1.バイト仲間の剣城君
高校生になってすぐ、私――佐久間 希美はアルバイトを始めた。
アルバイト先は、家から一番近いドラッグストア。
アルバイトを始めて二か月が過ぎ、ずいぶん慣れた頃、新たに男子高校生が仲間入りした。
偶然にも彼は中学時代のクラスメイトで、名前は剣城君。
といっても、一度として喋ったことはない。
彼は言わば一軍男子で、その中でもトップに君臨するような人だから。
教室の隅で同類の友達とこっそりしていた私など、わざわざ視線を向けるのも恐れ多かった。
そのせいで、バイト仲間になってしまった剣城君には大いに戸惑った。
口もきいたことがない超一軍男子と、これからは嫌でも関わらなきゃいけないのだ。
しかし、すぐに取り越し苦労だとわかる。
私は主にレジ担当で、剣城君は裏方。
その時点で大した関わりが生まれない上、おそらく彼は私が元クラスメイトとさえ思っていない様子。
つまり中学時代の私は影が薄すぎて、彼の頭に記憶されなかったらしい。
よかった……これはラッキー。
超一軍男子に覚えられない方が幸せな私は、性根から三軍女子。
剣城君には初対面のフリして接すればいいとわかり、彼との再会から三日経ってようやく安心した。
※ ※ ※
今日も学校帰り、バイト先に直行した私は裏口から入ると、ロッカールームに入る前にピタッと足を止めた。
すでに先客がいて、その長身の後ろ姿は間違いなく剣城君だった。
き、気まずい……。
いやいや、勝手に気まずいのは私だけで、剣城君は何とも思ってないって。
「……おはようございます」
「おはようございます」
ホッ……普通に挨拶が返ってきた。
三軍女子は超一軍男子に無視されて当たり前じゃなかったらしい。
まあ学校じゃなくてバイト先だからね。剣城君は常識があるだけ。
そんな安心をした後は、またギクシャクとロッカーに荷物を仕舞う。
もたもたとエプロンを付けているうちに、剣城君はロッカールームから離れた。
そういや彼も学校終わりのアルバイトが主だからシフトが被るんだなと、私は今日初めて実感したのだった。
※ ※ ※
(は、早い……)
剣城君がアルバイトに入って一週間経ち、今日初めて彼と一緒に商品陳列作業に入った。
しかし私の方が二か月先輩だというのに、彼の仕事スピードに全く追いつけず。
確かに私は主にレジ担当だが、商品陳列だって何度も経験してるのだ。
それなのに、バイトを始めて一週間の剣城君にここまで差をつけられるなんて。
商品陳列開始から約一時間、おそらく剣城君は私の二倍の仕事量をこなしている。いや、もしかしたら三倍?
これじゃ私の時給三分の二を剣城君にあげなきゃ、割に合わない?
ごめんなさい剣城君、それだけは勘弁してください。
残りの仕事はすべて私に任せることで、チャラにして。
「え? ない……」
残りはすべて自分がと意気込み、新たに陳列する在庫を持ってくるためバックヤードに戻るも、すでにダンボールがなくなっていた。
「あー、もう剣城君が終わらせたみたいよ。よかったね佐久間さん、あとはレジ入って」
「は、はい……すみません……」
剣城君に三倍以上の仕事を取られ、ほぼ役立たずのままレジへ向かう。
その途中、剣城君の姿を発見。
彼は天井近くまでトイレットペーパーを積み上げていた。脚立を使ったあの作業を、あんなスピーディーかつ軽々とこなすなんて……。
きっと私だったら任せてももらえない。今日だって陳列したのはお菓子のみ。
増々仕事のできなさを実感してこっそり落ち込みながら、レジ作業に入った。




