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4.送りたいから


「希美ちゃーん、何で言ってくれなかったのー? ケチー」

「……何のことですか?」

「とぼけちゃってー。T君、中学のクラスメイトなんだって?」


 ……あ、何だ、そのことか。

 商品陳列する私にわざわざ近づいた石本さんは、むしろ安心させてくれた。

 その程度の事実を知られても、全く問題ない。

 どうしても隠し通したいのは、彼に送られていることのみ。


「石本さん、レジ行かなくていいんですか?」

「大丈夫、まだ混んでないから。それより、私が何で知っちゃったか気にならない?」 


 あ……そういえばそうだね。そのくらいは確かに気になる。

 正確には、石本さんの情報網がどこの誰と繋がっているのか。

 もしや、私と同じ中学出身のお客さんか?


「石本さん、お客さんとも繋がってるんですか?」

「お客さん? 違う違う、もっと単純」

「え? じゃあ……あっ、店長?」

「もー希美ちゃん鈍すぎ。T君本人に決まってるじゃん」


 T君……へ? 剣城君が石本さんに喋ったってこと?

 私と同クラだったって? うそー。


「それはありえませんよ」

「へ? なぜ否定?」

「だって剣……T君、私が同じクラスにいたことも気付いてなかったと思いますし……」


 あーあ、とうとう私も剣城君をT君呼びしちゃった。

 もー、石本さんが仕事中に剣城君の話振ってくるからー。


「……希美ちゃん、アホ?」

「……ひどっ。私、人生で初めてアホって言われました。しかも真顔でっ」

「だってアホやん。剣城君と二年も一緒だったんでしょ? さすがに覚えてないわけないよ。希美ちゃんがどんなに影薄くても」


 石本さん、一言多い! しかも最後の一言、一番気にしてるやつだから!


「それにT君言ってたよ? 希美ちゃんは元クラスメイトのよしみで送ってるって」

「……ヒッ! い、石本さん、今なんて……?」

「だから、私見ちゃったの。一昨日希美ちゃんとT君が一緒に帰ってるところ。それで私、昨日T君に確認したのよ。付き合ってるのー?って。そしたらT君が、クラスメイトだったことも教えてくれたの」


 石本さんがここまで教えてくれたお陰で、私はすぐ危機から脱せた。

 剣城君に送られていることがバレて疑われることを最も案じていたが、確かに石本さんにはバレてしまっても剣城君が対処してくれたらしい。

 私とは元クラスメイトという事実を明かしたのも、剣城君が疑われたからだったのか。


 よかった、昨日私はバイト休みで。

 石本さんが私に問い詰めてきたらパニックになるだけだったかも。

 剣城君ナイス!


 ……でも剣城君、元クラスメイトのよしみで送ってくれてるのか。

 石本さん経由で彼の意図がわかってよかったと思う反面、少し複雑。

 やっぱり彼は正義感が強いから、元クラスメイトを放っておけない感覚なんだな。

 もしかして正義感が強いだけじゃなく、お人好し……?


「まあ他のT君ファンにバレたら、私が説明しとくから。希美ちゃんはT君のクラスメイトだったから送ってもらえるんだって」

「……石本さん、他のT君ファンって誰ですか?」

「え? そりゃパートの田代さんと本宮さんと佐藤さんと、あとはバイトの 琴音ちゃんと楠本君も」


 すでにけっこうな数だなおい……しかも年上男性の楠本さんまでT君ファンとは。

 でも、最初にバレたのが石本さんでよかった。

 石本さんがフォローしてくれれば、五人のT君ファンを敵に回さず済みそうだ。

 とりあえず石本さんにはちゃんと頭下げておこう。


「石本さん、ありがとうございますっ。よろしくお願いしますっ」

「……うーん、あとは希美ちゃんがおニブちゃんじゃなければ報われるんだけどね」

「へ? おニブちゃん? ちょっと石本さん、私は鈍感じゃないですよ」

「はいはい、おニブちゃんは大抵そう言うんだよねー。あっ、私レジ行かなきゃ」


 こうして私はおニブちゃんにされたまま逃げられてしまった。

 そればかりは癪だが、あとは石本さんに感謝だし、何より今日は剣城君がバイト休み。

 今日は彼に送られないだけで非常に安心できる私はつい表情にも出たまま、いつもより効率よく商品陳列をこなした。



(ふふふ……今日はコンビニでアイス買お♡)


