9『天元突破の山』
「できたか?」
「できてるわけないでしょ、さっきですよ預かったの」
まったく飛べないのはなぜだろう、そんな顔をしては大釜に乗り直し地表から少し浮く、進む。海で浮くんだから空へも行けるだろう。そう思ってる。なぜここまで使った自分という機体の性能を使えないのか、本人は左半身を魔力で包み少しだけ動かせるようにした魔法を、『身体強化』と名付けたようだが、絶対違うと思いますよ。それでももはや、大気圏内最強になってしまってるぶんだけすごいっちゃぁすごい。
海の上は喫水線までは当然海の中だ。だが地表では大釜の底が若干浮いている。本人はなぜこれを理解しようとしないのか。まぁそれができれば左半身も動かせるのだが海に出ては跳ね返されるように戻って来る。そして鎌の進捗を訪ねる。
1日に何度も来られる研屋も3日後には目の下にクマを作って大鎌を渡した。いつも飛ぶ練習をしていた平原に今日は数百人の傭兵や冒険者などが集合していた。
「おい、お前、伝説の魔王だろ。こちとら最近暴れる場所がなくってな。貴族様が勝手にビビってあんたに賞金が掛かったんだ、それもこの大陸の国前部を敵に回したってことにもなった。で、これだけの連中が集まってもみんなが豊かになるって程の金額だ。あんたに恨みなどないが、自分の容姿を恨みながら死ね」
「断る【グアッ】」
一瞬だった。一瞬で全員がつぶれた。魔法も強化されているのは当然としても、強すぎるのか、それとも人間がもろすぎるのか。離れた場所で見届けようとしていた者たちはそっとその場を離れるはずだったのだが、一人残らず【グアッ】の反転でスカルダーの目の前まで連れてこられる。スカルダーは閃いた。
もう一度【グアッ】と叫ぶと10数人の人間があっという間に飛び上がった。おそらく雲の高さあたりまでは飛んで行ったのだろう。いつの間に魔法を解いたのかは分からないが、人が降ってきては爆散する。
それを眺めながら、いそいそと大釜に乗り直し、【グアッ】と叫ぶと大釜が高く浮いた。そのまま隣の大きな山の大陸へと移動していった。
研ぎ屋は泣いていいと思う。この日魔王と呼ばれたものが飛び去って行ったのを確認できたものはいなかった。ただ一部の人たちはああ、あの空飛んでた人だろうなぁと思っても口には出さないのであった。
そこは巨木が密集した森だった。北半球の大陸ではこの巨木の前ではやせ細った枯れそうな木でしかないその木が1本だけあるのだが。大鎌では到底抜けるのが無理だったため薙ぎ倒して進むか上空を飛び越えるかの2択だったが、せっかく飛び越えてきた大陸間の高さの維持を考えた。アホウは切り倒し始めた。その木々は世界樹と呼ばれていた。
体中に矢が突き刺さ、らない。気にもせずに外延部から3本目の世界樹を大鎌で一息に切り倒す。これではこの森を抜けるのはいつになるのだろうかと思い込んでいると。
「おいっ、やめろ。ここは神聖なる世界樹の森だ。これ以上世界樹を切り倒すようならうっわ~~~化け物だーーー」
「皆の衆ーっここだ今回はここから切り倒すぞ」
「おお、これ以上この木が増え続けたらさらにわれらの居住地が小さくなる。やるぞー」
「獣人どもに好き勝手されるわけにはいかん、みんなきょうはこっちだー絶対に守れー」
世界樹の森を守っているのは、は~当然エルフだ。しかも世界樹が森になるほど生えているなど聞いたためしがない。だがこの山の大陸では違った。魔法が通じないのだ。故にスカルダーも大鎌で切り倒していたのだが、魔法が通じないのはスカルダーや2号といったオリハルコン由来のものと、自称神とラムダのように別世界から来たから(召喚ではない)といった理屈でもない。
