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首つり屋敷

作者: をはち
掲載日:2026/07/27

心霊写真に写っていたのは俺だった。


鳥海信司の最近の趣味は、空き家や廃墟を巡ることだった。


新しい心霊スポットを探すのがたのしみで、大学の同じ学部に所属する三人の仲間と、週末ごとに夜の探索に出かけていた。


有名な心霊スポットにも足を運び、得体の知れない気配を肌で感じることに、奇妙な高揚を覚えていた。


今夜の目的地は、隣県に伝わる「首つり屋敷」。


夜な夜な電気が灯り、障子に映る人影の首が、異様に長く伸びるという。


信司は胸の高鳴りを抑えきれず、仲間たちと待ち合わせの時間を楽しみにしていた。しかし、夕暮れが迫る頃、スマホが震えた。


先月から付き合い始めた彼女からだった。熱が出て、外にも出られないという。


弱々しい声に、信司は即座に決断した。探索は仲間に任せ、彼女の家へ向かうことにした。


彼女の家は、両親が仕事で海外に長期滞在中の実家だった。一人きりで留守番をしているという。


信司はコンビニで弁当とプリン、スポーツドリンクを買い集め、彼女の枕元に並べた。熱で火照った頰に手を当て、優しく声をかけながら食べさせた。


彼女は微笑み、細い指でスプーンを握った。夜が更けると、熱が再び上がった。


近所の悪ガキどもが一時間ほど騒ぎ立てる声が響いていたが、それがぴたりと止んだ瞬間、彼女は咳き込みながら首をゆっくりと立てた。


まるで、何かに引き上げられるように。薄暗い部屋の灯りの下で、その動きは不自然に長く見えた。


「大丈夫…?」


信司が尋ねると、彼女は小さく頷いた。


翌朝、熱はすっかり引いていた。信司は彼女の額に軽くキスをし、家を出た。


大学に向かう道中、スマホの通知に気づいた。着信履歴が鬼のように並んでいる。仲間たちからのものばかりだった。


昨夜は一度も鳴らなかったはずなのに――


大学に着くなり、三人が駆け寄ってきた。


「お前、大丈夫か!?」


彼らは信司の肩を掴み、スマホの画面を突きつけた。昨夜、首つり屋敷で撮影したという写真だった。


画面に映っていたのは、薄暗い和室。障子越しに淡い光が漏れ、畳の上に座る信司の姿があった。


そしてその隣に、女が寄り添うように座っている。女には、顔がなかった。ただ白く平坦な面が、首から上に乗っているだけだ。


それなのに、信司の肩に細い指をかけ、親しげに体を寄せていた。


その部屋は、紛れもなく昨夜、信司が彼女と過ごした実家の居間だった。家具の配置、カーテンの柄、枕元のプリンの空容器まで、すべて一致していた。


信司の背筋を、冷たいものがつたった。慌てて彼女の連絡先を開こうとしたが、番号が消えていた。履歴も、メッセージのやり取りも、一切残っていない。


どうやって彼女と知り合ったのかさえ、思い出せなかった。出会いの記憶が、霧のように薄れていく。


ただ一つ、はっきりと思い出せるものがあった。昨夜、悪ガキの声が消えたあと、彼女が首を立てた瞬間。障子に映った影が、異様に長く伸びていたこと。


そして、彼女が囁いた一言。


「…来てくれて、嬉しい」


信司は震える指で、首の後ろに触れた。


そこに、誰かの細い指の感触が、まだ残っているような気がした。


読んで頂き有り難う御座います。

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