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5W1H  作者: ハムスター
7/9

06.存在しない質問

 そして、時は放課後。

「さて、帰ろうか、敬司少年」

 荷物をまとめていると、御(ryが俺の席へとやってきた。

「あ、悪い。今日は先に帰ってくれ。俺はちょっと急ぎの用事があるから」

「用事?別に僕は暇だから、待ってるよ?」

「いや、時間もかかるし遠いし、個人的な用事だからいい。『調べ物』は明日だから、今日はいいよ」

「……ふーん。わかった。じゃあ僕は先に帰るよ」

「ああ。悪いな」

「いや、気にしてないよ。じゃあね、敬司」

「ぅい」

 今日の用事は、ちょっと御社が居ては困る。

 御社が出て行くのを待って、俺も急いで学校を出た。


* * *


 用事を済ませた俺は、帰宅してさっさと布団にもぐりこんだ。

 ……さて。

 これで、だいたい土台は完成したかな。

 あとは『調べ物』の結果が予想と一致すれば、概ね『憶測』の穴は埋まる。

 だが、正直言って『調べ物』は賭けに近い。

 成功率も高くないし、仮にうまくいっても、『憶測』が100%裏付けられる情報は得られないだろう。

「んー……」

 布団にくるまって一人唸ってみる。

 ……ま、やってみないことにはわかんないよな。うん。

 やってみよう。


* * *


「やぁ、おはよう敬司」

「ああ、うん」

 首を掴まれた。

「悪かった、悪かったって。おはよう」

「うん、おはよう」

 首から手が離れ、御社も笑顔を見せた。内心、また豹変モードかと思ってちょっとひやりとしたが。

 と、そんなくだらないやりとりをマンションのロビーで繰り広げていると、綾ちゃんが登場した。

「あ、おはようございます。最近よく会いますね」

「おはよう綾ちゃん。今朝は、ちょっと件の占いを見てみたんだけどさ」

「そうなんですか。どうでした?」

「俺の運勢は芳しくなかったよ。なんか異性関係でよからぬことが起こる云々」

「ははは、まぁ占いなんて当たるもんじゃないから大丈夫ですよ」

「毎朝欠かさず占い番組を見るのに、随分と後ろ向きなコメントだね」

「毎朝見てるのは一種の習慣みたいなものですよ」

「何にせよ、継続は力なりって言うし。早起きしてまで占い番組を見るなんて、後光が見えるよ」

「あはは……」

 綾ちゃんは曖昧に笑った。

「今日は部活あるの?」

「いえ、ないですよ。なんでですか?」

「なんとなく、そこのサボテンが目に入ったから」

 そう言って俺はロビーの一角に置いてある盆栽のサボテンを指差した。

 ここのマンションの管理人は盆栽に凝っているらしく、ロビーにサボテンがあるのもその影響だ。

 ちなみにサボテンは水をほとんど必要としないため、そこまで手入れは重要ではない、らしい。

 by園芸部の綾ちゃん。

「じゃあ、私はこれで」

「はいはい。行ってらっしゃい」

 綾ちゃんに手を振り、俺達も反対方向に歩き出した。


* * *


 そして学校までの道。

「ねぇ、敬司」

 御社が体を寄せてきたかと思うと、いつぞやのような不自然に低いトーンの声で話しかけてきた。

「……どした?」

 何か、すごーく嫌な予感がする。

「敬司ってあの女のこと、けっこうよく知ってるんだね」

「……そうか?まぁ、よく利子ちゃんを通して情報が入ってくるからさ」

「ふーん」

 なんだこれ。また豹変モードの香りがするぞ。

 まだ豹変のメカニズムを知らないから何とも言えないが、どうやら綾ちゃん関連はNG話題が多いようだ。

 かといって、綾ちゃんの話をしているのに豹変しない時もあるからなぁ。

 初めての時は綾ちゃんは関係なかったし。

「……なぁ、どうした?」

「どうもしないよ」

