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6.俺だけ見つめたい


 へえ、この公園、久しぶりに来たけどこんなに広かったんだな。

 遊具が集まる場所以外は、池や噴水がある散歩道になってる。

 もう暗いけれど、所々に外灯があるから足元も安心。


「ここ、座るか」

「……うん」


 そうだった。広い公園に感心してる場合でもなかった。

 散歩道にいくつか置かれているベンチの一つに促され、私は久しぶりにかなりギクシャク。

 剣城君の隣に座るだけの行動に、どうしてこんなに緊張感を孕むのか。

 三軍女子だからですね。えーえーわかってますよ。

 

 まだコンビニを出て数分程度なので、剣城君に渡された雪見まんじゅうもちょうど柔らかくなった程度だろう。

 剣城君は夏にピッタリのソーダアイス。

 超一軍男子が食べるだけでソーダアイスに特別感まで生まれる。さすが。


 あーでも、さっさと雪見まんじゅう食べないとー。

 食うのおせえなこいつ、なんて思われたら申し訳ない。


「佐久間、それ好きだよな」

「……え?」

「土曜日の部活帰り、それ食ってんの見たことある」


 中学時代は合唱部だった私は、確かに土曜日の部活帰りだけ友達とコンビニに寄り道していた。

 アイスを買うならやはり雪見まんじゅうだったので、剣城君の目撃情報は真実だろう。

 今更教えられた私は羞恥と共に、中学時代の剣城君はちゃんと自分のことを知ってたんだと実感させられる。


「……よく覚えてるね」

「雪見まんじゅうか? いや、俺は食わねえから、逆に気になって……」

「雪見まんじゅうもだけど……私のこと。私なんて、クラスにいるかどうかもわからない程度だったのに」


 これは自虐じゃなく事実だ。

 そもそも容姿も性格も目立たない上に、私自身が目立つことを避けたので、教室ではいつも同じような友達とこっそりしていた。

 わざと隅でお喋りしたり。


 休み時間に騒いで大声を出すなど、一度だって経験しなかった。

 それが中学時代の私で、高校生になった今も変わらない。

 いまだに一軍のクラスメイトには名前を間違われてしまう。


「覚えてる。佐久間のことは……どんな些細なことだって」


 剣城君はそう口にしてから、残り半分ほどのアイスを一気になくしてしまった。

 そのあと急に頭を抱えたので、一気食いの後遺症が出たのだろう。

 そのまま頭を抱え続ける剣城君は、「こんな早く食わなきゃよかった……」と後悔した。


「これ食べて」


 私は雪見まんじゅうを一個食べ終えてから、残りの一個を差し出す。

 剣城君もようやく頭を上げた。


「雪見まんじゅう、気になるんでしょ?」

「……それは、佐久間が食ってたから」

「そっか、じゃあ食べてみて。私が一番好きなアイス」


 剣城君の気になるアイスが自分きっかけだと知り、自然と嬉しくなった。

 彼に対して初めて笑顔も生まれるまま、さらにアイスを勧めてしまう。

 彼が受け取ってくれると、私はようやく「あっ」と気付いた。


「ごめん、フォークないよね。その棒で食べれる?」


 雪見まんじゅうにはプラスチックフォークが付きもの。

 私が使ってしまったので、彼はソーダアイスの棒を使ってもらうしかない。


「……佐久間の貸して」

「……え? でも私、使っちゃったから……あっ、じゃあ洗ってくる」

「いいから、それでいい」


 専用フォークがどうしてもよかったのか、私の手から奪ってしまった。

 本当にそれを使って食べ始めてしまう。


 私はわざと目を逸らした。

 恥ずかしさより、罪悪感めいたもので頭が一杯になってしまう。

 三軍女子と間接キスなど、剣城君なら一生経験しなくても済んだのに。

 そんな罪悪感に捉われた時点で、まだまだ彼に対する壁が厚いのだろう。どうしたって違いすぎるから。

 雪見まんじゅうも、自分で食べてしまえばよかった。


「うまかった」

「……そっか」

「あのさ、佐久間」


 剣城君がしっかり振り向いたので、その長い足がかすかに届いてしまった。

 二人の足がほんの少し触れ合っただけで、私の身体が勝手にビクリとする。

 剣城君はそうやって私を驚かせても、身体も視線も離してくれなかった。


 彼の勢いを感じて、私はただ硬直状態になる。

 彼は勢いのままに、また口を開いてしまった。


「さっきのことだけど、俺は佐久間がクラスで目立たなくてよかった。本当は、高校でもそうだったらいいと思ってる」


 初めて剣城君の声から必死さが伝わったと共に、二人の足が更にくっついてしまう。

 私は彼の勢いに負けたまま。


「俺だけが、佐久間を見つめたいんだよ」


 さすがにここまで追い詰められながら本心を伝えられれば、石本さん曰くおニブちゃんな私だって気付かないわけにはいかなくなった。

 もしかしたら、彼は自分に好意があるのかと。

 私は勢い余る彼に追い詰められすぎて、逃げ場もないあまりクラクラするだけ。

 どうか、今日はもう勘弁してください。三軍女子にいきなりこんな状況は無理すぎる。


 でも、今日の所はもう帰らせてなんて言えないよね……。

 じゃあ、さっきの彼の必死な言葉に対して返事くらいはしなきゃいけないってこと?

 とりあえず感謝しておく?


「あ……ありがとう」


 今日はもう帰りたいがために、ぎこちない笑顔と共に本当に感謝してしまった。

 しかし私を追い詰める剣城君の目が思いもよらず見開く。ビックリさせたってこと?

 てことは、とりあえず感謝は失敗だった? えー……じゃあ正解は何?


 もしかして、日本人らしく謙遜だった?

 いやいや、私なんて見つめられるほどの者じゃないので……とか言えばよかったの?

 何にしても、超一軍男子との会話は難易度高すぎる。


「……佐久間、それっていいってこと?」

「……え?」

「俺だけが、佐久間を見つめてもいいってことだよな?」


 へええっ? そういうことになっちゃうの? 

 私の感謝は、剣城君にとってそんな解釈に? 

 でもそっか……剣城君は自分だけが私を見つめたいと希望したのだから、私の感謝は言わばOKを出されたってことか。

 ふーん……なるほど。超一軍男子との会話で、返事の多様性を学ばされた気分。

 とりあえず、ありがとう?


 ……いやいや! のん気に感謝してる場合じゃなーい!

 すでにさっき感謝で失敗したのだから、これ以上剣城君には感謝はNG。

 今回の返事はさっき正解だったかもしれない謙遜でいこう。


「いやいや、私なんて剣城君に見つめられるほどの者じゃ……ははは」

「何言ってんだよ。佐久間はこんな可愛いのに」

「……かわ?!」

「まあいいよ、自覚ないのが佐久間だもんな。これからも俺だけがわかってればいい」


 私の謙遜も失敗に終わったのか、剣城君の顔にも言葉にもはっきりとした甘さが生まれてしまった。

 可愛いなんて男子に初めて言われた私は、今こそ謙遜どころか穴があったら入りたい。

 こそばゆすぎるー。


 可愛いと言われて喜べない時点で、可愛くない女子だよね。

 目が節穴だった剣城君も、どうせそのうち気付くだろう。

 なので、今日の所はマジでもう帰りたい。いつまでも夜の公園にいるのも怖くなってきた。


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