 こんなことで今日(いち)ウキウキしてしまうなんて、私ってなんて安上がり。

 でも本当はコンビニじゃなくて、バイトしてるドラッグストアで買った方が安いんだけどね。

 さすがに家に着いた頃には溶けちゃうからコンビニなのだ。


 しかも最近は剣城君に送ってもらうことが多いから、アイスを買って帰りたくても叶わなかったりと多少不満が溜まっていた。

 剣城君がバイト休みの今日、帰り道のコンビニに寄れるだけでもストレス発散。ふふふ。


 しかしニヤニヤしながら裏口から出ると、剣城君がいなくて喜んだ罰が当たったかのように彼の姿を発見。

 しかも、いつも通り自転車置き場の前にいるではないか。なぜ? 

 今日はバイト休みでしょ?


 そんな動揺で一度足を止めつつ、否が応でも先へ進まなければならない。

 すでに彼の視線も向けられてしまったが、お願い剣城君、今日は別の用事でそこにいて。


「よう」

「こ……んばんは」


 よし、今日もギリギリどもらなかったぞ。剣城君に送られ始めてすでに三週間、さすがに慣れてきたようだ

 それにお互い挨拶を済ませたから、あとは帰ってもいいよね?


「……じゃあ、さようなら」

「おい、何でだよ」


 えええー……剣城君に初めてツッコまれちゃったよ。

 さすがにさようならのタイミングが早すぎたってこと?

 私、剣城君相手に世間話なんて器用な真似できないよ。でもしなきゃ帰れない雰囲気? これ強制? 

 しょうがないな……じゃあ無難に天気の話でも。


「あの……今日は雨が降りそうだったけど降らなくてよかったね」

「そうだな」


 よし、会話終了。今度こそ帰れるぞ。


「じゃあ帰るか」

「ちょっ……あの剣城君、今日はなぜ……」

「何だよ」

「いや、今日はバイトなかったよね……?」


 私としては残念にも、今日も送るつもりで待っていたらしい。

 でもバイト休みでもわざわざ来たのが引っかかり、ここは問い詰めなきゃいられない。

 義務感からなら、やめさせなきゃ。

 さすがに剣城君、お人好しが過ぎる。


「送りたいから」

「…………」

「だめか?」

「……それはさすがに悪いよ。バイトある時だけで」

「佐久間は気にしなきゃいいだろ。俺が勝手にしてる」


 二人の間に一旦沈黙が訪れてしまった。

 これ以上どう説得していいかわからなくなると、剣城君はまた勝手に歩き始めてしまう。

 私は今日も付いていくしかなくなった。


 バイトが重なった時は送られるようになって三週間、でも今日の剣城君はバイトがなくても来てしまった。

 ……ということは、私のシフトも把握してるってことだよね。


 でも私だって同じ。どうしても気になって、剣城君のシフトもチェックしてしまう。

 相手のシフトを気にする理由は違うだろうが……。

 剣城君は元クラスメイトへの責任感が強いためで、私は送ってもらいたくないのが本音。


 こんな二人の違いを剣城君は知らないから、バイトがない今日も責任感のみで来てしまったのか。「送りたいから」なんて嘘までついて。

 せめて私が影薄い三軍女子じゃなくて、気が合う一軍女子だったら、剣城君も送るのが楽しいのかな。

 私とじゃつまらないから、三週間経っても会話など弾むわけがないし、いつもほぼ無言。

 本当は、互いに苦痛な十五分間か。

 せめて家まで五分だったらよかった。


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