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8/8

8.好かれただけ、よかったのかな


「ねえ、梢ちゃん」

「なあに、のぞみん」

「男子に嫌われる女子の行動、教えて」


 今日は学校行事で、高校がある町内のゴミ拾い。

 私は友達の梢ちゃんと一緒にゴミを捜し歩きながら、ついでに質問も。

 一応さりげなく聞いたのだが、梢ちゃんは足を止めてまで考えてしまった。

 彼女は普段恋バナもしないからね。意外に難しい質問だったのかも。


「梢ちゃん、悩まなくていいよ。想像で」

「……あっ、女子に嫌われる男子の行動ならわかる! のぞみん、それじゃだめ?」

「いいよーそれで」


 やはり梢ちゃんにはわからない質問だったんだな。

 私だってよくわからないから、とりあえず友達の梢ちゃんに聞いてみただけ。

 でもまあ逆でもいっか。梢ちゃんには女子に嫌われる男子の行動を教えてもらおう。


「えっとねー、私は一番好きなおかずを最後にとっておくタイプなんだけど、勝手に残してるって決めつけて横取りしちゃう奴、ほんっと嫌い! ムカつく!」


 梢ちゃんの答えは予想以上にお子ちゃまだった。

 これは兄弟喧嘩のようなものだね…………あ、なるほど。


「梢ちゃん、昨日凛君に横取りされてたもんね。お弁当のおかず」

「そーなの! 昨日はエビフライ! その前はねー、えーと何だっけ……そうそう! 酢豚のパイナップル! 私が一番好きなやつ! くー! また腹立ってきたー!」


 私が要らぬ質問したせいで、梢ちゃんの血圧まで上昇させてしまったかも。

 普段は大人しい彼女だが、幼馴染の凛君を思い出すだけでいつも怒り気味。

 生まれた時から家が隣同士で、小中だけじゃなく現在高校まで一緒だから、いつも何かとバチバチしているのだ。

 

「あいつはね、生まれた前から横取り魔なの! 私より三十五日早く生まれたから凛なんだよ。私は梢なのにっ」


 当然これはただの僻み。梢ちゃんは自分の名前がコンプレックスらしく、とにかく昔から可愛い名前の凛君が妬ましいらしい。


「あっ、そうだ。凛に聞いてみる?」

「何を?」

「のぞみんの質問! えーと、男子に嫌われる女子の行動?」

「あーそれはもういいかな。わざわざ聞くほどでもないから」

「えーでも、あいつだったらポンポン出てくるよ。昔から私の悪口言うの大得意だから。私に嫌われるのがあいつの趣味」

「あ……あれ凛君じゃない?」


 噂をすればの凛君をちょうど見つけた。

 トングとゴミ袋を持ちながら軽やかに走ってきただけで、梢ちゃんは「うわーヤダ―、こっち来たー」と身震いするほど毛嫌いする。

 でも同じ高校を選んだ時点で仲良しだと思うんだけどね。


「コズー、ゴミちょーだい」

「やだっ、自分で拾え!」

「半分でいいから」

「あっ、返せバカ!」


 出た、凛君得意の横取り。

 ゴミ袋に半分以上のゴミを拾わなきゃ学校に帰れないせいで、梢ちゃんがせっかく拾ったゴミは半分以下になっちゃった。

 これじゃまだ当分帰れないな。私も頑張って拾って、梢ちゃんに恵もう。


 ……それにしても、梢ちゃんって凛君限定で超鈍感なんだろうな。

 凛君っていつも梢ちゃんからしか横取りしないし、梢ちゃんしかあだ名で呼ばないし、私を含め他の女子とは一切絡まないのに。

 どうせ高校が一緒なのも、凛君が梢ちゃんを追っかけただけだろう。


 本当は梢ちゃんが大好きな凛君。


「凛ムカつく! どっか行け! 一生視界から消えろ!」


 梢ちゃんは凛君の気持ちにまったく気付かないから、ここまで言ってしまう。

 私の目にはあからさまなのに。

 わざと梢ちゃん限定で意地悪する凛君が、逆に邪険にされればちゃんと寂しそうなことも。

 どうしようもない天邪鬼だな、凛君。


 「コズのバーカ、チビガリー」と子供みたいな悪口を残して、凛君はまた去ってしまった。

 好きな子には超不器用・超天邪鬼な凛君の代わりに、なぜか私の鼻がツンとする。

 どうやら同情して、切なくなってしまったようだ。


 ――鼻がツンとしたついでに、私はなぜか剣城君を思い出した。


 昨日、散々傷つけてしまった男子。しかも、今日は懲りずに彼に嫌われる方法まで探ろうとした。

 すべては彼から逃げたいばかりに。 


(好かれただけ、よかったのかな……)


 凛君に同情したのをきっかけに、剣城君からの好意に対して初めて考え直させられる。

 本来、人から好意を抱かれることは幸せなのだ。嫌がることではない。

 影が薄い三軍女子の私には奇跡に近い。ましてや好きになってくれた相手は、クラスメイト全員が憧れるような剣城君。

 私だって、男子から嫌われるより好かれた方が百倍幸いに決まってる。


 剣城君から好かれたことはむしろ贅沢でしかないのに、昨日の私は自分可愛さでわざと逃げて、彼を傷つけた。

 彼が傍にいることで、自分も目立ちたくないばかりに。


 これからの人生、男子に好かれることはもうないかもしれない。

 剣城君が、最初で最後だったら――――


 そんな考えに囚われてしまえば、私は都合よく後悔が生まれた。

 相手が超一軍男子だからとこだわって、逃げている場合じゃないかもと。

 最初で最後かもしれない自分を好いてくれた男子に、勇気を持って向き合うべきじゃないかと。

 この際、周りの目など気にせず。

 後に、今よりずっと大きな後悔をするくらいなら。


(……よし、好きになる努力くらいしよう)


 ゴミ袋とトングを握りしめながら、秘かにそんな決意を固めたのだった。


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