがこいつを疑っていた。

 だからもう、お互いにやめにしよう。

 おどけて、大切な部分をぼかして、互いの腹を探り合うような関係は。

「俺はもっとお前を信じようと思う」

「僕はいつでも敬司を信じてるよ」

 これからは調整された距離ではなく、もっと自然な距離で関わりあおう。

「あ、でも恋愛感情云々は今のところない」

「……言うと思った」

「いい加減な付き合いをしたくない……というのは常套句だが、相手がお前だとなぁ」

 『他の女』(ex.綾ちゃん)の話をしただけで豹変するんだもん。

「いいよ。じゃあ敬司が僕のことを好きになるように……フフフフフ……」

「ヲイ、何だその不気味な笑いは」

「いいよ。上等だよ。絶対に、強引に、好きにさせてみせるから」

「危険なことは極力避けてくれよ」

「うん。あ、でも敬司」

「なんだよ」

「あんまり僕以外の女と関わらないでね?」

「……前向きに検討しとく」

 関わるって、どの程度のことを言うんだろう。

「それとさ」

 急に、御社がモジモジしはじめた。

「僕のこと、下の名前で呼んでくれないかな?」

 ……それ、言われるの何回目だろう。

 ま、いいか。

「真雪」

「『ユキ』のほうがいいかも」

「うん、わかった。ユキ」

 何だか、呼び名を変えただけですごく何かが変わった気になるのはなんでだろ。

「えーっと……とりあえず、何かしないとストーリー的に締まらないので、3度目の握手でもしてみる?」

「……うん」

 何となく右手を差し出してみる。ユキも、それを握る。

 1度目は信頼度0%の握手。

 2度目は信頼度50%の握手。

 3度目は……何%だろ?まぁいいや。

 要するに信頼度は上がってるんでしょ?それでええやん。


 もし俺があの日、あの時間に自販機を使わなければ事件に巻き込まれなかった。

 もしユキがあの日、あの時間に自販機を使わなければ事件に巻き込まれなかった。

 それだけじゃない。偶然はいくつもある。

 意味のない行動、意味のある行動。何気ない言葉、誰かへの言葉。

 もし過去の何か一つが違ったら、今は違うものになっただろう。

 不確かな偶然が確かな今を作る。

 そう考えると、人間が偶然を奇跡と呼びたがるのも何となくうなずける気がした。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この作品のメインは何と言っても真雪……のつもりだったのですが、

読者の方々から「キャラが薄い」というコメントを頂いたので、今後少し

修正を加える予定です。というか、真雪を強調するためのエピソードを

割り込み投稿しようかなと考えています。

なんにせよ、今は時間がないのでしばらく後になると思いますが。


お分かり頂けた通り、真雪はヤンデレです。前作をお読み頂いた方はご存じかも

しれませんが、敬司ひと筋、もとい依存症なのです。

作者の思い描くヤンデレを頑張って表現してみようと考えましたが、

いかがだったでしょうか?

一般小説サイトということもあり、真雪の病み方はかなりソフトめにしたため、

コアなヤンデレマニアには生ぬるいかもしれませんが、作者なりにヤンデレを

描こうとしてみた結果です。

感想・意見・アドバイスなど大歓迎です。

今後のヤンデレ布教のために十二分に活用させていただきます。


では、願わくはこの小説で一人でも多くの人がヤンデレを好きになってくれますよう。

お読みいただきありがとうございました。

(続編、書けたらいいなぁ←独り言)

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