00.プロローグ
本小説は前作「はじめまして、幽霊と申します。」と世界観および一部のキャラクターを共有していますが、前作をご覧頂かなくても本作をお読みになる上では全く問題ありません。
ダウンを羽織り、マンションの部屋を出る。
階段をのぼり、少し重い鉄の扉を開くと、そこは屋上だ。
やっと冬が終わったばかりで、夜に外に出れば寒さが身にしみる。
風が吹いていれば尚更だ。
「……寒っ」
独り呟きつつポケットから100円玉を取り出すと、自動販売機に突っ込んだ。
今日は本当に冷える。
寒さのあまり、手をポケットから出すのも億劫である。
かじかむ手でフルーツ牛乳のボタンを押し、下から取り出すと、
フルーツ牛乳の瓶ごと手をダウンのポケットに入れた。
そこで、屋上のドアをどうやって開けるんだと思う。
……自販機が屋上にあるってのも困りもんだね。
心の中で愚痴りながら、仕方なく反対の手をダウンのポケットから出して扉を開けた。
都会の夜空に見える星は、まばらであった。
扉を開けると、階段をのぼってくる少女と目が合う。
「こんばんは、利子ちゃん。奇遇だね」
「……あ。こんばんは、赤月さん」
少女はわずかに頬を緩めて微笑んだ。
「じゃあ」「はい」
すれ違い、階段を降りる。
俺は、振り向くことなく部屋へと戻った。