2.送ってもらうなんて無理!
「あっ、今日冷食30%OFFだった。買って帰らなきゃ」
「よかったですねー忘れなくて。30%OFF、大きいですよね」
「うんうん、そうなんだよ。なんせ毎日五人分だから」
私のバイト時間は、平日の夕方五時から八時まで。
今日同じ時間に上がったパートの石本さんはけっこう仲良しで、帰る前にロッカールームでお喋り。
「幼稚園生のお弁当は、やっぱり可愛くするんですか? キャラ弁とか」
「そんなのたまーにだよ! やってらんないって、あんなの」
「へぇ、でもたまーにやってあげるんですね。石本さん優し~」
石本さんは子供が四人いて、この時間は旦那さんが子供の面倒を見てくれるそうだ。
とにかくパワフルだし、気さくに仕事を教えてくれた優しい石本さんとはずっと一緒に働きたいなとこっそり思っている。
「希美ちゃん、今日T君と一緒だったね。どうだった?」
ついでに下世話な話も好きな石本さんは、わざわざ剣城君を"T君"と呼んでいる。
剣城君の話題を本人に聞かれたら気まずいからだろうが、陰でT君と呼んでるのをバレた時の方が気まずいだろうに。
なので、私は決してT君とは呼ばない。
「商品陳列、私の三倍早くてビックリしました。シゴデキ君でした……」
「……それだけ? 色気ないなぁ。希美ちゃんはT君と同い年なんだから、もっとキャーキャー言いなよ」
「やですよー。石本さんがキャーキャー言えばいいじゃないですか」
「えー? じゃあ二人で言おうよ。キャー!」
今日はロッカールームで騒ぎすぎてから、二人はようやく別れる。
石本さんは冷凍食品を買いに再び店内へ、私は裏口から出た。
(T君か……剣城君、いつ気付くかな)
剣城君をT君と呼び始めたのは間違いなく石本さんだが、実は他のパートさんもすでに真似している。
皆それだけ剣城君を話題の対象にしている証拠だが、これじゃ本人にバレるのも時間の問題だろう。
そんなことを考えながら家路につき始めると、自転車置き場の前にいた噂のT君こと剣城君を発見してしまった。
この偶然に気まずさを覚え、さっさと通りすぎることに。
でも挨拶はしなきゃ。
「お疲れ様でしたー」
「歩き?」
「……え?」
「家まで」
え? やっぱりこれって私に話しかけてるの?
たったいま剣城君の前を通り掛かったのは私だけなので、間違いないよね?
何より、剣城君の視線もしっかり私に向けられている……。
とりあえず彼の質問に答えなきゃ。
「歩きだけど……」
「じゃあ送る」
……へ? へえええ!?
やだやだ、何で!? 何で退勤時間が重なっただけでそんな展開になるの!?
剣城君に送ってもらうなんて無理無理!
「あの、大丈夫。一人で……」
「行くぞ」
……うわぁぁぁ! 忘れてたぁ! 剣城君って実はこういう人だったぁぁ!
まさに超一軍男子らしく傍若無人!
中学時代も彼の一言でクラス全体を動かしていたことは、さすがに覚えている。
たった今「行くぞ」と言われれば、私はすごすごと付いていく選択しか与えられず。
これぞ三軍女子の見本…………いや、クラスを支配していた剣城君にかかれば誰だって一緒だろう。
もはや王様に従い三メートル離れて歩く召使いの如く、私は先を行く彼に続いた。
「おい」
「……はっ、はい」
「隣歩けよ。家わかんねえだろ」
そんな! 恐れ多いです! と顔をブンブンしたかったが、わざわざ振り返られれば言う通りにするしかない。
王様の命令は絶対ってことね。
……もしかして、このままパシリになる運命なのかな。
送るとは言われたけど、そもそも王様がそんなことするわけないもんね。
本当は下僕にする目的で、送るとそそのかしただけで……。
うわぁぁ、マイナス思考にしか行きつかん。
それでも剣城君の命令には背けないまま、隣に並んでしまう。
私がこっそりプルプルしているなど全く気付いてもらえず、剣城君はまた歩き始めてしまった。
「家、どっちだよ」
「は、はい。右、右です。はい」
こうして剣城君がアルバイトを始めて一週間が経ち、私は初めて彼とちゃんと関わったのだ。
今日が始まりだとも気付かず。