 いや、するだろ。その声のトーンからして。その不気味なまでの笑顔からして。

 どうしよう。どうやってコイツを元に戻すか。

 要するに、コイツの意識をそらせばいいんだよな?……よし。

「……真雪」

「ふぇ!?」

 何となく、名前で呼んでみた。効果はあったようだ。

「な、なに?」

 こっちを向いた御社はもう、あの不気味な笑顔ではなかった。というか、なんか顔が赤い。

 ……よかった。あのまま絶対零度の空気が漂い続けたら俺は軽く死んでたな。精神的に。

「いや、一昨日『下の名前で呼んでくれ』みたいなこと言ってたから」

「そっ、そうだね!!じゃあ、これからは僕のことは名前で呼んでくれるかい?」

なんか妙にテンパってるし、どもってるし、今度はどうしたんだろう。

「んー、気が向いたら」

「あ、できれば真雪じゃなくてユキって呼んでくれないかなっ」

「前向きに検討できるように検討しとくよ」

 さっきとは180度変わり、ぱあっと笑顔を浮かべる少女M。本当に不思議な奴だ。

 ま、豹変モードは防止できたし、一件落着だろう。


* * *


 放課後。

「さぁ、調べ物のはじまりはじまりー。拍手ー。イェーイ」

「イェーイ」

「とりあえず暢気に調べ物開始宣言をしてみたが、実際『調べ物』はそう簡単ではない」

「覚悟してるよ」

「うむ」

 ……ふぅ。

「今日調べたいことは1つだ」

「うん」

 そしてとりあえず、御社に『調べたいこと』を伝えた。

「……どういうこと?どうして?」

 それを聞いた御社は、当然の疑問をぶつけてきた。

「それは、後から説明する。とりあえずは、手伝ってくれ」

「僕は何を手伝えばいいの?」

「全てだ」

 御社はきょとんとしていた。

「じゃあ、とりあえず帰ろう。手順は、歩きながら説明する」

 俺達は荷物をまとめると、急いで学校を出た。


* * *


 俺達は、マンションの隣のコンビニに潜伏していた。

 窓際の雑誌コーナーで立ち読みしながら。

 俺達が待っているのは、言うまでもなく綾ちゃんだ。

 今日は部活もないはずだから、そろそろ帰宅するはず。

 待つこと数分。

 雑誌から目を上げると、綾ちゃんと目が合った。

 ……来たか。

 俺は綾ちゃんに笑顔を返すと、雑誌を閉じてもとの場所にしまった。

「行くぞ」

 俺と御社は若干冷たい店員の目を華麗にスルーし、コンビニを出た。

「おかえり、綾ちゃん。奇遇だね」

「そうですね。雑誌、買わなくてよかったんですか?」

「ふっふっふ、購入するほどの経済的余裕があったら立ち読みなどしないのだよ」

「うわぁ……」

「なっ、何だその哀れむような目はっ!!」

 マンションはコンビニのすぐ隣。俺は綾ちゃんとくだらない会話をしながらロビーに入った。

 さぁ、それでは第一歩。

「あ、そうだ。綾ちゃん、この後暇?」

「……?まぁ、特に用事はないですけど」

 ま、それはもう調べてあるけどね。

「よかったらゲームでもしない?」

「ゲーム、ですか?」

「うん。マルオパーティでもやろうかと思ってさ。もし暇なら、この後俺のところ来ない?」

 博打1。ここで断られたら失敗だが……

「他に誰かいるんですか?」

「コイツがいる」

 そういって横の御社を指差した。御社は「やっほー」とか言って手を振った。

「ま、マルパは二人でやってもつまんないからね。誰かいないかなー、と思っていたら綾ちゃんが通ったんで」

 綾ちゃんは、少し考え、

「そういうことなら、いいですよ。6時くらいまでなら」

 と答えてくれた。成功。今は4時だから、時間も充分だ。

「じゃあ、4階の405で待ってるよ」

「はい」

 3人でエレベーターに乗りこんだ。2階で綾ちゃんは降り、俺と御社は4階までのぼった。

 御社は本来は2階に住んでいるが、今日は直で俺の部屋へ来てもらった。


* * *


