5.アイス好き?
「今日、石本さんに何か言われたか?」
今日もこのまま無言かと思いきや、途中で信号待ちついでに問われた。
少し振り向くと、すでに視線を向けられていた。
こういう所も剣城君らしい。話す時は、ちゃんと相手と向き合う感じ。
私なんて話す時だからこそ、なるべく目も合わせたくないのに。
私はうっかり目を合わせてしまったまま、質問に答える。
「……剣城君とは同じクラスだったんだねって確認された。あの……石本さんに説明してくれてありがとう。剣城君が私を送ってくれる理由も」
「理由? ああ……クラスメイトのよしみでってやつか?」
「うん」
「あんなの嘘だよ。佐久間が、どうせ困るから」
「俺と噂になったらバイト辞めそうだし」と付け加えた剣城君、よくわかってらっしゃる。
確かにバイト先で彼との仲を誤解されたら、私はそれだけで怖気づいてしまう。
じゃあ剣城君はそんな私まで予想した上で、石本さんを誤解させないようにしてくれたのか。
超一軍男子ともなれば、ここまで配慮できるのか。
今はそんな感心と共に、純粋な感謝の気持ちが生まれる。
正直、彼に送られるのは怖いとか辛いとか嫌とかマイナス感情しか生まれなかったけど、今は初めて忘れてしまった。
自分が良かれと思った行動を押し付けるだけじゃなく、相手の気持ちを慮ばる彼がさすがすぎて。
それに、私は彼が超一軍男子じゃなければマイナス感情だって生まなかったのだ。
裏を返せば、私が勝手に分厚い壁を作って彼を差別していただけ。自分とは真逆の別人種だからと、受け入れたくなくて。
実際の彼は親切なだけにすぎないのに。
だったら、ようやく私の方が変わらなきゃいけないのかも。
まずは分厚い壁を薄壁くらいにはしなきゃ。
「あの、剣城君はアイス好き?」
「……アイス?」
「よかったら、奢りたいなと思って……いつも送ってもらうお礼に」
信号は青になってしまったが、彼に対し勇気を出している私は気付けないまま。
彼の反応くらいは怖がり目を逸らしていると、俯き加減になった私の目に、なぜか彼の小さなガッツポーズが見えた。
もしかして、そんなにアイス奢られるの嬉しかった?
人は見かけによらないな……。
こんな大人っぽい剣城君も、まだまだ子供ってことだよね。
「俺が奢る」
「……え? 何で? それじゃ意味な……」
「いいから行くぞ。そこのコンビニでいいよな」
えええー……何でこんな時まで傍若無人なの?
もしかして王様らしくプライド高すぎて、一見下僕のような私に奢られるなんて恥ってこと?
そんなプライド捨てちゃいなよー。奢られるアイスほど美味しいものはないよ?
しかも剣城君が向かってしまったのは、バイト先からそう離れていないコンビニ。
家の近くのコンビニでアイス買わなきゃ溶けちゃうのに。
……まあいっか、家に帰ってからもう一度冷やせば。
とりあえず今は剣城君の後を追わねば。
結局、剣城君は私の分のアイスも買ってくれた。
私も今日のところは諦めて、今度事前に用意したお菓子でもあげることにする。
奢られるのは嫌なら、プレゼント方式にすればいいのだ。
私だって送ってもらうお礼くらい、ちゃんとしなきゃいけないのだから。
「剣城君、アイスありがとう」
コンビニを出てから、改めてお礼を言う。
二人分のアイスが入った袋を持つ剣城君は、なぜかコンビニの斜め向かい辺りに視線を向けた。
「あっちに、でかい公園あったよな」
「え? うん……」
「そこで食おう」
え……えええー、まさかそういう展開? これは予想できなかったよ。
つまり、これからわざわざ公園に寄り道して、二人でアイス食べなきゃならない?
だったら食べ歩きにしようよ! 私も今日は行儀悪くそうするから、それで勘弁して!
「剣城君、歩きながら食べない?」
「いや、だめだ」
なぜ!? 食べ歩きは法律違反じゃないよ!
「佐久間、どうせ落としそう」
「……あ」
そうだった……私が奢ってもらったアイスは雪見まんじゅう。確かに食べ歩きには向かない。
剣城君が言った通り、私なら落とす可能性大。
「公園行くぞ。溶ける」
はいはい、行きますよ行きます。
今日は奢ってもらった身分ですからね。もう抵抗しませんよ。
でも公園で剣城君とアイスか……。そんなハイレベルな挑戦、所詮ビビりな私に耐えられるかな。
せっかく奢ってもらったアイスの味もわからなかったりして。
そんな不安と残念感ばかりで、コンビニの斜め奥にある公園へ入ってしまうと――――