普段の獣人たちなら最低でもミスリル製の斧や鋸といった道具で2日がかりで1本倒すのが精いっぱいだったが今日は誰かがいきなり3本もの巨木を切り倒してくれたおかげでエルフのマークがあちらに移ったというわけだ。
「貴様、ここひと月で百本以上の世界樹を引っこ抜いて行ったやつの仲間か」
「許せん」
「おーいみんなーティラノンだーティラノンが出たぞー」
「あいつらー、こんな時に」
「東にティラノン、北に獣人、北西に得体のしれない恐ろしげなやつ。どうする」
「一番やばいのは世界樹泥棒のあいつだ。最初はハイエルフかと思ったほどの美形だったが」
「まずは、あいつが来ないことを祈ろう。ティラノンは何体だ。」
「一体」
「放置」
「獣人は」
「後回しでいい、まずはあそこで軽々と伐採してくれてるあいつだ」
「われらの矢が一本も刺さらなかったんだぞ」
「世界樹泥棒にも通じなかったな」
「あっちは恐竜みたいなはじき返し方だったが、そいつはドラゴンのようだった」
ふぁ~あ。ん?終わったか?まぁそんな感じで。
「おい、貴様今ドラゴンと言ったか?ドラゴンもここへ来るのか?」
「い、いや、ドラゴンはここには来ないでもっと上を飛んで行くだけだ」
いそいそと森の外に置いてあった大釜に乗り込んだスカルダーは【グアッ】と叫びはるか上空へと消えて行った。
雲を下に見てもまだまだ上が遠い。未だこの山は頂上が見えない。世界樹の森などもはや見えないというのに。この辺まで来るとただの氷が立ち塞がってるようにしか見えない。
もう氷さえ見えなくなってただの裸山になっていた。そう裸山だ。やっと頂上が見える程度まで登って来てやはり山だったのだな、とつぶやくスカルダー。水も空気も必要のない種族は、ドラゴンでさえ登れない場まで来ていた。凍り付かない高さが気になって仕方がない研究者魂をそっとその場に置いてまた昇り始めた。
上から何かが転がり落ちてきた。魚だ、でかい、スカルダーの身の丈ほどもあろうかという大きさの魚だ焼け焦げているところもあるようだが、それを求めて魚を止めに行った。おい、さっきの場所に置いて来たんじゃなかったのかそれ。
頭からガブッと噛り付かれたスカルダーは少し驚いた。とても魚臭いとはならなかっただけでも褒めてやるよ。実際海でも川でもない宇宙空間が居住地なのだから。おそらく大気圏内にエサを求めたいつもの群体行動の一種で弱いものは生き残って種を反映させないごく自然な行動の一種だろう。が、ただの魔法研究者には研究の余地が無いだけである。
あーあ、今のこいつには研究の余地があるようで力任せに引き、裂けない。やはり左腕か、こいつは今にしてみれば、その魚と同じではないのか。噛みついている魚の真ん中あたりを大鎌でぶった切ると残りの分を右手で穿り返し視界を確保しようと思ったが何の事はない見えていたからこその一連の流れであって、視界は確保されていたから大鎌も持ち直していたのだから。大鎌に乗り直しそのまま上り始めると今度は2号が
「あら、久し振りじゃない?どうなったら、ああ、もういいわ聞こえないのでしょう}
じゃぁね。とだけ告げると消えた。
スカルダーは自分とお揃いになってしまった2号のコートがボロボロなのを見ていた。自分のコートは新品同様なのに。あの方はどこまで先を進んでいるのだろうか。そう考えた宇宙ピラニアマスクは、さらなる登山へと戻っていった。
山頂まで少しといったところで頭部に装着している魚の群れが襲い掛かって来る。大鎌を振って一匹二匹と切り裂くもこの大きさの群れには間に合わない。体中噛みつかれるがコートですら無傷。自分が甘やかせられていると感じた頃には山に向かって投げ出された後だった。どこにもケガや変化もないのだがどこか自分に嚙みついた魚と自分は同じように感じられる。あれが強さの基準値が1だというのだから。赤道直下列島でも感じなかった壁が見えた気がした。