 部屋に入ると、俺はテレビの下の引き出しからサンテンドーのテレビゲーム、Hiiを取り出し、テレビに繋いだ。

 Hiiとテレビの電源を入れながら、御社に話しかける。

「一つ聞き忘れてた」

「なに?」

「あの日、お前が利子ちゃんを見た直後に綾ちゃんが入ってきたって言ってたよな」

「うん、そうだけど」

「彼女は手袋をしてたか?」

「手袋?」

「ああ」

 御社は数秒ほど考え込み、

「いや……覚えてない」

 と答えた。

「彼女は携帯で警察に連絡したんだよな」

「うん」

「手袋をしていたら、携帯のボタンは正確に押せない。だから手袋をはずすはずなんだ」

「うん……あ!!」

「思い出したか?」

「うん!!つけてたよ!!」

 あー……。

 なるほど。

 幸か不幸か……面白いほどに、予想通りだな。


* * *


 15分後。

 インターホンが鳴った。

 玄関のドアを開け、綾ちゃんを招きいれた。


 ちなみに、俺はかなりのゲーマーだ。俺の人生は睡眠とゲームが50%ずつを占めている。

 Hiiのゲームだけでも、極めたタイトルはかなりある。

 特に大乱闘スマイルブラザーズ、通称スマブラは誰にも負けない自信あり。

「へぇ、敬司もスマブラやるんだ?」

「ぇ?」

 ズラリとゲームソフトが並んだ棚を物色していた御社の言葉に俺は反応した。

 敬司『も』?

「僕、スマブラは多分勝てない相手居ないと思う。もっと言えば、ゲーム全般」

「……なに?」

 聞き捨てならないことを聞いてしまった。

 ゲーム全般で『勝てない相手は居ない』?

「……笑わせるな」

「あれ、なんか敬司がスイッチ入っちゃった」

「スマブラで俺に勝てる奴なんていない。御社、あとで勝負だ。身の程を知らせてやる」

「望むところだよ」

 若干引き気味な綾ちゃんにHiiリモコンを手渡すと、マルパを起動し、ゲームを開始した。

「よし、やるか!!」


 1週が終了した頃には、時計の短針は5と6の真ん中を指していた。

 結果は、綾ちゃん1位、御社2位、俺3位、CPU4位。

 綾ちゃんは、それはもうすさまじい強運で次々とスターを獲得していった。

 おまけにミニゲームでは俺と御社が邪魔し合っている間に綾ちゃんが漁夫の利を得ることが多く、最後のスター差は2桁になった。

 一方俺は、マイナスコインのマスに止まったり、甲羅にトゲの生えた亀のような『魔王』にスターを取られたり散々だ。

「うー……」

「まぁまぁ……そういう時もありますよ」

 勝者に慰められた。複雑な気分だ。

「ざまぁ」

 お前は黙れよ。

「……ちょっと飲み物買ってくるよ。王者殿、何かリクエストは?」

「あ、いや、私は何でも……」

「まぁまぁ、遠慮せず。言ってくれたほうが助かるよ」

「あ……じゃあ、私はりんごジュースで」

「了解」

「敬司、僕はねぇ……」

「お前は泥水でも飲んでろよ」

「敗者のくせにぃ」

「ぐ……」

 ゲームに人生を費やす俺にとって、ゲームでの敗北は人生の否定。

「……リクエストは?」

「じゃ、ぶどうジュースで」


* * *


 コンビニでりんごジュースとぶどうジュースとコーラを買って戻った。

「はい、綾ちゃん、りんごジュース。りんごジュース好きなの?」

「ありがとうございます。大好きですよ、りんごジュース」

「そうかそうか。それはよかった」

 さて、そろそろいいかな。


 もういいだろう。

 ぶどうジュースを御社に手渡しながら、アイコンタクト。

 『いくぞ』という意味だ。



「綾ちゃん」

 俺は、いつもと全く変わらない、普通の会話の調子で話しかける。

「なんですか?」


「あの日、利子ちゃんに、何て言われて呼び出されたの?」

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